Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

EC(電子商取引)とPE(恒久的施設)

大抵のものはネットで買える時代です。
ヤマグチも税理士事務所を開業するにあたって必要なものはすべてネットで注文し、事務所に直接届けてもらいました。
物にもよりますが、買い手にとって実店舗を訪れる必要性は薄れつつあるように思います。
ネットショッピングに押されて老舗のセレクトショップが倒産したり、大手アパレル会社が大幅な店舗閉鎖を進める方針を発表したりと、売り手にとっても実店舗の重みが薄れつつあるようです。
実はこの動き、最近の国際税務にも影響しているのです。

PE(恒久的施設)なければ課税なし

国際税務の世界では「PEなければ課税なし」という常套句があります。
PEとはPermanent Establishmentの略で、日本語では「恒久的施設」と呼ばれるものです。簡単にいうと個人や法人にとって事業拠点といえる場所のことです。
例えば、日本の所得税法は次のように定義しています。法人税法にも同様の規定があります(第2条12号の19)

所得税法2条
八の四 恒久的施設 次に掲げるものをいう。ただし、我が国が締結した所得に対する租税に関する二重課税の回避又は脱税の防止のための条約において次に掲げるものと異なる定めがある場合には、その条約の適用を受ける非居住者又は外国法人については、その条約において恒久的施設と定められたもの(国内にあるものに限る。)とする。
イ 非居住者又は外国法人の国内にある支店、工場その他事業を行う一定の場所で政令で定めるもの
ロ 非居住者又は外国法人の国内にある建設若しくは据付けの工事又はこれらの指揮監督の役務の提供を行う場所その他これに準ずるものとして政令で定めるもの
ハ 非居住者又は外国法人が国内に置く自己のために契約を締結する権限のある者その他これに準ずる者で政令で定めるもの

イには⽀店、事務所、⼯場、作業場若しくは鉱⼭その他の天然資源を採取する場所、国内事業の管理を行う場所が含まれます。
ロは1年を超える建設・工事の現場です。
ハは国内における「代理人」などのことです。本人(非居住者・外国法人)の事業のために本人に代わって反復継続的に契約を締結する場合がこれにあたります。ただし、本人とは独立した事業の一環として代理店契約などに基づいて代理行為をする場合は含まれません。

非居住者や外国法人であっても、日本国内のPEを通じて商売をする場合は、そのPEを通じて稼いだ事業所得に対して日本の所得税や法人税が課税されるルールになっています。
つまり、「PEがあれば課税される」ということです。
このルールを逆説的に表しているのが「PEなければ課税なし」です。
もっとも、これは事業所得に対する課税ルールなので、事業所得以外の所得(利子所得、配当所得、譲渡所得など)についてはPEがなくても課税されます(日本で生じた場合)。

日本で商売している非居住者・外国法人にとって、PEの有無は日本での課税関係に大きく影響します。
特に「代理人PE」は本人も代理人もPEに該当しているという自覚を持っていないことが多いので、注意が必要です。

PEに当たらない場所も

いわゆる「店舗」や「営業所」のように、そこで物販やサービスの提供が行わる場所がPEに該当することは明白です。
では、研究所、市場調査だけを行う駐在員事務所、原材料の調達や在庫品の管理・出荷だけを行う事業所などはPEにあたるのでしょうか?
実は、日本の法令では「事業の遂行にとって準備的又は補助的な性格」の活動を行うためだけの場所はPEに含まれないことになっています。
具体的には以下の場所を除外してよいことになっています(所得税法施行令1条の2第4項)

  1.  その非居住者又は外国法人に属する物品又は商品の保管、展示又は引渡しのためにのみ使用する施設
  2.  その非居住者又は外国法人に属する物品又は商品の在庫を保管、展示又は引渡しのためにのみ保有することのみを行う場所
  3.  その非居住者又は外国法人に属する物品又は商品の在庫を事業を行う他の者による加工のためにのみ保有する場所
  4.  その事業のために物品若しくは商品を購入し、又は情報を収集することのみを目的として保有する場所
  5.  その事業のために前各号に掲げる活動以外の活動を行うことのみを目的として保有する場所
  6.  1から4までに掲げる活動及び当該活動以外の活動を組み合わせた活動を行うことのみを目的として保有する場所

要約すれば、「黒子」「裏方」的な機能しか果たしていない場所は事業拠点に含めなくても良いということです。

日本と租税条約を締結している国の居住者・法人(日本からみて非居住者・外国法人)が日本で事業を行っている場合は、日本の税法だけでなく租税条約も適用されます。
租税条約にも「恒久的施設」に関する規定がありますが、その規定ぶりが日本の所得税・法人税法と異なる場合があります。
その場合、租税条約のルールを優先適用してPEの有無を判定する(所法2条8号の4本文)ことになり、日本におけるPEの範囲(およびPEから除外される「準備的又は補助的な性格の活動」の範囲)が修正される可能性がありますから、ここでも注意が必要です。

「準備的又は補助的」の意味

インターネット販売などの電子商取引の場合、従前型の支店、事務所、工場を相手国に置かなくても商売ができてしまうことがあります。
また、事業を管理運営する場所と商圏(お客さんがいる国・地域)は無関係になりつつあります。
こうしたビジネスモデルでは、何がPEにあたるのか、PEから除外できるのかはっきりしない点が多々あります。

例えば、ECサイトを運営し、中国のお客さんの注文に応じて日本で商品を買い付け、それを中国に輸出するという商売をイギリス法人が行っていたとします。
日本に「支店」「営業者」はありませんが、買い付けた商品を保管し輸出業者に引き渡すための倉庫とスタッフを日本に置いていたとすると、これはPEに該当するのでしょうか?
それとも「準備的又は補助的な性格」の活動の場所としてPEから除外できるのでしょうか?
ECサイトが運営されている場所が日本か、イギリスか、第三国かによって、日本における施設がPEに該当するかどうかも変わってくるのでしょうか?

私も確たる答えは持っていないのですが、少なくとも従来型の営業活動とは違った視点で考えなければならないと思っています。
自動的かつ受動的に注文を取るECサイトの場合、サイトの構築・運営があって初めて成り立つビジネスだと思いますが、必要な商品をタイムリーに調達して、確実に発送できるインフラなしには成り立たないのも事実です。
そのような場合に、日本の物流拠点で行われている活動が「準備的又は補助的な性格」にすぎないのか、それを超える役割を担っていると評価できるのか議論の幅は広いと思います。

このように「準備的又は補助的な性格」をどう解釈するかによって人為的にPE認定を回避できる余地があることは長らく問題視されており、より実態に即したPE認定ができるように租税条約や各国の税法も改正されつつあります。
日本の所得税法・法人税法も最近改正され、2019年1月以降は個々の施設・場所単独ではなく、他の施設・場所や事業全体との関係も考慮しながら、その施設・場所の果たしている機能が「準備的又は補助的な性格の活動」にとどまるものであるかどうかを総合的判断するルールになっています(所令1条の2第5項)。

裁判例

インターネットを通じて物品販売をしている非居住者が商品の保管場所として日本に借りていたアパートと倉庫がPEにあたるかどうかが争われた事件(平成27(行コ)222)があります。
原告(個人事業者)がアメリカ居住者であったため、直接的な争点はアパート・倉庫が日米租税条約における「準備的又は補助的な性格の活動」(日米租税条約5条4項)のみを行う場所に該当するかどうか、ひいてはPEから除外できるかどうかでした。
事実関係の詳細は省略しますが、裁判所は以下の事実に照らして当該アパート・倉庫がPEに該当すると認定しました(東京高判平成28年1月28日)。

  • 所得税法上の非居住者である原告がAという屋号で営む企業のホームページ等に企業の所在地及び連絡先として本邦内にあるアパートの住所及び電話番号を掲載して販売活動を行っている
  • 上記企業に係る販売事業が全てインターネットを通じて行われ,上記アパート及び本邦内にある倉庫に保管された在庫商品を販売するという事業形態であること

裁判所はこれらの事情に鑑み、次のように結論付けています。

上記アパート等は上記販売事業における唯一の販売拠点(事業所)としての役割・機能を担っていたというべきであり,上記企業の従業員が,上記アパート等において,通信販売である上記販売事業にとって重要な業務(商品の保管,梱包,配送,返品の受取り等)を行っていたことに鑑みても,上記アパート等が上記販売事業にとって準備的又は補助的な性格の活動を行っていた場所であるということはできないから,上記アパート等は,所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約5条4項各号のいずれにも該当せず,同条1項の規定する恒久的施設に該当する。

本件では、ECサイト上の連絡先が日本国内になっていたこと、すべての事業がECサイト経由であったこと、顧客も国内にいたこと、また、これらの業態が原告(日本人)が居住者として事業所得を申告していた頃(非居住者になる前)と比較して実質的に変わりなかったことなどが重視されたものと思われます。
この裁判例をみると、仕入・集客・販売の3つともが日本国内で行われている場合は、商品の保管,梱包,配送,返品の受取り等はネット販売事業にとって「重要な業務」にあたると認定されるリスクが高いといえます。

節税・租税回避目的で非居住者になることをお考えの日本人だけでなく、日本のマーケットに特化したネットビジネスを考えている外国人の方も要注意です。

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私自身もネット上で完結する税務サービスを提供しています。
いまのところ国内の事務所一か所で仕事していますので全く問題ありませんが、前回のブログ「個人事業者の国外事業所得」で取り上げたように、国外でも活動拠点をお持ちの個人事業者の方にはPEの問題が生じ得ます。

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