Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant
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「暖簾」と「のれん」と法人税

武田薬品工業がアイルランド製薬大手シャイアーを約6兆8千億円で買収(完全子会社化)するそうです。
日本企業によるM&Aとしてはブッチギリの過去最大です。
タケダさんは去年(2017年)もアメリカの製薬会社を約6300億円で買収してますが、今回はその10倍です。
さらにその前にもスイスの製薬会社を約1兆円で(2011年)、アメリカの製薬会社を約9000円億円で(2008年)で買収しています。
爆買いです。

「暖簾」と「のれん」

会計用語でいう「のれん」って聞いたことありますか?
蕎麦屋さんなどの軒先にかかっている「暖簾」と語源は同じです。
他人の商売を譲ってもらうときには、その暖簾や看板を引き継ぐことがあります。
そのお店の評判がよければ、その暖簾を引き継いだ商人はスタート時点からお客さんを見込めますから、ありがたいことです。
前主に腕を認められて「暖簾分け」してもらえた場合なら、なおさらです。
前主の常連さんもひいきにしてくれるかもしれません。
つまりお店といっしょにその「伝統」や「ブランド」も譲り受けたようなものです。
そういった普通お金では計りきれない商売上の価値を会計上「のれん」とよんでいます。
なぜか会計用語ではひらがな表記です。

「のれん」の価値の源

タケダさんの場合、シャイアーの既存株主に「その株譲ってちょ!」とお願いすることになるのですが、シャイアーの収益力を高く見込んでいる株主としては、シャイアーが持つ潜在的な収益力の分まで含めて代金を払ってもらわなければ譲れません。
潜在的な収益力とは、例えば、顧客をひきつける魅力的な商品を開発できるチームの存在や顧客との間に築いてきた信頼関係などです。
タケダさんが自前で開発した大型新薬の特許が次々と切れており、自社開発だけでは劣勢を取り戻せない状態のようです。
そこで新薬をどんどん売って利益をだしてくれそうなシャイアーを子会社にすれば、連結ベースで売上や利益が増えると見込んでいるのでしょう。

シャイアーの純資産は2017年12月期末時点で360憶ドルでしたから、今の為替レートで換算すると4兆円弱です。
それに3兆円もプレミアムをのっけて買うのですから、タケダさんにとってシャイアーの「のれん」はとても魅力的なのでしょう。
しかし、マーケットは7兆円近い買い物で本当に元がとれるか懐疑的なようです。
タケダさんが本気でシャイアーを買収しようとしているというニュースが出てから、武田薬品工業(証券コード4502)の株価は一時20%も下落しました。
ヤマグチもタケダさんの小株主なのでハラハラしながら見守っております。

「のれん」の会計処理

本当に価値があるのかどうかよくわからない「のれん」を買ったときの会計処理はよく議論の対象になります。
国際会計基準(IFRS)は「儲かると思って払ったプレミアムなのだから、本当に価値がないとはっきりするまでは資産として貸借対照表に計上しつづけるべき」派です。
一方、日本の会計基準は「本当に価値があるのかわからないものをいつまでも資産計上しておくのは気持ちが悪いから、資産計上したら早めに償却すべき」派です。
どちらも正論なので、M&Aで巨額の「のれん」を計上している日本企業(特に海外で上場している場合)は、どちらの基準に従うべきか迷うこともあるようですが、タケダさんはIFRSベースで連結決算をしています。
したがって、今後シャイアーから見込んだほど利益が得られず、同社の「のれん」に3兆円もの価値がなかったという結論に至れば、その時点で「減損」という評価損を一気に計上することになります。

「のれん」の税務上の取り扱い

さて、税務上の「のれん」の取り扱いはどうなっているかというと、意外にも5年間均等償却とシンプルです(正確には60か月償却。法人税法62条の8第4項)。
たとえ、「のれん」に減損が生じていなくても税務上は費用化できるのですから、節税メリット先取りです。
もっとも、今回のタケダさんのように株式取得による子会社化に際して生じる「のれん」は、連結決算上発生する理論上のものなので、単体決算をベースにする税務申告には影響ありません。
吸収合併、事業の譲受けなど親会社の単体決算に取り込まれるM&Aで生じた「のれん」だけが税務上も「のれん」として取り扱われます(例外もありますが)。

「税効果」が買収額に影響することも

IFRS、日本基準のどちらをとっても会計上の取り扱いと差が生じる可能性があり、そのギャップは法人税の課税所得の計算の過程で調整されることになります。
こうしたギャップは、「のれん」を計上する買い手が、いつ・どれだけ法人税を負担するかに影響するため、買収価格を決める際にも考慮されることがあります。
この会計と税務のギャップが決算書上の税金見積額に与える影響を「税効果」といいます。
今回の大買収劇の舞台裏では名だたる投資銀行と法律事務所が動いているようです。
かれらの間でも「のれん」の税効果が議論されているのかもしれません。

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