Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

非居住者の「納税地」

非居住者(日本に住所等を有していない個人)でも日本で申告・納税は必要になるケースがあります。
例えば、日本国内に所有する不動産を貸しつけたことにより不動産所得を得ている場合は所得税の申告が必要です。また、日本で事業を行っていた個人が日本に事業所を残して海外へ転居後し、その後もその事業所を通じて日本で事業を継続している場合も、所得税の申告が必要になります。

相続・贈与によって財産を取得した場合は、財産を取得した非居者の国籍や日本における在留資格、日本に住んでいた期間によっては、日本で相続税・贈与税の申告が必要になることがあります。

そんなときには、どこの税務署にどうやって申告・納税すればよいのでしょうか?
決め手となるのは「納税地」と呼ばれる場所です。

どこの税務署に申告する?

国税に関する申告書の提出先については「国税通則法」という法律に「その提出の際におけるその国税の納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない。」と定められています(第21条)。したがって、税務署ならどこでもいいというわけにはいきません。
納税地を所轄する税務署(いわゆる所轄税務署)は納税地の住所によって決まっており、国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/)で郵便番号から検索できます。

納税地とは?

所轄税務署を決める基準となる「その国税の納税地」はそれぞれの国税に関する法律(税法)に定めがあります。居住者(日本に住んでいる個人)の場合はその住所地が納税地になるのが普通ですが、日本に住所がない非居住者についてはいろいろなパターンがありうる複雑なルールになっています。
以下、非居住者の納税地がどのように決められているか税法ごとに解説します。

所得税の納税地

所得税の納税地は、非居住者がかつて日本の居住者であったかどうかによって変わってきます。

かつて日本の居住者であった場合

転勤で海外に転居して非居住者となった会社員などがこの場合の典型例になります。
単身で海外に転居し、転居直前の住所地に親族などが引き続き住んでいるときは、その住所地が転居後も引き続き所得税の納税地になります(所得税法15条4号、所得税法施行令53条)。
世帯全員が海外に転居し、留守宅を賃貸に出して不動産所得を得ているときは、その留守宅の所在地が納税地になります(所得税法15条5号)。賃貸している不動産が複数ある場合は、そのうち主たる不動産の所在地が納税地になります。
賃貸に出していた不動産を売却して譲渡所得が生じたときは、それまで不動産所得を申告する際に納税地としていた場所が納税地になります(所得税法15条6号、所得税法施行令54条1号)。

一方、日本で居住者として事業を行っていた個人が日本に事業所を残して海外へ転居後し、非居住者となった後もその事業所を通じて日本で事業を継続しているときは、その事業所の所在地が納税地になります(所得税法15条3号)。

留守宅に住む親族もなく、賃貸している不動産もなく、事業所等もないときは、国外へ転居する直前において納税地だった場所が引き続き納税地になります(所得税法15条6号、所得税法施行令54条1号)。

日本の居住者であったことがない場合

日本国内の不動産を賃貸しているときは、主たる賃貸不動産の所在地が納税地になります(所得税法15条5号)。ただし、日本に事業所を設けて事業をしているときは、その事業所の所在地が納税地となります(所得税法15条3号)。
それ以外のときは、非居住者が自分で選択した場所が納税地になります(所得税法15条6号、所得税法施行令54条2号)。選択しなければ麴町税務署(東京都)が申告・納税先になります(所得税法施行令54条3号)。
例えば、出張で日本に滞在して非居住者の会社員の滞在期間が長期化し、租税条約が定める「短期滞在者免税」の適用を受けられないときは、給与所得について所得税の申告(準確定申告)が必要となりますが、これまで日本の居住者になったことがない非居住者は、自分で納税地を選択して税務署に申告書を提出することになります。

相続税・贈与税の納税地

被相続人・贈与者(財産をもっていた人)、相続人・受贈者(財産をもらった人)のいずれも日本に住んだことがなくても、日本国内にある財産が相続・贈与の対象になっていると、日本で相続税・贈与税の申告が必要になります。
さらに、被相続人・贈与者、相続人・受贈者のいずれかが一定の期間を超えて日本に住んだことがあると、国内財産だけでなく、国外にある財産の相続・贈与についても日本で申告が必要になります。

相続税・贈与税ともに、相続人・受贈者、すなわち財産をもらった人が申告書を税務署に提出することになっていますので、相続人・受贈者が非居住者に該当する場合についても納税地の定めがあります。

相続税の納税地

被相続人の住所が国内にある場合

相続時点(被相続人の死亡の時)に被相続人の住所が日本にある場合は、被相続人の住所地が納税地とされています(相続税法62条2項、附則3条)。

その他の場合

相続人が納税地を定めて申告します。相続人から申告がないときは、国税庁長官が納税地を指定して相続人に通知します(相続税法62条2項)

贈与税の納税地

受贈者が納税地を定めて申告します。受贈者から申告がないときは、国税庁長官が納税地を指定して相続人に通知します(相続税法62条2項)

消費税の納税地

非居住者といえども、日本国内で資産の譲渡等(事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供)を行う場合は、国内において行った課税資産の譲渡等について消費税の申告が必要です(消費税法5条)。

国内に事務所等がある場合

課税資産の譲渡等が国内における事務所等(事務所、事業所その他これらに準ずるもの)を通じて行われる場合は、その事務所等の所在地を納税地とします(消費税法20条3号)。「事業所その他これらに準ずるもの」には工場、農園、養殖場、植林地、展示即売場、貸ビル、貸倉庫又は事業活動の拠点となっているホテルの一室等名称のいかんを問わず、資産の譲渡等に係る事業を行う一定の場所が含まれます(消費税基本通達2-1-2)。

留守宅が国内にある場合

所得税の場合と同様の規定が消費税法施行令にあります。
日本国内の住所地又は居所地(住所地等)を消費税の納税地としていた者が国外に転居し、その後もその住所地等に親族等が引き続き住んでいるときは、その住所地等を納税地とします(消費税法施行令42条1号)。

国内に賃貸中の不動産がある場合

そのような親族がおらず、賃貸している不動産等が国内にあるときは、その不動産の所在地(賃貸している不動産が複数ある場合は、そのうち主たる不動産の所在地)が納税地になります(同2号)。

かつて消費税の納税地があった場合

従前の納税地を納税地とします(同3号)

その他の場合

上記のいずれにも該当しない場合は、非居住者が納税地を選択して申告します(同4号)。選択がない場合は麴町税務署(東京都)が申告先になります。

どうやって申告する?

非居住者の日本での税務申告は「納税管理人」を通じて行います。
納税管理人は国内に住所がある個人・法人であればだれでもなることができます。
申告書を作成する税理士はもちろん、日本に残る親族や、雇用関係のある会社に納税管理人になってもらっても問題ありません。
申告前にだれを納税管理人にするかを決めて(当然、納税管理人になる人の同意を得て)、納税地の税務署に届出書を提出します。
納税管理人の届出書のフォームは国税庁のホームページからダウンロードできます。

所得税・消費税の納税管理人の届出書
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/07.htm

相続税・贈与税の納税管理人の届出書
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/1585-11.htm

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国外に転居してしまえば日本の税金は一切かからないと考えがちですが、実際はそれほど簡単ではありません。
日本に財産をお持ち方、日本にある財産の相続・贈与を受けた方、長期間日本に住んでいる(住んでいた)外国人の方で国外財産の相続・贈与を受けた方、日本の事業所等・代理人を通じて事業をされている方、出張で日本に長期間滞在される方は、非居住者であっても日本で税務申告が必要になる可能性が高いといえます。お気を付けください。

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