Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

AI経理 良い合理化 最悪の自動化

著者は「フリーランスの経理」として経理業務や組織改善の提案をされているコンサルタントの方です。
本書における「AI」とは、純粋な人工知能だけでなくクラウド、フィンテック、IoT、RPAをも含む広い概念を指しています。
クラウド会計は部分的にAIを利用しており、中小企業・フリーランスにとってもっとも身近な「AI経理」といえるでしょう。

AIの導入前に工夫が必要

お客様にクラウド会計を強くおすすめしているヤマグチですが、そのメリットを享受するにはコツがいることは先日のブログ「クラウド会計の先にあるもの」でご紹介のとおりです。
クラウド会計は定型的作業を自動化させるのに向いていますから、取引の流れを定型化すればするほど経理の自動化がすすみます。
逆に、イレギュラーな取引が多い業態ではクラウド会計を導入して得られるメリットは限定的です。
イレギュラーな取引にも対応できるAIを開発するために多額の投資をすることは研究目的としての意義はありますが、ビジネス的には割にあいません。

本書を読み終えて確信したことは、AIが完全に人にとって代わることは不可能だということです。
なぜなら、AIを導入する前に、AIに任せられるように人が作業を定型化する工程が必要だからです。
その工程がうまくいくかどうかは担当する人間がどのくらいAIを理解しているかにかかってきますし、その工程の成否によってAI導入の効果もかわってきます。
なんでもAI化ありきのAI導入ではなく、AIに任せるとかえってこじれそうな業務はこれまでどおり人間に任せるというアプローチが正しいAI導入のアプローチだと本書は説きます。

その意味で、これから経理業務にAIを導入する経営者や担当者にとって本書は良い参考書になるはずです。

AIのお守は人間しかできない

AI経理によって経理担当者をゼロにできるのではとお考えの経営者の方には、ぜひ本書の第2章「経理業務に対する認識違い」をご一読いただきたいと思います。
特にケース17「経理業務は『単一ルール』という誤解」とケース18「経理は現場の都合による『揺らぎの幅』が大きい」は必読です。
この2つこそが「定型化」→「AI化」を阻む経理業務の難しさを言い表しています。
現時点で取引の「定型化」ができたとしても、将来事業規模が大きくなれば、また新たに型破りな取引がでてくるはずです。
よほど高度(すなわち高価)なAIでなければその時の対応まで考えてくれません。

結局のところ、AIとそれをお守する人間の組み合わせが一番安上がりで効率的なAIの運用方法だと思います。
AIのお守をする人間は税理士などの外部者でもよいと思いますが、「現場の都合」に迅速に対応するには、内部者がとりあえずの判断をして業務をすすめて、それを後で税理士が見つけやすいように「目印」をつけておくとよいでしょう。
クラウド会計の種類によっては、実際にそうした機能も用意されています。

こうした人間とAIのコラボこそが「良い合理化」の要と考えます。

高い完全自動化のハードル

第3章「経理を完全自動化させるためにクリアしなければならない具体的な課題」を読めば、AI経理の導入には最初からある程度の「割り切り」が必要だということがわかります。
税制や会計ルールなど事業環境は毎年変化しています。
AIがそういった事業環境の変化に適応するには人間の判断と指示を必要とします。
人間による「修正舵」はこの先も必要だと割り切った方がAIとの付き合い方はうまくいくと思います。
自動操縦が進歩しても緊急事態や悪天候に対応できるパイロットが乗っていれば旅客機の乗客は安心しますよね。
会社の経理にも同じことがいえます。
よほど取引が定型化されない限り、現時点でのAI技術では経理の完全自動化は無理です。
そこを読み違えたままAI経理を導入すると「最悪の自動化」が待っています。

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AI経理 良い合理化 最悪の自動化
前田康二郎〔著〕
日本経済新聞出版社(2018年6月)
ISBN:978-4-532-32213-7
1,600円(税別)

コメント (2)
  1. 前田 より:

    山口先生
    はじめまして。私は「AI経理」の著者の前田と申します。
    この度は先生のブログに拙著を取り上げていただきありがとうございます。
    先生のご解説、補足を拝見して私自身も頭が整理できて大変勉強になりました。
    先生も本年からフリーランスにおなりになられたとのこと、ご活躍を祈念しております。
    どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。
    前田

    1. Takashi YAMAGUCHI より:

      前田康二郎様、

      コメントありがとうございます。
      本を著されたご本人からコメントいただき、驚くと同時に恐縮しております。
      聞くところによると、大企業の経理部門でもシステムがブラックボックス化したり、人を減らしすぎて残った人たちが「良くわからない」まま流れ作業的に業務をこなしているところがけっこうあるようです。
      「AI経理」はそんな会社のCFOの方にこそ手にとっていただきたい本ですね。
      微力(かつ勝手ながら)あちこちで宣伝させていただきます。

      山口剛史

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