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「欠損金」とは正確にいうと「各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額が当該事業年度の益金の額を超える場合におけるその超える部分の金額」のことです(法人税法(以下「法法」)2条19号)
損金が益金を上回るということは、税金を払えるだけの税務上のもうけ(所得)がない状態です。
そんな状態の事業年度について法人税が課税されないのは当然といえば当然ですが、その事業年度に生じた欠損金は翌年度以降に生じた所得から控除することが認められています(法法57条1項)。
所得がプラスの年なら「担税力」があるのですから、普通に法人税を課してもよさそうなものです。
どうして黒字の年に過年度から繰り越した欠損金を控除することを認める必要があるのでしょうか?
法人税は法人の会計上の「事業年度」ごとに各事業年度の所得に課税される税金です(法法5条)。
法人の事業年度は、もともと事業成果(もうけ)を期間ごとに計算するために人為的に区切った期間です。
たまたま、ある一期間で計算したら黒字でも次の一期間では赤字になったり、その逆もありえます。
そういうことを考えると、その法人の事業が本当にうまくいっているといえるかどうかは、単年度だけではなく複数年を通算してみないと判断できません。
法人の担税力についても同様の考え方が妥当します。
欠損の翌年に大きく所得が生じた場合に「去年は去年、今年は今年」といって今年の所得全額に法人税を課税してしまうと、去年までに失った担税力を十分に回復する前に今年のもうけが税金に取られてしまうことになります。
そこで法人税の世界でも条件付きで欠損金の通算(繰越し控除)を認めています。
ただし「ご利用には条件があります」。
条件1-青色申告
まず、欠損金が「青色」申告書を提出した事業年度に生じていることです。
そして、その後も連続して確定申告をしていることです(法法57条10項)。
「どうせ今年も欠損で納税額がないんだから申告書出さなくてもいいだろう」なんて考えて途中で無申告の年があるとアウトです。
「青色」申告書を提出できるのは税務署長の承認を受けた場合だけです(法法121条1項)。
承認なしに勝手に提出すると「白色」扱いになり、その年に生じた欠損金の繰越し控除は認められません。
また、「青色」の承認はあとから取り消されることがあります。
取消し理由としてよくあるのは、帳簿書類の備え付け、記録又は保存(法法126条1項、法人税法施行規則(以下「施規」)53条~59条)がずさんな場合(法法127条1項1号)や税務署長の指示(法法126条2項)に従わない場合(法法127条1項2号)です。
「青色」申告が取り消されると、その申告年度に発生した欠損金は繰越しの対象になりません。
私は法人を設立したら、まずは「青色」の申請をしておくことをオススメしています。
承認の前提は「その資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引につき、複式簿記の原則に従い、整然と、かつ、明りように記録し、その記録に基づいて決算を行な」うこと(施規53条)ですから、当然、申請の時点から帳簿をきちんとつけられる体制を整えておく必要があります。
あとから「できませんでした」となると「青色」が取り消され、欠損金の繰越しもパーです。
黒字転換して所得がでるようになった後でそうなると…恐ろしいことです。
条件2-繰越し期間
2018年4月1日以降開始事業年で生じた欠損金は10年間繰り越せます。
例えば2019年3月期申告で生じた欠損金は2029年3月期まで繰り越せます。
それ以前の事業年度で生じた欠損金の繰越し期間は9年でした。
繰越し期間内に使用(控除)できなかった欠損金は切り捨てられます。
条件3 -控除限度額
欠損金を控除する前の所得金額の50%までしか控除できません。
つまり、どんなに山ほど繰越し欠損金があっても、その年に生じた所得の半分は課税されるということです。
かつては、こんな限度額はなかったのですが、法人税率の引き下げと引き換えに80%→65%→60%→55%→50%とじわじわ制限されてきています。
繰越し期間が1年延長されたのは良いことなのですが、控除限度額の引き下げによって10年以内に欠損金を使い切れない法人が増えるのではないかと思われます。
もっとも、①中小法人、②公益法人等、③共同組合等、④人格のない社団等については限度額なしで100%控除できることになっています(法法57条11項)。
なお、①の「中小法人」からは大法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等)の完全子会社が除かれます(法法66条6項2号・3号)ので、欠損金の繰し控除を見込んでいる法人は、自分の資本金だけでなく親会社・グループ会社の資本金額にも注意が必要です。
とくにこれから増資をする際には、時期と金額を慎重に検討する必要があります。
さもないと、思わぬ年に欠損金の控除限度額にひっかかって、余計に法人税を払うことになりかねません。
資本金は税務上の判断に際して重要なファクターです。
そのあたりはブログ「資本金とタックス・プランニング」にまとめました。
よかったらそちらもご参考願います。
「繰戻し還付」は所得が生じた翌年に欠損金が生じてしまった場合に前年の法人税の一部を還付してくれる制度です。
欠損金が生じた事業年度の開始日前1年以内に開始した事業年度(以下「還付所得事業年度」。)について法人税を納税している場合に適用されます(法法80条1項)。
ここでも「欠損金」は「青色」申告書を提出した事業年度に生じているもの(青色欠損金)に限られます(法法80条3項)。
この繰り戻し還付は、1992年4月1日から2018年3月31日までの間に終了する各事業年度については適用が凍結されていました。
その間も中小法人や清算中の法人などについては条件付きで適用が認められていましたが、ようやく2018年4月1日以後終了する事業年度から全面適用が再開されました。
今年は西日本が甚大な水害をこうむりました。
このような災害(震災、風水害及び火災、冷害、雪害、干害、落雷、噴火その他の自然現象の異変による災害及び鉱害、火薬類の爆発その他の人為による異常な災害並びに害虫、害獣その他の生物による異常な災害)によって生じた損失ついては「青色」を要件としない別枠の繰越し控除・繰り戻し還付の制度が用意されています(法法58条、80条5項)。
繰越し10年、繰戻し1年の期間制限、控除限度額50%(中小法人等は制限なし)など基本的ルールは「青色欠損金」と共通です。
棚卸資産、固定資産など一定の資産に生じた災害損失に限定して「白色」にも繰越し・繰戻しを認めています。
対象を限定するのは災害復旧を後押しするという趣旨だと思います。
災害で担税力が弱まる法人を支援するのであれば、もうちょっと期間制限・控除限度額を緩めてもいいのに…と個人的に思います。
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欠損金は自然に使えば節税(担税力の補完)になりますが、仕組んで使えば租税回避も可能になるという問題がありました。
かつてはM&Aの対象会社の繰越し欠損金があると、買収側で節税が見込めるということで買収額が高めになることもありました。
そのように欠損金が「売買」の対象になることを防ごうといろいろ条件が追加されて現在の制度になっています。
合併・会社分割などを経験している法人の欠損金の利用に条件が多くなっているのはそのためです。