Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

業績悪化時の納税対策

非常事態宣言を受けて多くの店舗が休業しています。
みなさん今後の展望がみえない中、当座の資金繰りに頭を悩ませているのではないでしょうか。
最優先すべきは雇用(給与支払い)と取引先との関係維持(仕入れ代金決済)ですが、納税資金についても早いうちに対策を考えた方がよさそうです。

申告と納税

まず、申告と納税のスケジュールを検討してください。
「申告納税」とセットで語られることが多い申告と納税ですが、それぞれ別個の手続きです。
前回のブログでご案内のように、納税については猶予制度がありますが、申告については猶予はありません。
ちょっと紛らわしいのですが、納税義務が免除されている(税金を納める必要はない)としても、申告が必要なケースもあります。
例えば、償却資産の課税標準額合計額が150万円未満であれば償却資産に対する固定資産税の納税は免除されますが、償却資産申告書の市区町村への提出は必要です。

また、申告は年に1回という税目であっても、納税は年に数回必要になるものもありますし、申告と納税の時期が異なるものもあります。
したがって、申告のために必要なリソース(事務負担・コスト)と納税に要するリソース(事務負担・納税資金)を別個に予定しておく必要があります。

個人の場合

所得税の予定納税(7・11月)

所得税・復興特別所得税には「予定納税」という制度があります。
前年分の所得金額や税額などを基に計算した金額(予定納税基準額)が15万円以上だと、その年の所得税及び復興特別所得税の一部をあらかじめ7月と11月に納付するという制度です(所得税法104条)。

予定納税基準額は、前年の確定申告で納付することとなった「申告納税額」をベースに計算します。
申告納税額は、前年1年間の所得税額からすでに源泉徴収済みの所得税額等を控除した残りの税額、すなわち自分で納税しなければならないを税額のことです。
その申告納税額が15万円以上の人に限って、その3分の1を年に2回、7月と11月に前払いしてもらおうという仕組みです。
予定納税した金額は、その年の確定申告書上で申告納税額から控除されますので、払いすぎていれば還付されます。

年末調整で納税が完結するサラリーマンや源泉徴収税額が多額なために確定申告で還付を受けている人にはあまり関係ありませんが、個人事業者の方には関係してくる可能性が高いです。
特に、前年にくらべて今年の業績が大幅に落ち込んでいるときは、いずれ確定申告で還付されるとしても、事前に予定納税するのは資金的に負担になります。
そんなときは、予定納税額の減額(所得税法111条)を申請すると良いでしょう。

【予定納税額の減額申請】
申請書のフォームには減額申請の理由として廃業、休業、失業、災害、盗難、横領、医療費が列挙されていますが、「その他」として業績不振も挙げられています。
下記のフォームは令和元年用ですが、令和2年以降用も同様の書式になると思われます(基礎控除額38万円は変わります)。

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この度のコロナ禍による業績不振は直接の因果関係が明らかであれば「災害」、そうでない場合は「その他」に該当すると思います。
どれだけ減額して欲しいかは自己申告ベースですが、その年通年の所得金額と申告納税額の見積もりを基礎に計算することになっています。
見積もりの基礎資料も申請書といっしょに税務署に提出することになっていますから、それなりに現実味のある金額を示す必要があります。

6月末時点で通年の申告納税額が予定納税基準額よりも少なくなる見込みであれば、7月分と11月分の予定納税額の減額をまとめて申請できます。この場合、申請書を提出できる期間は7月1日から15日の間だけです(所得税法111条1項)。
11月分だけ減額申請する場合は、10月末時点の見積もりをベースに11月1日から15日の間に申請します(所得税法111条2項)

住民税の普通徴収(6・8・10・1月)

個人住民税は前年の所得をベースに後から課税される仕組みになっています(地方税法32条1項、313条1項)。
サラリーマンの給与所得に対する住民税は、会社等の雇用主が毎月の給与から12等分された金額を「特別徴収」し、各市区町村に納付するのが原則です(地方税法321条の3、41条1項)。
それ以外の個人住民税は所得者自身が自分で納付します(地方税法319条、41条1項)
この自分で納付する仕組みを「普通徴収」といいます。

普通徴収は年税額を4等分したものを6・8・10月と翌年1月の4回納付します(地方税法320条)。
所得税の予定納税のような前払税金ではなく、前年の所得に対する後払税金なので、納税資金に困っていても、それを理由に減額・免除はしてもらえません。
病気・けがにより長期間就労できないなど特別な事情がある場合には、個別に市区町村が個別に審査して減免してくれることがあるようですが、単なる業績不振を理由とする減免は期待できません。

市区町村から住民税の普通徴収税額の通知(決定通知書)が郵送されてくるのは毎年6月ごろで、課税時期と納税時期に相当時間差があるため、納期が来るまで税負担を実感できないという怖さがあります。
対策としては、普通徴収額を早めに見積もり、納税資金を別段預金に積み立てておくことくらいしかありません。

事業税(8・11月)

個人事業者の事業税も前年の所得(事業所得)をベースに後から課税される仕組みになっています(地方税法72条の49の11)。
納期は8・11月の2回です(地方税法72条の51)。
やはり課税時期と納税時期に開きがあるため、納税資金の確保に注意が必要です。

また、個人事業税は事業所得が年290万円を超えた翌年に課税されるため(地方税法72条の49の14)、自分がいつ課税されるか予見できていないと納期にあわてることになります。
事業税の決定通知書も第1期の納付月である8月に送付されることが多いようなので、その前に自分が事業税の課税対象になっているか確認しておいたほうが無難です。

法人の場合

法人税等の予定納税

事業年度開始から6月経つと、2月以内に前期の法人税額に応じて当期の法人税の一部を予定納税(前払い)しなければなりません。
予定納税額は、前期の法人税額を月割して6倍した金額です(法人税法71条1項1号)。
たとえば、3月決算法人の場合、11月末までに予定納税が必要です。
ただし、前期の法人税額が年20万円以下であるか、当期の事業年度が6か月以下の場合は予定納税は不要です(法人税法71条1項但書)。

同様の予定納税制度は地方法人税にもあります(地方法人税法16条)。
以下、法人税と地方法人税をあわせて「法人税等」と呼ぶことにします。

この予定納税額は法人税等の確定申告にあたって年税額から控除されますので、その納付額が年税額を超えるときには還付されます。
しかし、前期にくらべて当期の上半期の業績が著しく悪化して資金繰りが苦しいときにまで税金の前払いは避けたいものです。
そのようなときには、予定納税額によらず、上半期だけで仮決算をして、その実績に基づいて法人税等を納税することができます(法人税法72条、地方法人税法17条)。

【仮決算による予定納税】
事業年度開始からの6か月間を1事業年度とみなして計算した所得金額をベースに法人税等の納税額を算定し、納税する方法です。
中間申告書を作成し、仮決算書等所定の書類ともに税務署長に提出する必要があります。

仮決算・中間申告といっても、数額的には期末決算・申告と同レベルの精度が要求されますので、1年に2回本決算をする覚悟とリソースが必要です。
仮決算により納税額が大幅に減る見込みがある場合でなければ、取り越し苦労になります。
まずは、早めに上半期の業績を予想し、仮決算による予定納税がペイするのか見極めが必要かと思います。

法人住民税・事業税等の予定納税

法人税等で予定納税が必要な場合は、法人住民税・事業税も予定納税が必要です(地方税法53条、72条の26、321条の8)。
仮決算による申告・納税が選択できるのも同様です。

法人住民税・事業税は事業所が所在する都道府県・市区町村ごとに納付します。
仮決算による申告・納税をする場合の手間は法人税等の場合より大変かもしれません。

個人・法人共通

消費税の予定納税

個人・法人ともに消費税の納税義務者となっている事業者(課税事業者)は一定の場合、予定納税が必要になります。
予定納税の回数と税額は、その課税期間の直前の課税期間の納税額によって違ってきます。

  • 前課税期間1月あたりの納税額 > 4百万円の場合(消費税法42条1項)
     → 毎月(計11回)・前課税期間1月あたりの納税額
  • 前課税期間3月あたりの納税額 > 1百万円の場合(消費税法42条4項)
     → 3月ごと(計3回)・前課税期間3月あたりの納税額
  • 前課税期間6月あたりの納税額 > 24万円の場合(消費税法42条6項)
     → 6月ごと(計1回)・前課税期間6月あたりの納税額

この前課税期間の納税額ベースの予定納税に代えて、それぞれの中間申告対象期間を1課税期間とみなして計算した納税額を納付することがもきます(仮決算をした場合の中間申告。消費税法43条)。
この場合、各中間申告対象期間ごとに中間申告書を税務署に提出する必要があります。

この仮決算による中間申告について留意すべきは、制度設計上、納税申告しか許されず、還付を受けられないということです。
確定申告書には、課税標準額に対する消費税額(2号に掲げる税額)から、控除対象仕入税額(3号に掲げる税額)を控除して「なお不足額があるときは、当該不足額」、すなわち還付税額を記載することになっています(消費税45条1項5号)。
これに対して、仮決算による中間申告書の記載事項を定める消費税法43条には「残額に相当する消費税額」はあっても「当該不足額」の定めがありません。
つまり、その中間申告対象期間の控除対象仕入税額が売り上げに係る消費税額を上回ったために「当該不足額」があったとしても中間申告では無視するということです。
税金を前払いさせるという中間申告制度の趣旨からすれば仕方がないことなのかもしれません。

第43条 仮決算をした場合の中間申告書の記載事項等
中間申告書を提出すべき事業者が第42条第1項に規定する1月中間申告対象期間、同条第4項に規定する3月中間申告対象期間又は同条第6項に規定する6月中間申告対象期間(以下この項において「中間申告対象期間」という。)を一課税期間とみなして当該中間申告対象期間における課税資産の譲渡等に係る課税標準である金額(当該中間申告対象期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等(第7条第1項、第8条第1項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。)に係る課税標準である金額をいう。以下この項において同じ。)の合計額、特定課税仕入れに係る課税標準である金額(当該中間申告対象期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る課税標準である金額をいう。以下この項において同じ。)の合計額及び第45条第1項第2号から第4号までに掲げる金額を計算した場合には、その事業者は、その提出する中間申告書に、第42条第1項各号、第4項各号又は第6項各号に掲げる事項に代えて、次に掲げる事項を記載することができる。

一 当該課税資産の譲渡等に係る課税標準である金額の合計額及び当該特定課税仕入れに係る課税標準である金額の合計額並びにそれらの合計額(次号において「課税標準額」という。)
二 課税標準額に対する消費税額
三 当該中間申告対象期間を一課税期間とみなした場合に前章の規定により前号に掲げる消費税額から控除をされるべき第45条第1項第3号イからニまでに掲げる消費税額の合計額
四 第2号に掲げる消費税額から前号に掲げる消費税額の合計額を控除した残額に相当する消費税額
五 前各号に掲げる金額の計算の基礎その他財務省令で定める事項

仮決算による中間申告を利用して予定納税が額をゼロにできるだけでも資金繰りが楽になるかもしれませんが、還付を受けられればなお助かります。
年・事業年度の途中で仕入税額の控除不足額が見込まれる場合には、課税期間の短縮(消費税法19条1項3号ないし4号の2)をして、短縮後の課税期間ごとに確定申告により還付を受けるという方法も考えられます。
課税期間は3月または1月ごとまで短縮できますので、年12回確定申告して毎月還付を受けることも可能です。
もっとも、還付額とそのために費やすリソースが釣り合わなければ取り越し苦労に終わります。

課税期間を短縮するには下記の届出書を税務署長に事前提出しておく必要があります。

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固定資産税(4・7・12・2月)

不動産(土地・家屋)や償却資産(事業用の有形固定資産で土地・家屋以外)に対する固定資産税も納期がくるまで忘れられがちな税金です。
納期は4・7・12・2月です(地方税法362条)。
業績とは無関係に所有する固定資産に課税する税金ですから、基本的には単純な業績不振を理由に減免は受けられません。
もっとも、今年のコロナ禍は地方税法が固定資産税の減免事由と定める「天災その他特別な事情」にあたるという見方もあるので、市町村長の裁量で減免してもらえる可能背はあると思います。

第367条 固定資産税の減免
市町村長は、天災その他特別の事情がある場合において固定資産税の減免を必要とすると認める者、貧困に因り生活のため公私の扶助を受ける者その他特別の事情がある者に限り、当該市町村の条例の定めるところにより、固定資産税を減免することができる。

***

今回のコロナ禍を受けて国・地方ともに確定申告による納税については納税猶予を柔軟に認める方針を打ち出しています。
しかし、納税猶予は、所詮は納期の先延ばしにすぎません。
また、予定納税についてはいまのところ減免・猶予の施策が聞こえてきません。
今は、お金よりも人命を優先すべき重要な時期ですが、政策判断を待たずに自分で打てる手は打っておいた方が良いと思います。

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