Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant
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非居住者の退職金課税

非居住者といえども日本での勤務に関連して支払を受ける退職金に対しては日本の所得税が課税されます。もっとも、その課税ルールはちょっと複雑です。

課税対象

非居住者は日本国内で生じた所得(国内源泉所得)についてのみ所得税を課税されます(所得税法(以下「法」。)5条)。
退職金(退職所得)の場合、「退職手当等のうちその支払を受ける者が居住者であつた期間に行つた勤務その他の人的役務の提供(内国法人の役員として非居住者であつた期間に行つた勤務その他の政令で定める人的役務の提供を含む。)に基因するもの」が国内源泉所得とされています(法161条1項12号ハ)。

例えば、40年間務めた外国の会社を今年退職した人(退職時点では非居住者)が過去に5年間その会社の日本支店に勤務していたとします。
40年分の勤務に対する慰労金として退職後に4千万円が支払われました。
慰労金に関する社内規定に照らして計算すると日本支店勤務期間に対応する慰労金の額は8百万円でした…
という場合、その8百万円部分が国内源泉所得になります。
結果、4千万円のうち8百万円が日本で課税されます。

課税方法

非居住者の退職所得は他の種類の所得とは合算せずに単独で課税所得、税額を計算する「分離課税」という方法で課税されます(法164条2項)。
したがって、たとえ他の国内源泉所得の計算結果が赤字であっても、退職所得と所得を通算するとはできません。
例えば、日本に所有する不動産を貸し付けたことによる所得は「不動産所得」という国内源泉所得になります。この不動産所得は総合課税という方法で課税されます。経費がかかりすぎてこの不動産所得が赤字だった場合、同じ総合課税で課税される給与所得と通算はできますが、分離課税の対象である退職所得との通算はできません。

課税標準額

支給額のうち国内源泉所得とされる金額です。
厳密には「その支払を受けるべき当該国内源泉所得の金額」(法169条1項)なので、実際に支給されていなくても受給権が法的に確定している退職金の額も含みます。
一般的な退職金は退職した時点で受給権が確定するので、その金額を退職日の属する年の所得としてカウントすることになります。

税率

20.42%(復興特別所得税を含む)です(法170条)。
ただし、のちに説明する「選択課税」を適用する場合は5%~45%の超過累進税率で課税されます。

源泉徴収

国内で支払われる場合は、支払者が20.42%の税率で所得税を源泉徴収します(法212条1項)。

支払場所が国外の場合は、源泉徴収はありません。
ただし、国内の支払者に代わって国外で支払がされる場合、例えば日本支店が支払うべき退職金を海外の本店が立て替えて支払う場合は国内払い扱いとなり源泉徴収が必要になります(法212条2項)。

準確定申告

国内源泉所得になる退職金が源泉徴収なしで支払われた場合(国外払いの場合など)は、支払を受ける本人が日本の税務署に申告・納税しなければなりません(法172条)。
この申告は一般的な所得税税の確定申告とは区別され「準確定申告」とよばれます。
準確定申告には下記の専用の書式を用います。

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なお、税率20.42%の準確定申告に代えて、次に説明する「選択課税申告」によって申告・納税することもできます。

選択課税申告

退職金から源泉徴収されている場合は支払を受ける非居住者本人が税務申告する必要はありません。
ただし、この源泉徴収税額は居住者に支払う退職金の源泉徴収税額とは異なる方法で計算されており、その税負担が居住者に比べて割高になることがあります。
居住者の場合、退職所得控除後の退職所得(一般的な退職金の場合、実際に課税される金額はその2分の1)に対して超過累進税率(課税所得金額に応じて5%~45%)を乗じて所得税額を計算します。
これに対して非居住者の場合は、支給額(退職所得控除前)に対して一律20.42%の税率で課税されます。

例えば、勤続年数5年分の退職金8百万円が居住者と非居住者に支払われた場合、それぞれの源泉徴収税額は以下のように計算します。

居住者:{(8,000,000円-400,000円×5)×1/2×10%-97,500円}×1.021=206,752円

非居住者:8,000,000円 ×20.42% = 1,633,600円

税率、退職所得控除の額等は令和2年12月現在の法令に準拠しています。

このように、同じ金額の退職金が支給されても税負担に違いが生じる場合に配慮して、非居住者も居住者と同じ方法で退職所得の申告・納税ができることになっています(所得税法171条、30条2項、3項、所得税法施行令69条1項2号)。
この方法による申告・納税を「退職所得の選択課税」といいます。

退職所得の選択課税により提出する申告書は一般の所得税確定申告と区別して「退職所得選択課税申告書」と呼ばれていますが、専用の申告書様式があるわけではなく、通常の書式(第1表・第2表)に「分離課税用」という書式(第3表)を追加したものを用います。

退職所得の選択課税によって計算した税額が源泉徴収税額に満たない場合はその差額(先の例では1,633,600-206,752=1,426,848円)が還付されます。

もっとも、退職所得の選択課税が有利な結果になるとは限りません。

例えば、勤続年数5年分の退職金が10億円だったとしたら、居住者・非居住者それぞれの源泉徴収税額は以下のように計算されます。

居住者:{(10億円-400,000円×5)×1/2×45%-4,796,000円}×1.021=224,368,834円

非居住者:10億円 ×20.42% =204,200,000円

税率、退職所得控除の額等は令和2年12月現在の法令に準拠しています。

退職所得の選択課税(居住者なみ課税)を選ぶと20,168,834円の追加納税になってしまいます。このような場合は、選択課税によらず20.42%の源泉徴収のままにしておく方が有利です。

厚生年金保険脱退一時金

日本で会社勤めをしていた外国籍の方が帰国等の理由により厚生年金から脱退した後で「厚生年金脱退保険脱退一時金」というものの支給を受けることがあります。

厚生年金保険脱退一時金は、本来の意味での退職金ではないものの、所得税法上「退職所得」とみなして課税することになっており(所得税法31条1項1号、30条)、非居住者への支払時には支給総額の20.42%が所得税として源泉徴収されます(所得税法212条1項、161条1項12号ハ、213条1項)。

この厚生年金保険脱退一時金についても退職所得の選択課税による申告・納税が認められています。

なお、選択課税にあたっては「(その年中に支払を受ける当該退職手当等が二以上ある場合には、それぞれの退職手当等の支払の基因となつた退職)を事由としてその年中に支払を受ける退職手当等の総額を居住者として受けたものとみなして」申告・納税することになっているため(法171条かっこ書き)、厚生年金保険脱退一時金以外にも非居住者として退職金の支給を受けている場合は、それらをすべて合算したうえで税額計算をします。
例えば、非居住者が日本における勤務に起因する退職金と厚生年金保険脱退一時金の両方を受け取る場合は、いずれか一方だけを選択課税申告の対象にするのではなく、両方を対象にしなければなりません。

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以上がルールの概要ですが、日本から払われる退職金が源泉徴収の対象になると知っていても、国外で支払われる退職金について日本で申告が必要になるケースがあると理解している方は少ないように思います。
実際には税法どおりに課税することが難しい領域の一つではないかという印象をもっております。

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