Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

税込方式と税抜方式

消費税の会計処理は「税込方式」と「税抜方式」のいずれかを選択できます。
なんとなく気分で選んでいる方も多いかと思うのですが、いずれによるかによって会計上だけでなく税務上の取扱いにも差が出ることもあります。
決算・申告のときになって「うっ…」ということにならないよう、事前によく検討しておきましょう。

会計上の違い

会計上の指針といえる基準は、日本公認会計士協会(JICPA)が公表した「消費税の会計処理について(中間報告)」(1989年1月18日付。以下「報告」)です。
この報告では、税抜方式と税込方式の選択を認めながらも、以下の理由から税抜方式が適当であるしています(報告 第2.会計処理の基本的考え方)。

消費税は、付加価値に課税するものであり、原則として、資産の譲渡等の都度その対価の額につき課税を行うこととし、その前段階に課された税額を控除又は還付して調整すうこととされている。このように仕入等に係る消費税(以下「仕入税」という。)は、一種の仮払金ないし売上等に係る消費税(以下「販売税」という。)から控除される一種の通過支出であり、各段階の納税義務者である企業においては、消費税の会計処理が損益計算に影響を及ぼさない方式(税抜方式)を採用することが適当である。

では、どのような場合に、税込方式だと期間損益に影響が及んでしまうのでしょうか?
以下、設例(字が小さくてすみません)をみながら確認してみましょう。

まず、期中の仕訳を税込方式と税抜方式で比較してみます。
商品を仕入れて、販売して、器具備品を購入したという前提です。
いずれも課税取引(課税資産の譲渡等)で10%課税です。

図1

次に、残高試算表に基づいて消費税の納税額を計算します。
このステップではどちらの会計処理によっても、同じ結果になります。
本例は、課税売上割合100%で仕入税額が全額控除できるとシンプルな事例です。
仕入税額230が売上に係る消費税額200を上回っていましたので、30の還付になります。

図2

この消費税の計算結果(還付額30)を決算整理仕訳として計上します。
同時に、期首に購入した器具備品の減価償却費(耐用年数4年、定額法)、期末在庫商品も計上し、決算整理後残高試算表を作成します。

図3

決算整理後残高試算表に基づき貸借対照表を作成します。
見ての通り、税込方式と税抜方式とでは商品、器具備品、減価償却累計額、そして株主資本(剰余金)の残高に違いが生じています。

図4

損益計算書にも違いが生じています。

図5

これらの期間損益の差額は、次年度に繰り越した商品を売り切ったとき、器具備品を償却しきったときに、解消します。
しかし、一般的な「継続企業」であれば、継続的に商品を仕入れて、設備投資を行っていくため、上記のような税込方式と税抜方式の差額も継続的に生じていくことになります。
JICPAの報告が指摘するように、消費税は通過勘定的なものであるため、本来(特に、課税売上割合100%の場合)は期間損益に影響しないはずですが、税込方式を採用すると上記のように期間損益に影響が生じ、それが毎年度繰り返されることになります。

なお、報告は税込方式を不適当として否定するわけではなく、非課税取引が主要な部分を占める(最終消費者的な立場にいる)企業、簡易課税制度を採用する企業においては採用することができるとしています。
もっとも、現実的な会計実務では、特に中小企業においては、業種業態等からの判断よりは、経理処理が簡易だという理由で税込方式を採用することが多いように見受けられます。
また、消費税の納税義務が免除されている小規模事業者(いわゆる「免税事業者」)については、税込方式のほうがむしろ適当といえるかもしれません。
いずれにしても、税込方式と税抜方式は任意に選択適用できることになっています。

税務上の違い

税務上の取扱いも会計上の選択の上に成り立っていますので、いずれの方法を採るかによって違いが生じます。
以下、主要な税目での違いを見ていきます。

消費税申告

原則

上述の設例で見たように、消費税申告書上の納税額計算には差が生じない(生じさせない)のが原則です。
消費税の申告計算では税込方式がデフォルトです。

特例

しかしながら、会計上税抜方式によっている納税者にとって、わざわざ申告のために税込方式に戻せというのは酷な話しです。
そこで、税抜方式の採用している場合には、仮払消費税、仮受消費税として「積上げ」た税額をベースに納税額を計算してもよいという特例が設けられています。
もっとも、この特例は、会計帳簿をもとに消費税の申告を行う現行の「帳簿方式」が採られている間の特例です。
請求書等に記載された消費税額をもとに申告する「インボイス方式」導入後は、この特例も廃止されるか、形を変えることになると思われます。

所得税・法人税申告

税込方式よる場合は、消費税申告による納税額・還付額を損益(課税所得金額)に反映させる必要があります。
税抜方式の場合は、課税売上割合100%の場合など仕入税額の全額を控除できるときはそのままで良いのですが、そうでないときは控除対象外消費税(控除できない仕入税額)を損益に反映させます。

いずれの場合も、先述の設例のように帳簿上損益に反映させておけば、所得税・法人税の申告書上特に調整は不要です。
何らかの事情で、帳簿に損益が正しく反映できていないときは、申告書上で課税所得に対する調整を行います。
なお、簡易課税方式で消費税の申告をする事業者は、税抜方式をとっていても、納税額=仮受消費税ー仮払消費税とはならず、必ず差額が生じますので、その差額を損益に振り替えるステップが必要になります。

譲渡所得

譲渡所得は、資産の譲渡対価と譲渡原価等の差額として計算されますので、これら対価と原価等の額が税込か税抜かで譲渡所得の金額も違ってきます。
ただし、個人の場合は、事業用資産・賃貸用不動産以外の資産(生活用資産)の譲渡所得は常に税込で計算しますので、会計処理の違いは問題になりません。

減価償却等

先述の例のとおり、減価償却の基礎となる固定資産の取得価額が税込か税抜かによって減価償却費に違いが生じます。
開業費・開発費等の繰延資産の償却費、前払費用の期間配分額についても同様です。

少額資産等

取得した固定資産が少額の減価償却資産に該当するかどうかの判定も影響を受けます。
会計上の取得価額どおりの判定なので、本体価格99,000円(税込108,900円)の固定資産は、税込方式では少額資産になりませんが、税抜方式では少額資産に該当します。
中小企業者等の少額資産損金算入の特例(いわゆる「中小企業特例」「30万円未満特例」、一括償却資産の特例(20万円未満の資産を3年間にわたって均等償却できる特例)における取得価額の判定についても同様です。

試験研究費

「試験研究費の総額に係る税額控除」、「中小企業技術基盤強化税制」など試験研究費の支出額に応じて法人税の負担が軽減される措置があります。
試験研究費の額が税込か税抜きかによって、これらの特例を適用できるかどうか、税額控除の額が違ってきます。

交際費

法人の場合、交際費として経理された額が税込か税抜かによっても、所得計算への影響があります。
基本的には、会計上の計上額がそのまま税務上の判定に用いられますので、法人税法上の交際費の損金算入限度額の超過判定などに影響します。
また、税抜方式を採っている場合に控除対象外消費税があるときは、交際費に係る消費税のうち控除対象外消費税に相当する金額も支出交際費としてカウントしなければなりません。

資産に係る控除対象外消費税

税抜方式による場合で、課税売上割合が80%未満の年に比較的高額な資産(たな卸資産を除く)を購入したときは要注意です。
その資産に係る控除対象外消費税の額が20万円以上であるときは、その額を「繰延消費税」として資産計上し、60か月にわたって均等に必要経費・損金の額に算入するという税務調整が必要になります。

源泉徴収・法定調書

弁護士や税理士などに支払う報酬から源泉徴収する所得税・復興特別所得税の計算も税込か税抜かが影響します。
原則は税込金額をベースに源泉徴収税額を計算します。
ただし、請求書・契約書において、報酬額と消費税額が明確に区分されているときは、税抜金額をベースに源泉徴収税額を計算することもできます。

また、法定調書に記載する報酬金額も原則として税込ですが、請求書等において報酬額と消費税額が明確に区分されているときは、税抜金額を記載してもよいことになっています。
支払調書の提出範囲の判定額(「年5万円超」など)についても原則は税込ですが、請求書等において報酬額と消費税額が明確に区分されているときは、税抜金額で判定しても差し支えないとされています。

これら源泉徴収・法定調書に関する特例は、あくまでも請求書等において報酬額と消費税額が明確に区分されている場合の取扱いであって、納税者側の会計処理が税込か税抜かとは無関係です。

 

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ざっと見た感じ、どちらが有利に思えますか?
私は個人的には中小企業は税込方式がよいと思っています。
ただし、税抜き10万円~30万円くらいの固定資産を頻繁に購入するクライアント様には、税抜方式をおすすめしています。
いずれを採るかは決算確定までに決めればよいので、その年ごとに有利選択しても悪くないです。
会計ソフトによっては、期中は税込で経理しておき、期末に設定ひとつで税込と税抜をスイッチできるものあります。

 

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