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確定申告で納付する消費税額は、売上に係る消費税額から仕入れに係る消費税額を控除した残額です(消費税法(以下「法」)30条)。
これがマイナスの場合、控除しきれなかった税額が国から還付されます(法52条)。
課税売上高が5億円以下かつ課税売上高割合が95%以上の状態をキープできている課税期間の場合、消費税の申告に関する悩みは少ないです。なぜなら、その課税期間中の仕入れに係る消費税額を全額控除できるルールになっているからです(法30条1項)。
その他の場合、すなわち、課税売上高が5億円を超えている、あるいは課税売上割合が95%未満の場合には、以下の三つの方法のいずれかによって仕入税額控除を計算しなければなりません(法30条2項、37条)。
算式にあるように、原則2法はいずれも課税売上割合に応じて控除税額を計算する方法です。
そのため、確定申告による消費税の納税額は課税売上割合の影響を受けます。
簡易課税制度は、課税売上割合の影響を受けませんが、基準期間における課税売上高が5千万円以下であることと、簡易課税制度を適用することについて税務署長へ事前届出があることを要件に認められる特例なので、いつでも選択できる方法ではありません。
したがって、多くの場合、課税事業者の納税額はそれぞれの課税期間の課税売上割合に左右される仕組みになっています。
事業内容が安定していても、突発的な事象で課税売上割合が変動することはありえます。
決算を終えて確定申告を始めてようやくその課税期間の課税売上割合が分かるというケースが普通かもしれません。
場合によっては、目隠しをされてジェットコースターに乗せられているような気分が味わえます。
仕入税額控除は仕入のあった課税期間の申告で行います。
比較的短期間に消費される棚卸資産・サービスだけでなく長期にわたって費用化される固定資産・繰延資産についても同じルールが適用されますから、その仕入れに係る消費税がどれだけ控除できるかは、実際に購入・支出があった課税期間の課税売上割合に影響されます。
課税売上割合と税額控除の計算方法、設備の用途の間には以下のような相関関係があります。
設備の用途 | 個別対応方式 | 一括比例配分方式 |
課税事業専用 | 影響なし | 影響あり |
非課税事業専用 | ||
その他(全社共通) | 影響あり |
来年10月の消費税率引き上げまでに設備投資を前倒ししようという事業者さんもいらっしゃると思いますが、購入する固定資産等の用途、税額控除の計算方法、課税売上割合の動向次第によっては、来年まで待った方がかえって有利なこともありえます。
不急の設備投資、とくに管理部門など共通用途の設備購入は、課税売上割合が高くなりそうな課税期間にあわせて実施されてはいかがでしょうか。
逆に、有価証券・土地などの非課税資産の譲渡を控えることで、設備投資が実施された課税期間の課税売上割合を維持することも可能です。
やっかいなのは「調整対象固定資産」の取り扱いです。
調整対象固定資産とは、建物、構築物、機械・装置、船舶、航空機、車両・運搬具、工具、器具・備品、鉱業権など一定の固定資産で、通常の取引単位につき税抜価格が100万円以上のものをいいます(法2条16号、法施行令5条)。
これらの固定資産の仕入れに係る消費税も、原則として、仕入のあった課税期間の仕入税額控除の対象になりますが、「比例配分方式」によって税額控除しており、かつ、その後の課税期間における課税売上高割合が「著しく」変動した場合には、仕入税額控除の調整をすることになっています(法33条)。
「比例配分方式」とは課税売上割合との掛け算で控除税額を求める方法のことで、上記の「相関関係」で「影響あり」となっている部分が該当します。
調整の仕組みを設例で説明します。
2018年10月29日に調整対象固定資産を仕入れたとします。
その仕入れがあった課税期間を「仕入課税期間」といいます。
この仕入課税期間の開始の日(2018年4月1日とします)から3年を経過する日(2021年3月31日)の属する課税期間を「第三年度の課税期間」といいます。
仕入課税期間から第三年度の課税期間までの間の課税期間を通算して求めた課税売上割合を「通算課税売上割合」といいます。
仕入課税期間では、国内売上(課税)も輸出(免税)も好調で、課税売上割合は80%でした。
ところが、翌年度、某国の極端な保護貿易政策の影響で主力輸出製品がまったく売れなくなり、業績悪化をカバーするために保有していた有価証券を譲渡(非課税)したところ、課税売上割合は20%まで下落しました。
第三年度の課税期間においては、国内売上げも不振になり、利益確保のため遊休不動産(土地・非課税)を売却しました。その結果、第三年度の課税期間の課税売上割合は5%になりました。
通算課税売上割合は35%となりました。
調整対象固定資産の仕入税額の調整が必要となるのは、課税売上割合が「著しく」変動した場合です。
「著しく」の判定は、仕入課税期間の課税売上割合と通算課税売上割合の比較で行います。
変動の割合(変動率)が50%以上で、なおかつ、両者の差(変動差)が5%以上の場合が「著しく」変動した場合にあたります。
設例では変動率56.25%、変動差45%なので、調整対象固定資産の調整が必要になります。
変動差に応じて第三年度の課税期間の確定申告で仕入税額を調整します。
設例では著しく減少していますので、仕入課税期間で控除した税額の一部を第三年の課税期間の仕入税額からマイナスします。
例えば、仕入課税期間の確定申告で調整対象固定資産について200の仕入税額を控除していたとすると、その45%相当の90を第三年度の仕入税額控除の額から差し引いて申告します。
逆に通算課税売上割合が著しく増加したときは、第三年度の課税期間の仕入税額をプラスに調整します。
[2020年6月14日追記]
設例に誤りがありましたので、差し替えました。
従前の設例では、仕入課税期間の課税売上割合=90%、通算課税売上割合=55%でしたので、変動率=38.88%、変動差=35%となり「著しい変動」にはあたらないところ、変動率=50%、変動差45%としておりました。申し訳ございませんでした。
変動差5%以上はともかく、3年平均で変動率が50%以上というのはかなり極端なケースです。
したがって、普通に事業継続中の企業の課税売上割合が「著しく」変動することは稀だと思います。
しかし、リストラやM&Aで一時期に集中して非課税資産の譲渡を行ったり、極端な事業縮小で課税売上が落ち込んだりすると「著しく」減少する可能性が高まります。
反対に、事業開始初年度にほとんど課税売上がなく、事業資金の運用益(預金利子や有価証券の譲渡対価)が大半を占めていた場合などは、その後の課税期間で課税売上割合が「著しく」増加することになります。
このように、事業の内容や規模が大きく変わるときに調整対象固定資産について消費税の調整が必要になってくる可能性がありますから、ご留意ください。
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課税売上割合をコントロールするのは現実的には困難です。
そうすると、変動の兆しにいち早く気が付くかどうか実務上のポイントになってきます。
その意味でも月次決算などで定期的に課税売上割合の現状をチェックできる体制を整えておくことが望ましいと考えます。
ジェットコースターも、目を開けて先のコースが見ているほうが怖さ和らぐと思いません?