設立登記を終えると、こんどは税務署等へいろいろ届出が必要になりますが、何もしないまま最初の決算・申告を迎えてしまう会社さんも見受けられます。ということで、今回のテーマは、会社設立後の税務上の手続きです。
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実は、会社を設立する前から考えておいた方がよいポイントがいくつかあるのです。
「いまさら」と思われるかもしれませんが、「会社にした方が個人事業者よりも節税になる」という理由で会社設立をお考えの方は、ご自身の場合に本当にそうなるのか、よく調べた方がいいと思います(詳しくは、ブログ「ひとり会社の設立」をご覧ください)。
すべての会社は定款で定めた決算期ごとに決算書(貸借対照表・損益計算書など)を作成しなければなりません(詳しくは、ブログ「決算書は誰のために作る?」をご覧ください)。
また、決算書に基づいて法人税・消費税などの税務申告も必要になります。
これら決算・申告は自分でする、税理士に委任する、いずれの場合も、それなりの労力を要します。
会社の決算期は任意に決められますので、決算・申告の準備に時間を使っても本業に支障がでない時期を選んで会社の決算期を決めてはいかがでしょうか。
ちなみに、決算期は会社定款で定めることになっています。
変更するには株主総会での決議などを要しますが、登記までは要しないので、変更のハードルは低いともいえます。
数年間様子を見てから決算期を変更してもいいと思います。
大きければ良いというわけでもありません。
設立時の資本金額が1,000万円以上だと初年度から消費税の申告義務を負います。
また、法人税、法人住民税・事業税に関する優遇税制を使えるかどうかは資本金額で決まるものが多くあります(詳しくは、ブログ「資本金とタックスプランニング」をご参照ください)。
不必要に資本金を大きくすると、せっかくの優遇税制が使えないことになりかねません。
会社を維持していく上でのコストも検討すべきです。
自分も含めて会社に雇用される人件費には、給与以外に法定福利費(健康保険・厚生年金・労働保険)の負担も考慮しなければなりません。
当面、自分一人で事業を切り盛りするつもりであれば、個人事業者のままで国民健康保険・国民年金に加入し続けた方が負担は軽いかもしれません。
そのあたりの判断は、会社から支給される給与の金額やご自身の家族構成によって変わってきますので、社会保険労務士などの専門家を交えてよく検討されることをお勧めします。
登記事項に変更があるとその都度登記が必要です。法律家に変更登記を依頼すればその分コストがかかります。
設立してそう間を置かずに本店の移転、役員の異動、増資、社名変更を予定している場合は、それを織り込んで設立初年度の予算を立てましょう。
株式会社であれば、規模を問わずに、毎決算期ごとに株主総会を開催する必要があります。
議案作成、招集通知、議事進行、議事録作成など、株主が一人でも手続きを要するのが原則です。
全株主の同意によって省略できる手続きもありますが、きちんと体裁をととのえるにはそれなりの労力を要します。
持分会社(合同会社、合資会社、合名会社)の場合は、社員総会の開催は任意です。
株式会社に比べると、持分会社は柔軟に会社機関を設計できます。
設立後しばらくは株主が一人、家族・友人など信頼のおける身内だけに留まりそうな場合は、体裁作りにお金と労力がかからない持分会社がおすすめです。
個人事業者の所得税の申告に比べると、法人税等の申告書はボリュームが多く、作成にはより多くの労力を要します。
法人税の場合、申告書そのものが複雑な構成になっているうえに、直接納税額に影響しない項目についても資料(勘定科目内訳書、事業概況説明書など)の提出を求められるためです。
法人税の計算は決算書をベースにしていますので、税務申告を意識しながら決算処理を考えなければならない項目もいろいろあります(減価償却、引当金など)。
こうした作業は専門知識を要します。税理士に依頼すればコストもかかります。
省力化とコスト節約のためには、何をどこまで自分でやるか、税理士と事前に相談するといいと思います。
丸投げは高くつきます。
さて、ここからが本題です。
主なものとして以下の手続きがありますが、設立初年度から適用を受けるには急がねばならないものもあります。
設立の日から2月以内に必要です。
税務署、事業所がある都道府県、市町村それぞれに「法人設立届出書」を提出します。
税務署用と自治体(都道府県・市町村)用で届出書の様式が違います。
地方用は各自治体が様式を定めていますが、電子届出する場合は標準書式によります。
任意の手続きです。申請先は税務署です。
設立初年度から青色申告をしたければ、設立の日から3月経過日、または初年度終了の日のうちいずれか早い日の前日までに申請書を提出する必要があります。
設立初年度は費用がかかった割には売り上げが少なくて赤字になりがちです。
初年度に生じた赤字(欠損金)を翌年度以降に繰越控除するには初年度から青色申告をする必要がありますので、とりああえず設立直後に申請しておいた方が無難です(詳しくはブログ「青色申告法人の欠損金」をご参照ください)。
ちなみに、2年度目以降に青色申告をしたいときは、青色申告によって申告書を提出しようとする事業年度開始の日の前日までに申請(つまり、事前申請)が必要です。
任意の手続きです。最初に適用を受けようとする事業年度終了の日までに申請書を提出します。
まず税務署に申請し、税務署長の承認を受けた後に事業所のある各自治体に税務署長の承認があったことを届出します。
税務署への申請書と自治体(都道府県・市町村)への届出書は別個の様式です。
地方用は各自治体が様式を定めていますが、電子届出する場合は標準書式によります。
法人税の申告期限は各事業年度終了の日から2月以内が原則ですが、定款が定める定時株主総会の招集期限が各事業年度終了の日から3月以内になっている会社の場合は、原則的申告期限までに決算・申告が確定するとは限りません。
そこで、申告書の提出期限を1月間延長することが認められていますが、この延長は、会社からの申請があって初めて認められます。
株式会社は定時株主総会の開催が必須なので、定款上の総会招集期限が3月以内になっていれば、承認申請は普通に認められるはずです。
2か月以内の招集になっている場合は「特別な事情」によって定款どおりの開催ができないことを理由にしなければなりませんが、そのような事情は定款違反にあたるので、承認申請は却下されるおそれがあります。
また、定款で総会開催を定めていない持分会社の場合も「特別な事情」がなければ却下される可能性があります。
任意の手続きです。税務署に「棚卸資産の評価方法の届出書」を提出します。
棚卸資産の評価方法も複数あり、選び方次第では節税にもなります(ブログ「棚卸資産の評価」をご参照ください)が、勝手には選べません。
届出の期限は、各事業年度の法人税の申告期限までなので、設立初年度終了後でも間に合います。
任意の手続きです。税務署に「減価償却資産の償却方法の届出書」を提出します。
減価償却方法も選択できます(ブログ「減価償却について」をご参照ください)が、これも勝手には選べません。
届出の期限は、各事業年度の法人税の申告期限までなので、設立初年度終了後でも間に合います。
給与の支払いを始めたときに税務署に「給与支払事務所等の開設届出書」を提出します。
支店・営業所で給与を払うときには、支店・営業所の所在地の所轄税務署にも提出が必要です。
届出の期限は最初の給与の支払いから1か月以内です。
任意の手続きです。会社が給与を支払う際に所得税の源泉徴収が必要です。
徴収した所得税は翌月10日までに国に納付することになっていますが、比較的小規模(給与の支給人員が常時10人未満)な会社については、年2回(1月~6月支給分→7月10日まで、7月~12月支給分→翌年1月20日まで)まとめて納付できる特例があります。
この特例は申請書を提出した翌月支給分から適用されます。
各給与支払事務所の所轄税務署に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出します。
任意の手続きですが、慎重な判断が必要です。
資本金1,000万円未満の会社は、設立当初2年度は消費税の申告・納税義務を免除されます。
しかしながら、設立初年度に多額の仕入・設備購入をした場合は、あえて「課税事業者」として消費税の申告をすることで、支払った消費税の還付を受けられるなど、消費税法上有利になるときがあります。
設立初年度から「課税事業者」になるためには、事業を開始した課税期間(原則的に事業年度と一致)が終了するまでに、税務署長に「消費税課税事業者選択届出書」を提出する必要があります。
2年度目以降は、課税事業者になりたい課税期間の初日の前日までに届出が必要です。
課税事業者を選択した方が有利かどうかは、選択後の収入と支出の事前予想に基づくことになりますので、予想に反して不利な申告内容になることもあります。設立直後で予想を立てにくい場合は、リスク覚悟の選択になります。
任意の手続きです。これも慎重な判断を要する選択手続きです。
「簡易課税制度」は売上高に基づいて消費税の申告納税額を簡便に計算する方法です。
基準期間の課税売上高が5000万円以下の場合に適用できる特例制度ですが、その計算結果は必ず納税になります。
原則計算すれば還付を受けられるはずの課税期間に特例を選択してしまうと、明らかに不利な結果になります。
逆に、特例を適用することで、原則法より納税額を少なくできることもあります。
新設会社の場合は、課税事業者の選択と合わせて特例計算を適用すべきかも検討することになりますが、課税事業者の選択と同様に、事前の予想に反して不利な結果を招く可能性もあるリスキーな制度です。
初年度からこの特例の適用を受けるには、事業を開始した課税期間(原則的に事業年度と一致)の終了日までに、税務署長に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
ただし、一点あたり100万円を超える棚卸資産、固定資産を購入した場合は、この特例の適用を受けられないこともあります。
課税事業者の選択以上に判断にあたっての不確定要素が多いので、その適用にあたってはより慎重な検討が必要になります。
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会社設立の前後に検討しなければならないことが山積みですね。税理士へのご相談はお早めに。