Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

消費税の軽減税率

このままいけば来年10月1日に消費税率が10%(地方消費税を含む)に上がります。
ただし、飲食料品と新聞(定期購読にかぎる)については軽減税率が適用され税率は8%(地方消費税を含む)のままになります。
ちなみに酒類は「飲食料品」には含まれません(平成28年改正消費税法附則34条1項1号括弧書き)ので10%課税です。
来年の今頃は酒類の買いだめが流行りそうです。

海外の軽減税率の事情は…

日本貿易振興機構(JETRO)のHPによると、ヨーロッパでも同様に日用品には軽減税率を設けている国が多いようです。
例えば、イギリスの付加価値税(VAT)の税率は原則20%ですが、家庭用燃料、電力、チャイルドシートなどには5%の軽減税率、食料品(一部除く)、子供服、水道水、新聞、医薬品、居住用建物などは免税(税率0%)になっています。
基本的に人の生存にかかわるモノは免税にするという考え方のようです。
新聞が免税なのは知的生存権の保障という趣旨でしょうかね?

一方、EU加盟国も複数税率制をとっていますが、免税範囲は限定的なようです。
例えば、フランスの場合、原則税率20%、軽減税率が10%(食用を除く農水産品、住居の改築工事、レストラン等一部のサービスなど)、5.5%(食品、書籍、身体障害者用機器など)、2.1%(一部の医薬品など)のあわせて4段階になっています。
イタリアは、原則22%、軽減10%(家畜、食肉、ハム、建物、小麦粉、コメ、薬、肥料、観葉植物、果物、鮮魚、映画、卵、酢、砂糖など)、軽減4%(紅茶、医療補助器具、生鮮野菜、牛乳、マーガリン、チーズ、バター、書籍、新聞、オリーブ油、パン、パスタなど)のあわせて3段階です。
両国とも免税品目を設けておらず、イギリスとは考え方がだいぶ異なるようですが、小麦粉よりも加工品のパン、パスタの方が税率が低いイタリアはフランスよりも食に対するこだわりが感じられます。

対してわが日本は税率2つなので、楽勝のように思えるかもしれませんが、ナメてはいけません。
飲食料品の小売りをしているお店・会社は場合によっては現場が混乱するかもしれません。

飲食する場所で税率が変わる

すでに報道などでご存知かもしれませんが、レストラン等の飲食店での食事は10%課税です。
一方、持ち帰り用の飲食料品は8%課税です。
持ち帰り品しか販売しない店は問題ありませんが、ファーストフード店、イートインコーナーがあるスーパーなどは会計の際に、いちいちお客さんに「お持ち帰りですか?店内でお召し上がりですか?」と意思確認して適用税率を判断することになります(国税庁:消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)問42)。
コンビニについては「大半の商品(飲食料品)が持ち帰りである」との理由で、例えば「イートインコーナーを利用する場合はお申し出ください」等の掲示をすれば意思確認をしたことになるようです(問41)。
そんなのでOKなら、だれも「お申し出」しませんね。

そうなると、ファーストフード店やカフェではいろいろ悩む場面がでてきそうです。
同じスタバのモカ・フラペチーノでも、酷暑から逃れて涼しい店内で味わうと10%、お店を出て歩きながらだと8%ということです。
では、次の場合はどうなるのでしょう?
A: レジで10%消費税を払ったけれど店内が満席だったのでテラス席で飲んだ。
B: テラス席すら空いてなかったので結果的に持ち帰りにした。
C: テラス席が一つしか空いてなかったので一人はテラス席で、もう一人はテラスに面した歩道に立って談笑しながら飲んだ。
D: 店内で飲んでいるうちに、小腹がすいたので持ち帰り用に買ったバナナ(8%課税)を食べてしまった。

A: 10%です。テラス席も店舗内なので納得できます(問40類推)。しかしお客さんは納得できないかもしれません。
B: 10%です。最初から持ち帰りといえば8%だったので差額2%を返してほしいところですが、販売時点の意思確認に従います(問43類推)。
C: 10%です。歩道は店舗外です(問48類推)から席をゆずった人には2%返してあげたいところですが、理由はBと同じです。
D: Bの反対解釈なら8%です。そもそも皮をむき始めたところでお店の人が2%追加で請求するのは現実には不可能でしょう。

いずれのケースもお客さんとスタッフの間に気まずい空気がながれそうです。

「主役」が何かで税率が変わる

スーパーで売られている「食玩」は食料品(8%)なのか玩具(10%)なのか微妙ですが、この点については法令で手当がされています。財務省主税局に食玩コレクターがいたのでしょうか?
①税抜き価格が1万円以下、②食品の価額が占める割合が2/3以上の2要件を満たすと8%課税、いずれか一つでも欠けると10%課税です(平成28年改正消費税法施行令附則2条1号)。
おそらく一般的な食玩は②の要件を満たせないので10%になると思われます。
来年の今頃は食玩の大人買いが流行りそうです。

用途でも税率が変わる

かき氷や飲み物にいれる用途の「食用氷」は飲食料品に該当しますが、ドライアイスや保冷用氷は10%課税だそうです(問9)。
「氷は氷だろうがっ!」といわれそうです。

ミネラルウォーターは飲食料品ですが、水道水は10%課税です。炊事・飲用と風呂・洗濯等などの生活用水の区別ができないからだそうです。(問8)。
個人的には新聞が8%なら水道水も8%でよさそうに思いますが、そこは大人の事情を感じます。

賞味期限切れの飲食料品を転売すると10%課税です(問10)。
人の飲食用ではないとの理由です。ホントはまだ食べられるものもあると思うんですけど。

ノンアルコールビールや甘酒は飲食料品にあたり8%課税です(問14)。
酒税法上の「酒類」に該当しないためです。ま、これは納得ですね。

飲食料品の材料となるものであっても酒類は10%です(問12)。
いちおう、飲めば酔えますからね。「みりん」や「料理酒」も買いだめが流行るかもしれません。

追記(2018年11月9日)

2018年11月に国税庁がQ&Aを改訂しています。
改訂箇所等はこちらのブログでご確認いただけます。

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Q&Aを見ていると笑っちゃう事例がたくさん出てきます。
が、来年10月以降Q&Aが想定していない困った場面がたくさん出てくると思います。
軒先にベンチを置いている駄菓子屋さんなどはどうなるんでしょうね。

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