Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

「かぼちゃの馬車」に乗った相続税「恐怖症」

社会問題になっているシェアハウス商法。
最近はスルガ銀行の同族経営が諸悪の根源のように報じられています。
それも一因でしょう。
でもこの事件の端緒は2015年の相続税改正にあるように思うのです。

相続税「恐怖症」

2015年の相続税改正の目玉は「小規模宅地の評価減」の拡充というアメと基礎控除の縮小というムチです。
前者が相続財産評価額ベースで72万円ほどの減額であるのに対して、後者は定額部分で2000万円、相続人一人あたり400万円もベースアップをもたらします。
地価が高い大都市圏では、ムチの痛みでアメの甘さを味わうどころじゃない人がほとんどでしょう。

ムチが怖くて身構えるのは当然です。
ましてや相続財産のほとんどが不動産だと納税のために、売りたくない不動産を手放さなければならないという心配がつきまといます。
しかも相続した不動産を売れば譲渡所得に対する所得税もかかりますから、その納税資金も心配です。
2015年の改正によって新たに「相続税恐怖症」になった人は多いと思われます。

「新参者」はカモ

こうした相続税のお悩み・心配ごとは金融機関、不動産業界、各種「コンサルタント」と称する人たち、そしてわれわれ税理士にとってもビジネスチャンスになっています。
長年相続税恐怖症と付き合ってきた慢性患者(資産家)はすでに良い「ドクター」を知っていたり、経験則で対処法を心得ていますので、変な業者にひっかかることは少ないと思います。

一方「急性患者」は誰を頼って良いかわかりませんから、たまたま通りかかった「馬車」を救急車だと思って飛び乗ってしまうかもしれません。
「かぼちゃの馬車」の運営会社だったスマートライフ社も2015年当時相続税の節税効果をうたってシェアハウスへの投資家を勧誘していたようです。

「大病院」もアテにならない時代

金融機関は、そのお堅いイメージもあって、一般市民から「立派な会社」と思われています。
スルガ銀行は一時は金融庁から「地銀の優等生」と持ち上げられていたこともありました。
相続税対策スキームを持ち込む業者が無名でも、提携金融機関が知られた銀行なら新参者は信じてしまうかもしれません。
なぜなら、銀行のような「お堅い」会社は怪しい商売には手を貸さないと思っているからです。
具合が悪いときに大病院に行けばなんとかなると思う心理に似ていますね。
でも、そんな病院の医師・看護師が自分たちのことで手一杯だったり、患者より上司からの評価を重んじるようだったら、たとえ大病院でもお世話になりたくないですよね。
他人の権威を借りることは悪徳業者の常套手段ですが、「かぼちゃの馬車」の事件では借りてきた「権威」の中身もダメダメだったということが分かっています。
名前だけでなく、評判を確かめる努力をしないと危ないですね。

いつまで見れるかはわかりませんが、参考までに2015年当時の「かぼちゃの馬車」のPR記事のリンクを貼っときます。
http://www.sankeibiz.jp/business/news/150423/prl1504231410080-n1.htm
これを見てスマートライフ社のことを「会計士・税理士、ファイナンシャルプランナーなどの相続や税務の専門家」と提携した「ちゃんとした会社」と信じた人が大勢いたんでしょう。

それホントに必要ですか?

スルガ銀行ほどでないにせよ、どこの銀行も収益確保に躍起になっています。
行員個人が顧客本位の営業姿勢を貫こうとしても組織がそれを許さない事情があるようです。
その結果、不本意ながら顧客にとって不要だったり過剰なものを売りつけようとする銀行員がいます。
病院に例えれば、不要な薬を処方したり、しなくても良い手術を勧めて医療保険の点数を稼ぐようなものです。

医師ではない患者が自己判断することは危険です。
しかし、自分の病気について無知であることはもっと危険です。
自分が本当にその薬を必要とするのか、その手術以外に助かる方法はないのか、そもそも自分は本当に病気なのか、患者自身が知るべきことはたくさんあります。
そんな質問をしているうちに医師や病院の力量がわかってくることもあります。

本当に顧客本位の業者もいるとは思いますが、節税をうたった投資スキームの販売業者は手数料をもらえれば、その後はリスクを負わない仕組みで商売しています。
メーカーのようなアフターサービスは期待しないほうがいいです。
「かぼちゃの馬車」ほどに悪質な事案であれば刑事・民事の両方から責任を問える可能性がありますが、大抵の場合は契約条件を盾にとられて投資家が泣き寝入りすることが多いと聞きます。

本当にそんな投資スキームが自分に必要か、将来自分が望む結果が得られるかは自分で考えてください。

大丈夫、命まではとられません。

相続税がどんなに高くても、自分が得た財産以上にもってかれることはありません。
病気と違って命にかかわる心配はないんです。
あなたが本当に恐怖症にならなきゃならないほど相続税を払う必要があるのか調べる余裕があるはずです。
その上で、必要なら出来るだけのことをすれば良いのです。
恐怖のあまり自分が病気だと思い込み、行き先不明の馬車に飛び乗るのはやめましょう。
恐怖に向き合うことができるのは自分だけです。
まずは冷静に状況を自分で把握しましょう。
そして、相続財産をどうしたいのか家族と話し合いましょう。
他人(業者)を入れるのはその後です。
順番を間違えて業者にカモにされても、それは自己責任です。

***
たしかに自己使用にくらべて賃貸用不動産の相続評価額は低めになります。
しかし、借金を返せるだけの賃料を稼げるかはその物件自体の立地・作り次第です。
自分に土地勘がある場所ならいざ知らず、まったく知らない場所に賃貸用不動産を買うのはギャンブルです。
残念ながら、消費者の無知に付け込む商法は後を絶ちません。
ひきつづき、ご注意ください。

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