Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

経理妻?part2 - 償却資産税は突然に

先日(かなり前ですが)ブログ「経理妻?」で、経理を任された奥様の悲哀についての記事をご紹介しましたが、その続きがありました。
前回とは違った意味で面白い記事でしたので、また引用させていただきます。

夫婦経営のレストランを襲う“謎の税金” 経理妻を泣かすブラック税制 (3)

償却資産税をご存じない?

この記事で取り上げられた「経理妻」Cさんはレストランの内装工事に「償却資産税」が課税されることを知らなかったそうです。
Cさんのレストランは東京都内にあるようです。
こんなに償却資産税の知名度が低いのでは、東京都主税局イメージキャラクター「タクちゃん」「ノンちゃん」の責任が問われかねません。

土地・家屋に課税される「固定資産税」は個人事業者でなくても知っているメジャーな税金ですが、事業用の設備(土地・家屋以外)に課税される「償却資産税」はマイナーな存在だと訴えているようです。
ちなみに、法律上は「償却資産税」という税目はなく、償却資産に課税される固定資産税をそう呼ぶのが通例のようです。

さんは経理歴20年のベテランですが、「償却資産税」など聞いたことがなかったそうです。
償却資産に対する固定資産税には免税点(課税を免除する基準)があり、課税標準額(償却資産の評価額)の合計が150万円未満の場合には課税されません(地方税法351条)。
おそらくは、免税点を超えて実際に償却資産税を払っているような人がCさんの周りにいなかったのでしょう。
ちなみに、免税点以下でも申告だけは必要なので「償却資産税」という言葉を知らない事業者は少ないはずなのですが、実際のところ資産計上して減価償却しなければならないほど高額な資産を所有している個人事業者は少ないということなのでしょう。

「経費なので課税しない」と「資産だから課税する」は矛盾する?

いきなり償却資産税を5年分支払えといわれた経理妻Cさんの怒りは収まりません。
Cさん曰く「この税の存在そのものに、理不尽さを感じました。というのも、国に納める税では、店の内装は『経費』として計上されます。つまり、課税対象の利益から、差し引かれる扱いのはずなんです」。
記事をかかれた方も「国から『経費なので課税しない』とされているものが、都からは『それは資産だから課税する』と言われる――。普通の市民感覚としては、矛盾を感じる内容となっている。」と述べられています。

たしかに「普通の市民感覚」はそうかもしれませんが、残念ながら所得税・法人税で経費算入できることと、償却資産税が課税されることは矛盾するとはいえません。
おそらくさんは「二重課税」が生じていると思って「理不尽さ」を訴えているのではないかと思われますが、本件は二重課税の事案ではありません。

「二重課税」とは?

「二重課税」とは同一の課税物件に同種の税金が繰り返し課税されることです。
たとえば、所得(収入金額から必要経費を差し引いた残り=利益)に対して国が所得税、地方自治体が住民税を課税することは実質的には二重課税といえます。
ただし、所得税(国税)と住民税(地方税)はそれぞれ別個の法律に基づいて課税される別種の税金という建前がありますので、法律上は二重課税はないとされています。
一方で、法人の所得に対する法人税と個人の所得対する所得税(いずれも国税)も別個の法律に基づいて課税される税金ですが、両者の間に二重課税があるということを前提に、二重課税を緩和する措置がそれぞれの法律の中に盛り込まれています。
つまり、現行法のもとでは、国税と地方税の間では二重課税は容認されている、あるいは「二重課税」は存在しないことになっているといえます。

資産課税と所得課税の関係

償却資産の課税物件は償却資産の「存在」であり、課税標準は償却資産の「価値=価額」です。
したがって、手放して自分の手元に存在しなくなった資産や、使い切って無価値になった資産は課税されません。
一方、所得税・法人税の課税物件は「所得」すなわち「利益」であり、課税標準は所得(利益)の金額です。
「利益」がなければ所得税・法人税は課税されませんが、そんなこととは無関係に償却資産税は課税されます。
また、償却資産の減価償却費が所得金額の計算上必要経費として認められても、そのことが償却資産の存在や価値を否定するものではありません。
償却資産税の課税標準となる償却資産の「価値」は年々減少していきます。
これは減価償却によって費用化された部分については課税しないという趣旨ですから、そもそもCさんがいっていたような「経費なので課税しない」とされている部分に課税されているわけではありません。
このような仕組みをCさんが知れば、償却資産税と所得税・法人税は「異なる課税物件の異なる部分に課税する」関係にある、すなわち、二重課税の関係にないということがおわかりいただけたのではないでしょうか(納得するかどうかは別として)。

身近にある「二重課税」

日本国内で生じる明らかな二重課税の例として「ガソリン税」と「消費税」の重複課税があります。
ガソリン税は揮発油税(国税)と地方揮発油税(地方税)の総称で、課税物件は「揮発油」です(揮発油税法1条)。
ガソリン税は消費税と同じく販売業者が申告・納税するものの、その税金は最終消費者が負担する仕組みで課税されます。
ちなみに、このように最終消費者が間接的に納税する税金を「間接税」といいます。

一方、消費税の課税物件は「資産の譲渡等」です。
「消費」税というくらいですから、本来は消費者による「消費」が課税物件となるはずですが、そうでないのは課税する側の都合によるものです。
「資産の譲渡等」を最終消費者の目線からいえば「資産の仕入れ等」すなわち「消費」の一歩手前の活動を意味します。
モノやサービスを売れば、それを買った消費者がそれを「消費」することがほぼ確実ですから、このタイミングで「消費」されたものとして課税し、販売業者をつかって税金を消費者から集めてしまおうという趣旨です。

ガソリン税は「揮発油」というモノそのもの、消費税はモノの「消費」を課税物件とするので、いちおう「異なる課税物件」に課税するから二重課税はないといえなくもありません。
しかし、消費税の課税標準である「資産の譲渡等の対価」すなわちガソリンの代金にはガソリン税が含まれるため、「税金に税金が課税される」という意味での二重課税が生じています。
これこそ、ゆゆしき「二重課税」問題としていろんな人が糾弾していますが、なかなか解消されません。
おなじ燃料でも軽油に課税される「軽油取引税」は消費税の課税標準には含まれません。
一般的には、ガソリン税が製造業者のコストになる税金(販売価格に含めて転嫁するもの)であるのに対して軽油取引税は製造後の取引に課税される税金(税金として販売価格とは別に転嫁するもの)であることが取扱いの差になっているといわれますが、それこそ「普通の市民感覚」では理解しがたいですね。

こういった「市民感覚」と課税庁の論理のズレを解消するために、行政はもっと丁寧な広報活動をすべきなんですが、国も地方自治体も民間にくらべるとイマイチです。
「タクちゃん」「ノンちゃん」にも一層がんばっていただきましょう。

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