Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

国外居住親族の扶養控除

母国に家族を残して日本で働く外国人の方、仕事の都合で海外に家族を残して帰国する日本人の方、海外留学中のお子さんに仕送りをしている方…そんな方には「国外居住親族の扶養控除」を使って所得税を節税できるチャンスがあります。
でも、控除を受けるにはいろいろと要件があるんです。

扶養控除とは

居住者が「控除対象扶養親族」を有する場合には、その居住者のその年分の総所得金額等から、次の扶養親族の区分に応じ、その控除対象扶養親族1 人につき次の金額が控除されます(所得税法(以下「所法」2条1項34号~34号の4、84条、租税特別措置法(以下「措法」41条の16)。

  1. 一般の扶養親族……38万円
    年齢16歳以上19歳未満又は23歳以上70歳未満の扶養親族

  2. 特定扶養親族……63万円
    年齢19歳以上23歳未満の扶養親族

  3. 老人扶養親族……48万円
    年齢70歳以上の扶養親族(次の4.に該当する者を除きます。)

  4. 同居老親等の老人扶養親族 ……58万円
    老人扶養親族のうちその居住者又はその居住者の配偶者の直系尊属であり、かつ、その居住者又はその居住者の配偶者と同居を常況としている者をいいます(措法41条の16第1項)。

「控除対象扶養親族」とは

親族と呼べる人ならだれでも「控除対象扶養親族」になれるわけではありません。

「親族」の範囲

まず、「親族」とは、日本の民法の規定による親族(6親等内の血族又は3 親等内の姻族)をいうものと解されています。
ちなみに、配偶者はそもそも「親族」に含まれません(配偶者には「配偶者控除」・「配偶者特別控除」という別の制度が用意されています)。
一方、たとえ民法上の親族に該当しなくても、児童福祉法の規定により里親に委託された児童および老人福祉法の規定により養護受託者に委託された老人で、そのその居住者と生計を一にするものは、ここにいう「親族」に含まれます(所法2条1項34号)

「扶養親族」の要件

上記の「親族」のうち、居住者と生計を一にするもので合計所得金額が48万円以下である者を「扶養親族」といいます所法2条1項34号)。
ここでの要件は「生計を一にする」と「
合計所得金額が48万円以下」の二つです。

「生計を一にする」とは、単に同一の家屋に起居していることをいうものではありません。
例えば、勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとされています(所得税基本通達(以下「所基通」2-47)。

  1. 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共に
    することを常例としている場合

  2. これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合

また、親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとされています。

なお、「生計を一にする」については、日本国内に居住することなどの要件は課されていませんので、日本国外に居住する家族も上記の要件を満たす限り扶養親族に該当します。
ただし、上記の扶養親族であっても、青色事業専従者として専従者給与の支払を受けている者または事業専従者に該当する者は、所得要件に関係なく、そもそも扶養親族には該当しないこととされています所法2条1項34号)

16歳以上

そして、扶養親族のうち年齢16歳以上の者が「控除対象扶養親族」に該当します(所法2条1項34号の2)。
したがって、16歳未満の親族は控除対象扶養親族にはなりません。
いわゆる「子ども手当」の恩恵を受けているため、税制上の恩典は不要ということだそうです。

控除のための手続き要件

源泉徴収

扶養控除は毎月お給料から源泉徴収(天引き)される所得税の計算にも反映されます。
ただし、これには手続き要件が2つあります。

  1. 「扶養控除申告書」の提出
    国内において給与等の支払を受ける居住者は、その給与等の支払者(その支払者が2 以上ある場合には、主たる給与等の支払者)か
    ら毎年最初に給与等の支払を受ける日の前日までに控除対象扶養親族に関する事項、控除対象配偶者に関する事項、控除対象配偶者又
    は扶養親族のうちに障害者がある場合にはその障害者に関する事項その他の事項を記載した給与所得者の「扶養控除等申告書」を、その給与等の支払者を経由してその給与等につき源泉徴収すべき所得税に係る納税地の所轄税務署長に提出しなければならないこととされています。
    源泉徴収段階において控除を受けようとする扶養控除の対象となる親族、配偶者控除の対象となる配偶者が非居住者である場合には、「扶養控除申告書」にその旨を記載します。

  2. 「親族関係書類」の添付または提示
    国外に居住する親族(以下「国外居住親族」といいます。)を「扶養控除申告書」に記載して提出する場合は、国外居住親族がその居住者の親族であることを証明する書類(以下「親族関係書類」)を一緒に提出(添付)するか提示します。

親族関係書類として認められるのは、以下のいずれかです。

  1. 戸籍の附票の写しまたは地方公共団体が発行した書類及び旅券の写し
  2. 外国政府又は外国の地方公共団体が発行した書類(国外居住親族の氏名、生年月日および住所または居所の記載があるものに限る。外国語で作成されている場合には、その翻訳文を含む)

年末調整

年末調整で扶養控除の適用を受けるには、その年最後に給与等の支払を受ける日の前日までに、扶養控除申告書・親族関係書類に加えて、「送金関係等書類」を給与の支払者に添付または提示する必要があります(所法195条の2第1項・2項、所得税法施行令(以下「所令」)318条の3 、
所得税法施行規則(以下「所規」)47条の2第4項・5項、74条の4 )。

「送金関係等書類」とは、「国外居住親族」が居住者と「生計を一にする」ことを明らかにする書類のことで、その居住者がその年においてその国外居住親族または配偶者特別控除に係る非居住者である配偶者(以下「国外居住親族等」といいます。)の生活費または教育費に充てるための支払を必要の都度、各人に行ったことを明らかにするもの(その書類が外国語で作成されている場合には、その翻訳文を含みます。)をいいます(所規47条の2第5項、74条の4 )。
具体的には、次の書類をいいます。

  1. 金融機関の送金依頼書など
    厳密には、「金融機関の書類又はその写しで、その金融機関が行う為替取引によって居住者から国外居住親族等に支払をしたことを明らかにするもの」です。ここにいう「金融機関」とは、内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律第2 条第3 号に規定する金融機関をいいます。銀行などがこれにあたりますが、「金融機関」に該当しない送金業者は該当しません。

  2. クレジットカードの利用明細書など
    これも、「クレジットカード等購入あっせん業者の書類又はその写しで、クレジットカード等を国外居住親族等が提示し又は通知して、特定の販売業者から商品若しくは権利を購入し、又は特定の役務提供事業者から有償で役務の提供を受けたことにより支払うこととなるその商品若しくは権利の代金又はその役務の対価に相当する額の金銭を居住者から受領し、又は受領することとなることを明らかにするもの」と厳密に定義されています。

確定申告

年末調整を受けていない場合には、自分で所得税の確定申告することで扶養控除の適用を受けられます。
このときは、「親族関係書類」と「送金関係等書類」を確定申告書に添付して提出するか、税務署で申告書を提出の際に提示します(所法120条3項2号)。

2015年以前の取扱い

以上の手続き要件は2016年(平成28年)分以降に適用されています。
2015年以前の年については親族関係書類」・「送金関係等書類」なしでも国外居住親族等の扶養控除を受けることができていました。
当時、
国外に「控除対象扶養親族」が居ながらも扶養控除を受けていなかった方は、これからでも親族関係書類」・「送金関係等書類」なしで扶養控除の適用を受けられます。

該当する年分の確定申告書を提出した人は「更正の請求」という手続きを、提出していない人はこれから「確定申告」をする必要がありますが、2014年分については2020年3月16日、2015年分は2021年3月15日が期限となります。
お心当たりのある方は、お早めに。

***

親族関係書類」・「送金関係等書類」が手続き要件に加わったのは2015年度(平成27年度)税制改正のときです。
当時の財務省の資料によると、
日本で働いている外国人の方は、日本人に比べて扶養している親族が多くなる傾向にあったそうです。
会計検査院が調査したところ、国外で扶養しているとされる親族が本当に「親族」なのか「生計を一にする」関係にあるのかが不明または疑わしい事例が多かったというのが改正の理由の一つとしてあげられています。(本当にそうなんでしょうか⁉)

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