Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant
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インボイス方式と買いタタキ

以前ブログで「消費税インボイス方式導入の影響」を紹介させていただきました。
このインボイス方式、中小企業(免税事業者)に対する買いたたきに使われるかもしれないと懸念する声があります。
どういうことでしょう?

現行の消費税の仕組み

その前に消費税の仕組みについて軽くおさらいです。
消費税は付加価値税の一種です。
付加価値税とは事業者の活動によって生み出された付加価値に対する税金です。
事業活動によって生み出された付加価値は最終的には消費者によって消費されますので、付加価値税を負担するのは一般消費者になります。
もっとも、モノやサービスが消費者のもとに届くまでの間にはいくつも流通・製造業者(事業者)が介在します。
これら事業者は他人から調達したモノやサービスに付加価値をつけて、それを次の業者に転売しますので、ある意味、消費者という面もあわせもっています。

そこで一般的な付加価値税制では、モノやサービスが流通する過程で創造・消費される付加価値を事業者に把握させ、これに対する税額を申告・納税をさせます。
こうすることで、消費者は税金を負担する、事業者は消費者から集めた税金を申告・納税する手間を負担するという仕組みができあがります。
日本の消費税もこのような仕組みのもとで課税、申告・納税されています。

帳簿方式が生んだ「免税事業者」

建前としてはすべての事業者が申告・納税すべきなのですが、日本では売上げ(正確には消費税の課税対象となる売上げ)が年1000万円以下の事業者については申告・納税が免除されています(消費税法(以下「法」。)9条1項)。
これは、小規模な事業者にまで申告・納税のために付加価値を把握する手間を強いるのは気の毒だという配慮から設けられた免税制度です。
なぜ、小規模事業者が付加価値を把握するのが大変だと思われているのでしょう?
それは、付加価値の把握が帳簿ベースで行われる現行の「帳簿方式」という仕組みのせいです。

帳簿方式とは事業者が記帳した「帳簿」に基づいて消費税の申告を行う方法です。
ここにいう「帳簿」とは複式簿記の原則にのっとって作成される仕訳帳、総勘定元帳、残高試算表などをいいます。
小規模事業者の場合、経理に疎い事業主が簡易な帳簿しか作成していないことが多く、そのような事業者に消費税の申告用に本格的な帳簿作成を義務付けるのは無理があると思われています。
そのため、年商1000万円以下の事業者は「帳簿」を作成できないだろうという仮定のもと、一律「免税事業者」として申告・納税を免除しています。
もちろん、ちゃんと「帳簿」を作成している小規模事業者はすすんで「課税事業者」になることもできます(法9条4項)ので、免税事業者扱いされることの不利益(消費税の還付申告ができない等)を避ける道は用意されています。

免税事業者との取引も課税?

仕入れ先が免税事業者であっても、取引そのものの内容が課税取引であれば、課税仕入れとして取り扱うのは当然といえます。
なぜなら、消費税は事業者に課税するものではなく、取引に課税するものだからです。
事業者は申告・納税の手間を負担するだけなので、免税事業者がその手間を免除されたからといって取引そのものの課税関係がかわるわけではありません。

一方、消費税を申告・納税しない免税事業者に支払う仕入れ代金には消費税が含まれないのだから、これを「課税仕入れ」と呼ぶのはおかしいという意見もあります。
この意見もごもっともです。

帳簿方式を前提とする現行の消費税制では、免税事業者からの仕入れであっても「課税仕入れ」として取り扱うことになっています。
この割り切りは、仕入れ先である免税事業者・仕入れをする課税事業者双方に課税上のメリットをもたらします。
しかし、仕入れ代金を払う側の立場からすると、申告・納税されることのない金額を「消費税」と称して請求されているのではないかという疑念が残ります。
仕入れをする事業者が免税事業者の場合、支払代金に含まれる消費税はそのままコストになりますから、支払額は少ない方が有利です。
課税事業者であっても、仕入れ税額の全額を控除できるとは限りませんから、支払額が少ないに越したことはありません。

インボイス方式が開けるパンドラの箱

「インボイス方式」が導入される2023年10月以降、消費税申告実務は大きくかわります。
帳簿から付加価値を把握して消費税の申告・納税額を計算するという迂遠な方法ではなく、「インボイス」から直接的に消費税額を把握する方法に改められます。
この「インボイス」は「適格請求書等」と呼ばれ、発行できるのは課税事業者のうち「登録事業者」として税務署等に登録した事業者だけです。
2023年010月以降の仕入れは適格請求書等があるものだけが「課税仕入れ」扱いになります。
したがって、適格請求書等を発行できない免税事業者や登録されていない一般の課税事業者からの仕入れは「課税仕入れ」にはなりません。

そうなると、免税事業者に対して「おたくは消費税を国に納めないんだから、うちから支払う代金も消費税分安くできるよね?」という値下げ圧力がかかるようになるのでは‥と心配する声があります。
その可能性は否定できません。
しかし、免税事業者であっても、他の事業者から仕入れる原材料や諸経費の支払いには、 消費税相当額が含まれています。
これに相当する額を販売価格等に転嫁できなければ、事業を継続することは困難になります。

そのことを取引先に説明しても、取引上の力関係によって値下げを強要される事態は容易に想像できます。
インボイス方式への移行を契機に免税事業者との取引を見直そうとする動きが出てくることはしかたがないことです。
しかし、不当な値下げ圧力に屈してしまっては未来がありません。
そんなときは、一人で悩まず、消費税価格転嫁等総合相談センターに相談してみるのも一案です。

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