決算公告って聞いたことあります?
新聞の広告欄に会社の決算書(貸借対照表・損益計算書の要旨)が掲載されているのをみたことありませんか?あれが決算公告です。
決算公告は単なる広告宣伝ではありません。法律でそうするよう義務付けられているものなのです。
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「公告」は世間一般に対する「お知らせ」のようなものです。
「決算公告」は会社の決算内容を世の中(主に会社の利害関係者)に知らしめる制度で、会社法に以下のように定められています。
第440条 計算書類の公告
株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない。2 前項の規定にかかわらず、その公告方法が第939条第1項第1号又は第2号に掲げる方法である株式会社は、前項に規定する貸借対照表の要旨を公告することで足りる。
3 前項の株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、第1項に規定する貸借対照表の内容である情報を、定時株主総会の終結の日後5年を経過する日までの間、継続して電磁的方法により不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置く措置をとることができる。この場合においては、前2項の規定は、適用しない。
4 金融商品取引法第24条第1項の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社については、前3項の規定は、適用しない。
第939条 会社の公告方法
会社は、公告方法として、次に掲げる方法のいずれかを定款で定めることができる。
一 官報に掲載する方法
二 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法
三 電子公告2 外国会社は、公告方法として、前項各号に掲げる方法のいずれかを定めることができる。
3 会社又は外国会社が第1項第3号に掲げる方法を公告方法とする旨を定める場合には、電子公告を公告方法とする旨を定めれば足りる。この場合においては、事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合の公告方法として、同項第1号又は第2号に掲げる方法のいずれかを定めることができる。
4 第1項又は第2項の規定による定めがない会社又は外国会社の公告方法は、第1項第1号の方法とする。
これらを要約すると、
ということです。
この公告を怠ったとき、又は不正の公告をしたときは、会社の取締役に100万円以下の過料(行政罰)が課されます(会社法976条2号)。
なお、決算公告制度の対象は株式会社に限られているため、合同会社等の持分会社や特例有限会社(2006年5月1日以前に有限会社であった会社)は決算公告は不要です。
立法・司法・行政に関わる事柄の広報および公告をその使命とする国の機関紙です。
「国立印刷局」という独立行政法人が毎日(行政機関の休日を除く)発行し、「官報販売所」で販売されています。
発行日には国立印刷局の掲示板や官報販売所の掲示板に掲示され(冒頭の写真は、私の事務所近くの官報販売所の掲示板の様子です)、ウェブサイト(インターネット版官報)でも閲覧することができます(過去30日間に限り無料)。
国会(立法機関)が新たに決議した法律や内閣・各大臣(行政機関)が新たに定めた政令・省令等の公布、各行政機関からの告示、裁判所(司法機関)からの公告(破産宣告、失踪宣告など)、さらには国家公務員の人事異動や、国家試験の合格発表まで、いろいろ掲載されています。
そして私企業の決算公告も掲載できますが、これは有料です。
料金は掲載する行数・枠数で変わってきます。貸借対照表の要旨を掲載しようとすると2枠(A4版の12分の1の大きさ)は必要で、最低でも税込で7万円ちょっとかかりそうです(参考:株式会社兵庫県官報販売所HP)。
このように費用が発生するためか、官報で公告する貸借対照表(大会社はさらに損益計算書)は「要旨」=おおまかな金額レベルのもので良いとされています(会社法440条2項)。
「おおまかさ」のレベルは会社が「公開会社」か「非公開会社」によって若干異なります。
「非公開会社」とは、発行する株式の全部について譲渡制限(会社の承認なしに勝手に譲渡できないという条件)を設けている会社のことです。株式の一部でも譲渡制限がついていなければ、その会社は「公開会社」に該当します(会社法2条5号)。
譲渡制限の有無・内容は会社定款で確認できます。
一般人を対象とした日刊の新聞を意味するといわれています。
全国5紙(日経・朝日・読売・毎日・産経)はまず問題なくこれに該当します。
地方企業であればブロック6紙(北海道・河北新報・中日・東京・中国・西日本)や県紙でもよいと思います。
「時事に関する事項を掲載する」となっていますので、スポーツ新聞・業界紙・タウン誌など、特定分野にフォーカスした新聞は該当しません。
なお、英字新聞は「時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙」であっても、日本では一般人を対象としたものとは言い難いので避けた方が無難と思われます。
料金は新聞社ごとに異なりますが、全国紙掲載だと官報よりも高くなりそうです(参考:日本経済新聞)。
官報の場合と同じく、掲載する貸借対照表等は「要旨」でOKです。
自社のホームページなどインターネット上に掲載する方法です(会社法施行規則223条)。
会社定款が定める公告方法が官報・新聞になっていても、電子公告して差し支えありませんが、その場合は公告内容を5年間継続して掲載し続けることが条件になります(会社法440条3項)。
なお、電子公告の場合は「要旨」ではなく「全文」を掲載しなければなりません(会社法440条3項・同条2項反対解釈)。
すでにホームページがある会社にとっては安上がりな方法になると思いますが、不特定多数者に向けた全文掲載に抵抗があれば、官報・新聞での公告を選択したほうが良いでしょう。
会社法には「決算公告」以外にもいろいろな場面で「公告」を義務付ける規定があります。
例えば、資本金を減少させるとき、合併・会社分割をするとき、組織変更(例:合同会社を株式会社に改編)するときなどは、債権者保護を徹底するために株式会社だけでなく持分会社も公告するよう義務付けられています。
また、決算公告以外の公告は定款に定めた方法でしか行えませんし、電子公告による場合は「電子公告調査機関」への調査委託が必須です(料金もかかります)。
定款の定めに関わりなく、しかも「電子公告調査機関」への委託なしで電子公告できる決算公告が異例であり、その他の公告は原則どおり厳格に定款どおりに実施しなければなりません。
定款に公告方法の定めを置くときには、決算公告だけでなく、その他の公告についても考慮して方法を選択すべきかと思います。
また、定款で公告方法を電子公告と定めた場合は、そのwebサイトのURLなども登記事項になります(会社法911条3項28号、912条9号、913条11号、914条10号)のでご注意ください。
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ほとんどの方は官報の公告とは無縁の日常を過ごされていると思いますが、実は重要な機能を果たしているのです。
官報で公布・告示・公告された内容は、法律上は一般に周知されたものとみなされてしまいますから「官報なんか見てないよ!」といっても、知らなかったでは済まされなくなります(あくまでも法律上の話ですが…)。そういう意味ではちょっと怖い存在です。
かく言う私も自分で官報を買ったのは、自分が税理士試験に合格したときくらいのものです。