Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

コロナ禍と扶養控除

今年は新型コロナウイルス(COVID-19)に翻弄された一年でした。
ウイルスに感染せずとも、仕事を思うようにできず収入が減って経済的苦境に立たされている方が大勢います。
そのせいか、最近「扶養控除」に関するお問い合わせが増えています。
ピンチに陥っている兄弟姉妹、叔父叔母、甥姪を援助したから今年の年末調整・確定申告で扶養控除の対象にしたいというのですが…さて、どうでしょうか…

扶養控除とは

扶養控除の制度概要、親族の範囲については、過去のブログ「国外居住親族の扶養控除」にまとめてあります。
そちらをご参照いただければと思います。

「生計を一にする」とは

扶養親族とは、納税者と「生計を一にする」親族で、かつ、その合計所得金額が48万円以下である者とされています(所法2条1項34号)。
つまり、扶養親族となるための要件は①生計を一にする、②その年の合計所得金額が48万円以下の2つです。
このうち①については「常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合」が該当するという一般的解釈指針(所得税基本通達2-47)しかないため、いくら送金していれば「生計を一にする」といえるかという金額基準はありません。
また、ここにいう「常に」がどの程度の期間・頻度であればよいかについても基準はありません。
そのため、経済的苦境に立たされている親族の生活費・学費等を援助した場合も、そのことによってその親族が納税者と「生計を一にする」、すなわち扶養しているといえるかどうかが問題になります。

「お見舞い」「お祝い」との比較

一般的な解釈指針(所得税基本通達2-47)に照らせば、ケガや病気に見舞われた親族に「お見舞い」として一時的にお金を渡しても、そのことをもって「扶養している」ことにはならないと思います。
したがって、コロナ禍で経済的苦境に立たされている親族に仕送りをしても、それが一時的で「お見舞い」程度の金額であれば、扶養控除の要件は満たさないと私は考えています。

2020年12月末時点でコロナ禍が収束する兆しはありません。
失業とまではいかなくても経済的苦境に立たされる方は今後もっと増えると思われます。
親族の中にそうした方がでてきたときに、必要に応じて時々仕送りをすることもあろうかと思います。
例えば、親族のお子さんが進学するタイミング、ご家族にけが人・病人がでてしまい医療費の負担が増えたときなどに、事情を察して金銭的支援をするといったケースです。
こうした場合も、まずは「お祝い」「お見舞い」と比べて違いがあるといえるかを考えるべきかと思います。
その意味では、扶養している=「生計を一にする」といえるために超えなければならないハードルは結構高いと私は思います。

2020年度税制改正の意味するところ

仕送りの最低金額が法令にない以上、仕送りさえしていれば金額にかかわらず扶養控除を適用できるとおっしゃる方がいらっしゃいます。
また、できる限りの範囲内で生計の足しになればと仕送りをしたのであるから、金額の多寡を問題にすべきではないとおっしゃる方もいます。
いずれも正論ですが、仕送り額が扶養控除によって軽減される税負担によりもはるかに少ない場合は、扶養控除制度の濫用にあたると思っています(あくまでも私個人の見解です)。
このように考えているのは私だけではなく、扶養控除制度の在り方が継続的に検討されています。

じつは、現行法で扶養親族の要件のもう一方とされる「合計所得金額が48万円以下」については、日本国内で生じた所得(国内源泉所得)の金額だけで判定することになっています。
このルールの下であれば、国内源泉所得のない国外居住親族については、仕送りさえしていれば扶養親族の形式的要件を満たせますので、多数の国外居住親族に比較的少額の仕送りをして多額の扶養控除を適用することも可能でした。
このことは会計検査院の検査でも問題とされ、これを契機に2014年度の税制改正で国外扶養親族の扶養控除のための手続き要件(国外居住親族の身分証明と送金事実の証明書類を税務署に提出)が法定化されました。

会計検査院の報告書は下記のURLから見ることができます。
https://report.jbaudit.go.jp/org/h25/2013-h25-1068-0.htm

さらに2020年度の改正において、30歳以上70歳未満の国外居住親族を扶養親族の範囲から除外し、一定の制約の下で例外的に扶養親族に含めるよう要件が厳しくなりました
具体的には、2023年以降は以下のいずれかの条件を満たさない限り扶養控除の対象にはなりません。

  1. 留学により非居住者となったもの(留学ビザ等による証明が必要)
  2. 障害者(障害者控除の適用対象者)
  3. その年における生活費または教育費に充てるための支払いを38万円以上受けている者(送金関係書類を提出し、年38万円以上の送金を行ったことを示す必要あり)

これらの改正は国外居住親族に関するものなので、国内にいる親族の扶養控除には直接影響しません。
しかし、この改正の背景にある問題は扶養控除制度の濫用であり、その意味では上記条件3.の「38万円基準」は国内扶養親族の「生計を一にする」の判断にあたっても斟酌される可能性は高いと思っています(これも個人的な見解です)。

コロナ禍と扶養控除

このように考えると、コロナ禍のような特殊事情(今後常態化して特殊ともいえなくなる可能性もありますが…)の下であっても、一時的な親族に対する仕送りが扶養控除の要件を満たせるかというと、私は難しいと思っています。
コロナ禍に対する税制の手当としては納税猶予等がありますが、それらの特別措置と扶養控除のような恒久的措置とは目的が違います。
特殊事情を想定していない扶養控除については、原則どおり「常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合」に該当するかによって適用の可否判断をすべきではないでしょうか?
そして、30歳以上70歳未満の「普通の大人」一人を扶養しているというには、国外居住親族に場合に倣って1年あたり38万円程度の仕送りが必要なのではないでしょうか?

***

ちょっと古い統計ですが、2014年度税制改正の契機となった会計検査院の検査報告によると、2012年の申告所得税の納税者(確定申告をした者のうち、所得税の納税額があった者)のうち扶養控除の申告者数は98万人いたそうです。その一人あたりの控除対象扶養親族の人数は1.34人、扶養控除の申告額は約65万円とのことです。

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