Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

企業買収と税務リスク

4月18日の報道でソフトバンクの申告漏れの件を知った方も多いのではないかと思います。
この事案、金額が大きいことで注目されているようですが、私が注目したのはソフトバンク広報室さんの次のようなコメントです。
(ちなみに、上記のアイキャッチ画像は一般的なアメリカでの企業買収の仕組図であり、ソフトバンクさんの事案とは無関係です。念のため。)

” 買収後にすべての外国子会社の所得を把握し検討すべきところを、スプリントとブライトスターの傘下会社が数百社あり、適時にそれができていなかった。現在は再発防止策を講じた ” (2018年4月18日朝日新聞電子版)

タックスヘイブン税制

タックスヘイブン税制は、海外の軽課税国(タックスヘイブン)にある子会社の利益を親会社に配当させずにプールすることで、日本の親会社で法人税が課税されるタイミングを繰り延べていると「判定」される場合に、そのプールされた利益を日本で法人税の確定申告に含める仕組みです。
ソフトバンクさんの場合は税務調査を端緒に事実が判明し、指摘を受けて事後的に修正申告をしているようですが、最初から確定申告期限までに「これだけ利益を繰り延べているので、その分法人税の課税所得に含めます」という内容の申告をすべきだったようです。

ヤマグチも四半世紀ほど前にリース会社の経理にいたときに、タックスヘイブン税制用の計算書(申告書別表)を山のように作りました(しかも手書き)。
そのリース会社は外航貨物船のリースを何十件(ひょっとしたら百件を超えていたかもしれません)も手掛けており、貨物船一隻ごとに、その船を所有させる子会社を海外にもっていました。
これらのほとんどがタックスヘイブンにあったものですから、確定申告書に添付する別表はぶっといキングジムのファイル2冊分くらいはありました。
当時ヤマグチは連結決算の担当で、税務申告は別のチームの仕事だったのですが、「海外子会社のデータが連結決算チームに集まるから、タックスヘイブンは連結チームでよくね?」という理由で、チーム最年少の私のところにお鉢が回ってきたようです。
実際にプールした利益はなく、課税所得に影響がないものの(そうゆう理由で税務申告チームのモチベーションが低かったことも私に仕事が振られた一因と思われます)、「繰り延べている利益はなかったんですよ」という内容の申告が必要だったので、めんどうでも誰かがやらねばならない仕事でした。

「連れ子」の実態把握はむずかしい

別表を作る手間もさることながら、利益を繰り延べているといえるかどうかの「判定」が困難な場合も苦労します。
ソフトバンクさんの事案では、この「判定」をめぐっても当局と見解が違っていたようです。

外資系金融機関にいたとき、投資銀行部門(M&Aの仲介をする部署)のある案件のデューデリジェンスで、この「判定」を手伝ったことがありますが、子会社の数が多い上に、それぞれの会社が何をしているのか(単なるペーパーカンパニーなのか事業活動の実態があるといえるか)を確認するのが本当に大変でした。
自社が作った子会社なら親会社で事情が知れているので、申告書作成時に「漏れ」たり「判定」を誤るリスクは比較的低いと思われますが、企業買収の場合は、買った会社の傘下にどんな子会社・孫会社がぶら下がっているかを完全に把握できる保証はなく、ソフトバンクさんと同じ顛末に陥るリスクが高いといえます。

最後はすべて受け入れる覚悟が必要

特にスピード命でデューデリジェンスにあまり時間をかけられない案件では、税務リスクを指摘しても「そんなの後!後!」といわれがちです。
買収者のリスクを緩和するために買収契約書に「瑕疵担保条項」や「表明・保証条項」を入れておく手もありますが、複雑で先の読めない税務リスクまでそのような条項の対象にすることに売り手が同意してくれるかというと、現実には難しいように思います。

ソフトバンクさんの税務リスクがヘッジされていたかどうかは知る由もありませんが、タックスヘイブンで苦労した思い出があるヤマグチは、前出のコメントに深いシンパシーを感じます。

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