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山口 剛史

クラウドを使って税務・会計サービスを提供している税理士です。
中小企業・フリーランスの方々のバックオフィス業務の効率化をお手伝いしております。
国境を越えた取引、日本支店等を通じて日本国内で事業を行っている外国法人の税務も得意分野です。
外国人の方には英語で対応可能です。

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外国人の「死」と「税金」

人が亡くなった後の税金といえば思いつくのは「相続税」ですね。
以前ブログ(人の「死」と「税金」)で「相続税だけでないですよっ」というお話しをしましたが、今回のテーマは相続税です。
しかも、日本にゆかりのある外国人が亡くなった場合という極めてニッチな場面を想定しております。

相続税はグローバルな税制?

日本の相続税は1905年に導入されました。
前年の日露戦争で財政がひっ迫したため新たな財源確保として導入されたようです。
生きているうちに贈与を受ければもらった人(受贈者)に「贈与税」がかかり、相続で遺産を取得すれば相続人に「相続税」がかかるという財産取得課税制度です。

日本以外でも同様の税制を採用している国があります。
アメリカ、イギリスは「遺産税方式」といって、相続人ではなく遺産自体に課税する税制を採用しています。
フランス、ドイツは日本と同じく遺産を取得した相続人に課税する「遺産取得税方式」を採用しています。
カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、スウェーデン、香港、シンガポールにはかつて相続税がありましたが廃止しています。
もともとない国の方が多いようで、相続税は所得税や法人税のような普遍的な税金とまではいえないようです。

外国人が日本で死亡したら?

たとえば、母国に家族を残して日本に単身赴任していた外国人が不幸にして日本で亡くなった場合、日本国内の財産だけでなく母国の財産を相続した家族にまで日本の相続税がかかります。
ちょっと酷な感じもしますが、これは日本人の相続税逃れを防ごうとした結果こうなってしまったんです。

かつては、国外で暮らす外国人が国外の財産を相続しても日本の相続税は課税されない仕組みになっていました。
ところが、この仕組みを利用して、相続税回避目的で国外に移住する日本人が現れるようになりました。
ちょっとずつ財産を国外に移して、最後は生活拠点も移してしまうのです。
一般人にとっては「そこまでやるの?」と思えますが、何十億、何百億という財産をもっている人にとっては、高い税金を払ってまで日本に財産と家族を残すインセンティブは働かないのでしょう。
これを封じる目的で国は2013(平成25)年に相続税法を改正し、相続人の居住実体に応じて日本の相続税を課税するようにしました。

その結果、日本で暮らしている外国人が日本で死亡すると、租税回避の意図がない「生粋の外国人」にまで日本の相続税が課税されることになってしまったのです。
2013年の改正法では、日本に住み始めて間もない外国人が亡くなった場合でも、母国の財産(国外財産)を相続した遺族に相続税が課税される仕組みになっていました。
さすがにこれは酷いということで、一時滞在者(亡くなる前15年間に日本に住んでいた期間が通算10年以下の外国人)を「生粋の外国人」が相続する場合には、国内財産に限って課税するように2017年に改められました。

外国人が外国で死亡したら?

日本で暮らしたことがない外国人が亡くなって、日本で暮らしたことがない遺族が相続する・・という普通のパターンでは日本の相続税の出る幕はありません。
しかし、過去10年以内に一度でも日本に住んだことがある外国人が亡くなると、日本の相続税が適用されます。
そして、課税される財産の範囲は、相続人が過去にどのくらい日本に住んでいたかによって変わってきます。
つまり、亡くなった外国人、相続する外国人ともに日本に住所があったかどうかがポイントになってくるのです。

ならば、形式的に国外に住んでいることにして日本に「住所」がないことにすればこの問題を回避できるのでしょうか?
それも難しいと思います。
確かに、相続税法だけでなく日本の税法全般には何をもって「住所」とみるか明確な規定がありません。
しかし、贈与を受けた国外居住者
の「住所」が争点となった判例(最判平成23年2月18日)で、住所とは「生活の本拠」を指すという極々まっとうな考え方が示されていますから、相続人・被相続人についても同様に判断されると思います。
例えば、日本での勤務を「長期出張」ということにしても、日本で生活しているといえる実体があれば、相続税法上は日本に「住所」を有していることになるでしょう。
ちなみに、この判例は「贈与税回避目的があっても客観的な生活の本拠たる実体が消えるものではなく、贈与税回避については立法で対処すべき」といって国の主張をしりぞけています。
この判例を受けて相続税法が改正され、その結果外国人がとばっちりを受けることになったという説もあります。

***

相続税のことを考えると、外国人にとって日本は安らかに死ねる場所ではなさそうです。
日本で営業している外国銀行が加盟する国際銀行協会は、相続税を理由に日本への赴任を躊躇する外国人が増えるのではないかとの懸念を表明しています。
ごもっともです。

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