スマホアプリを使った経費精算システムが普及しつつあるようです。
取引先や従業員から請求書・領収書などの証憑をオンラインで受領し、経費の支払いまでをシステムで一元管理するので、経費精算の進捗状況も把握できる優れものです。
また、最近は紙ベースの請求書・領収書に代えて、PDFファイルなどの電子ファイル出力した文書をメールで送信する、必要に応じてユーザーにダウンロードさせることも商慣行として定着しつつあり、このような電子ファイルの存在を前提に経費精算を認める企業も増えているようです。
でも、こうした電子ファイルの取り扱いについては注意が必要です。
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電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)が定める要件を満たすシステムであれば、証憑をスキャンした電子データ(スキャン文書)だけを保存し、原紙は破棄してもかまいません。
証憑の保存スペース・コストも節約できて良いことずくめですが、現行の電子帳簿保存法のもとでは、信頼性が高いと税務署長が承認したシステムでなければ電子データによる証憑保存は認められません。
したがって、要件を満たしていないシステムを利用する場合は、スキャン文書と併せて紙の証憑保存も必要になります。
なお、要件を満たすシステムを利用する場合であっても、入力期間を経過してスキャンした文書や、備え付けのプリンタの最大出力を超えてスキャンした大きい文書についてはスキャン文書と併せて紙の証憑保存も必要になります。
どうやら法律が定める要件が厳しすぎたようで、電子データによる保存は政府が思ったほど普及しませんでした。
そこで、「経済社会のデジタル化を踏まえ、経理の電子化による生産性の向上、テレワークの推進、クラウド会計ソフト等の活用による記帳水準の向上に資するため(出典:財務省HP )」、2022年1月1日以後、電子データ保存手続が簡素化されることとなりました。
2022年以降は、以下の要件をすべて満たすシステムについては、税務署長の事前承認なしに電子データ保存ができるようになります(電子帳簿保存法4条3項)。
1. | 電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付け | システム概要書を備付け(自社開発のプログラムを使用する場合に限る) |
2. | スキャナ保存の真実性を確保 | 入力期間の制限、一定水準以上の解像度、カラー画像による読み取り、タイムスタンプの付与、解像度・階調情報の保存、大きさ情報の保存、バージョン管理、入力者等情報の確認、スキャン文書と帳簿との相互関連性の保持など |
3. | 電子取引データについて右記のいずれかの措置(改ざん防止措置)を行う |
①タイムスタンプが付された後の授受 |
4. | 見読可能装置の備付け等 | 一定水準以上のカラーディスプレイやプリンタ等を備付け |
5. | 検索機能の確保(検索要件) | ① 「取引年月日その他の日付,取引金額,取引先」を条件に検索できる ② 日付又は金額の記録項目の範囲を指定して検索できる ③ 二以上の任意の記録項目を組み合わせて検索できる |
市販のソフトやクラウドサービスを利用する場合は要件1.は関係ありませんので、実質2~5の4件が問題になります。
以下、4要件についてもう少し詳しく説明します。
現存した紙の証憑に代えてスキャンした文書を電子ファイルで保存する場合には、もともの文書が実際に存在したという「真実性」を確保する措置が求められます。
従前の手続きに比べれば簡素化されたというものの、まだまだ細かい要件があります。
スキャン済みの証票を破棄するには、これの要件すべてを満たさなければなりません。
オンライン取引など電子商取引では、紙の請求書・領収書が発行されない方が普通です。
また、オンライン取引でなくても、請求書・領収書を郵送せずPDFファイルなど電子文書を電子メールで送付することも多くなっています。
そのような取引(電子取引)については、その取引情報を直接データとして保存することが義務付けられます。
スキャン文書の真実性確保に比べれば、かなり緩めの要件になっていますが、4つの要件のうち最低1つを満たしておく必要があります(電子帳簿保存規則4条1項)。
いずれの要件も満たせない場合は、取引相手に紙の証憑を発行してもらい、そのスキャン文書(真実性確保ができているシステムを利用している場合に限る)又は現物を保存しなればなりません。
タイムスタンプの付与(要件①②)やバージョン管理(要件③)をシステムで対応するのが大変な場合は、事務処理規定の作成・備付け(要件④)だけでも要件をクリアできます。
この事務処理規定については国税庁のホームページにサンプルが公表されています。
参考資料(各種規程等のサンプル)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/0021006-031.htm
税務調査の際に、調査官が電子データの画像を目視し、出力できるよう機材を整えておいてくださいということです(電子帳簿保存規則2条2項2号)。
スキャン文書の見読には14インチ以上のカラーディスプレイで4ポイント文字を認識できるなど一定以上のスペックが要求されます(同2条6項5号)
場合によってはパソコン・プリンターの追加購入が必要になるかもしれません。
①~③のすべてを満たす必要があります(電子帳簿保存規則2条6項6号)。
税務調査官の求めに応じて電子データをダウンロードできる体制が整っている場合は、②と③の要件は不要です(電子帳簿保存規則4条1項かっこ書き)。
前々事業年度(個人事業者は前々年)の売上高が1,000万円以下で、かつ、税務調査官の求めに応じて電子データをダウンロードできる体制が整っている場合は、①~③すべてが不要になります(同上)。
「うちは紙で請求書・領収書を全部とってあるから『電子帳簿』なんて関係ないよ」という方も多いと思いますが、電子取引をされている方、メールで請求書・領収書をPDFファイルなどの電子ファイルで受け取っている方は要注意です。
今回の改正によって、2020年1月以後は自分でダウンロードした電子ファイルやメールの添付ファイルを紙に印刷しても証憑として認められません。
ショッピングサイトによっては、請求すれば紙ベースの請求書・領収書を郵送してくれるところもありますが、そのようなサービスがないときには、帳簿保存法の要件(改ざん防止措置、見読可能装置の備付け等、検索機能の確保)を満たすように電子ファイルを保存する必要に迫られます。
青色申告の承認を受けている法人・個人事業者は、所定のルールに従って証憑を保存していない場合は、青色申告の取り消し事由にもなりうるため、電子ファイルの保存要件には注意が必要です。
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今回の電子帳簿保存法の改正については功罪両面あると思います。
確かにスキャナ保存については手続きが簡素化されたといえますが、すべての事業者に電子取引データの保存を義務付けるのはちょっとやりすぎでは…と思います。
個人事業者の中にはスマートフォン・タブレットでオンラインショッピングはするけどパソコンは苦手という方も多いです。
そうした方々のことも考えると、小規模事業者については電子ファイルを紙に出力したものも証憑として認める措置があっても良いように思います。