Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant
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税効果会計について

今日はテーマは「税効果会計」です。
「税」という言葉がたくさんでてきますが、税務ではなく純粋に会計理論のお話しです。
実は会社の経理担当者の方でも、税効果会計=税務の問題と思っている人がいます。
確かに税務と密接に関連するテーマなのですが、税効果会計を適用してもしなくても申告納税額には影響しません。
税効果会計は「法人税等」という費用の配分に関する会計上の技法にすぎないのです。
そのあたりを解説していきます。

税引前と税引後

会社の損益計算書(P/L)をよくみるとその末尾に「税引前当期純利益」と「当期純利益」の2種類の利益があります。
その間に「法人税等(法人税、住民税及び事業税)」、会社によってはさらに「法人税等調整」という項目があることから、当期純利益が「税引後」の利益であることがわかります。
どうして最終利益を「税引前」と「税引後」にわけて表示することになったのか、その沿革はわかりません。
大昔、税理士試験のために専門学校に通っていた時に、この二つの利益の違いは当然教わっているのですが、なぜ分けて表示する必要があるのか聞いた覚えがないのです。
単にヤマグチが覚えていないだけという可能性もありますが、思うに、二段階で利益を表示した方がより適正に会社の業績を表すことができると誰かが考えたのではないかと想像しています。
なぜなら、財務会計の観点からは、税務上の「所得」は会計上の「利益」とは異質なものだからです。
異質なものである「所得」を課税標準に算定される「法人税等」はやはり異質なのです。
異質なものの影響を受ける前後で利益を区別して見せた方が、本来の業績結果と異質なものも含めた結果の両方が分かって良いということではないでしょうか。

法人税等

では、税引前当期純利益の直後に表示される「法人税等」は何を意味するのでしょうか?
この金額は、本来各事業年度の所得に対する法人税、法人住民税、事業税の年税額を表します。
年税額は確定申告書を提出することで確定します。
確定申告書は確定した決算をもとに作成されます。
とうことは、決算確定前には年税額も確定しないので、P/Lに「法人税等」として表示する年税額も決まらないではないか!とお気づきの貴方は鋭いです。

P/L上の「法人税等」は確定申告書上の年税額と一致するとは限りません。
なぜなら、P/L上の「法人税等」は見積もり額で表示されることが多いからです。
前述のように、年税額は決算が確定した後に確定申告によって最終的に確定しますので、決算の段階では見積もりに頼らざるをえないのです。
会社によっては「利益」と「所得」の差がほとんどなく、決算の段階で年税額を正確に算定できることもありますが、会社の規模が大きくなるにつれ、その差は大きくなりがちなので、年税額の見積もりは難しくなってきます。
会社法や金融商品取引法で会計監査を義務付けられている会社の場合、この年税額の見積もりが適正にできているかもチェック項目になっていますので、会社の経理担当者さんも会計監査人(公認会計士)も法人税の知識がなければ対応できません。

ちなみに、貸借対照表(B/S)の負債の部に表示される「法人税等未払金」はP/L上見積もった「法人税等」の年税額のうち期末時点での未納額を意味します。
普通は年税額から中間納付額を引いた残額ですが、税務調査後の更正処分や修正申告によって過年度の税金の未納が生じれば、その金額も含まれます。
税務調査の途中で決算を迎えると、調査が見通しを巡って会社と監査人で意見が対立することもあります。会社が更正・修正申告はないといっても、監査人は保守的に過年度の不足税額を早め・多めに計上させたがるからです。

法人税等調整額

さて、ここからが本題です。
私が社会人になりたて(1980年代後半)のころは、大企業であっても「法人税等」をそのまま費用として控除して「当期純利益」を計算してもOKでした。
ところがその後、「法人税等」がいくら「異質」な項目といえども、その全額をその事業年度の一時費用にするのはよくないという考え方が日本にも入ってきました。
その考え方に基づく会計理論が「税効果会計」です。
もともとは欧米(特にアメリカ)で考え出された理論で、「利益」と「所得」の差になっている「異質」な原因を特定し、その原因に応じて、その原因に関連する税額を、その原因が解消する将来の事業年度に配分していけば「当期純利益」をより適正に表示できるでしょ?という超マニアックなアイデアです。

P/Lに表示される「法人税等調整額」はその直前の「法人税等」の配分調整額を意味します。
調整の対象となる税額はその事業年度だけでなく過年度の「法人税等」も含みます。
一方B/Sに表示される「繰延税金資産」や「繰延税金負債」は将来の事業年度に繰り越されていく配分調整額の累計額を示しています。

税効果会計の仕組み

「異質」な原因ごとに税金を配分することが、どうして「当期純利益」をより適正に表示することになるのでしょう?
これは「利益」と「所得」の差になっている「申告調整項目」の性質を知ると理解できます。
さきほど、「所得」と「利益」は異質なものと申し上げました。
それは、両者がそれぞれ異なる目的のために算定されるものという意味で「異質」なのですが、「所得」は「利益」をもとに計算されます(詳細はブログ「『所得』と『利益』はどう違う」にまとめてあります)。
「利益」のままでは税務申告という目的には相いれない「異質」な項目を調整しながら「所得」を計算していくのが、日本の法人税の課税所得計算の構造です。
その調整項目が「申告調整項目」です。
申告調整項目は二種類に大別されます。
一つは「永久差異」というものです。
これは、いつまで待っても「利益」と「所得」の差が解消しない部分のことです。
もう一つは「一時差異」とうものです。
こちらは待てばいつかは解消するはずの差異のことです。

税効果会計は「申告調整項目」のうち「一時差異」に対応する税額を、その税額が生じた事業年度から解消する事業年度まで配分する財務会計上の技法なのです。
解消することのない「永久差異」に対応する税額は、配分されることなく差が生じた事業年度の「法人税等」の中にとどまります。

簡単な設例で説明すると以下のようになります。

2018 2019 2020 2021 2022 5年通算
A  税引前当期純利益 1,000 1,000 1,000 1,000 1,000 5,000
B  交際費の損金不算入(永久差異)  300  400 600 1,300
C  未払費用否認(一時差異) 500  △300 △200  0
D  課税所得 (A+B+C) 1,000 1,300  1,900  700 1,400  6,300
E  法人税等(@30%)  300 390  570 210 420 1,890
F  当期純利益(税効果会計なし)(A-E)  700 610  430 790 580 3,110
G  法人税等調整額 (C x 30%) △150 90 60 0
H  当期純利益(税効果会計あり)(A-E+G) 700 610 280 880 640    3,110

申告調整項目がない2018年は、税効果会計の適用あり・なしで「当期純利益」に違いはありません。
これは「利益」と「所得」がたまたま一致したためです。

2019年は「永久差異」300が生じた結果、所得は1,300、年税額は390となりました。
「利益」と「所得」は一致しませんが、差の原因となった永久差異に対応する税額90はそのまま年税額390の中にとどまります。

2020年には「永久差異」400と「一時差異」500が生じました。
結果、年税額は570まで増えますが、このうち一時差異に対応する150は2021年から2022年にかけて解消する見通しです。
2021年に解消する300に対応する税額90と2022年に解消する200に対応する60の合計150を2020年の年税額からそれぞれの年度に配分します。
この配分こそが「税効果会計」の機能なのです。

税効果会計を適用すると、2020年以降各年度の当期純利益は280、880、640に修正されます。
2018年から2022年までの5年間の当期純利益の合計は3,110です。
税効果会計を適用しない場合の5年間の当期純利益の合計も3,110になります。

中小法人にも適用すべきか?

さて、会社の利害関係者は2020年から2022年までの3年間の間、税効果会計適用あり・なしのとちらの当期純利益を信頼するでしょうか?
人によっては保守的に当期純利益が控えめにでる方を信頼する人もいるでしょう。
しかし、設例にみるように税効果会計は通算すればゼロサムの調整ですから、ある年度に利益を減らしてもその反動で別の年度の利益を押し上げます。
会計基準は継続して適用してこそ利害関係者が年度ごとに比較検討できるので、保守的な結果がでる年度だけ税効果会計を適用することはできません。

結論としては、一時差異が大きく生じる会社は税効果会計を適用したほうが利害関係者の信頼を得られると思います。
ただし、税効果会計を適用するということは決算手続が増えることを意味します。

冒頭にお話ししたように、税効果会計は純粋に会計理論の問題であって、税務申告(課税所得や税額)には影響しません。
会計監査が必要とされない規模の会社については、一時差異の影響額、株主等の会社関係者への利害、経理体制をはかりにかけて、余裕がある場合に適用を考えれてもよいのではないでしょうか。

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