Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

持続化給付金と個人事業者の申告・納税

今年の7・8月は所得税の申告に関するお問い合わせがたくさんありました。
そのほとんどが、コロナ禍の影響で3月に確定申告できなかった方からのお問い合わせでしたが、そのほぼ100%の方が持続化給付金の申請をお考えでした。
持続化給付金の申請には2019年の所得税の申告が必要ということはみなさんご存じですが、受け取った給付金が2020年の申告にどう影響するかを気にされる方はあまりいませんでした。
ということで、今回のテーマは「持続化給付金と個人事業者の申告・納税」です。

非課税ではありません!

まず、持続化給付金をもらったら、その金額を収入として所得税の申告に含める必要があります。
特別定額給付金(ひとり10万円の給付金)と同様に持続化給付金も所得税が非課税になると信じている方が多いのですが、残念ながらそうなりません。
事業活動に関連して得た給付金は所得税の課税対象になります。
所得区分は事業所得です(雑所得ではありません)。
ちなみに、資産の譲渡等の対価(モノやサービスを販売した代金)として受け取るものではありませんから消費税はかかりません(課税対象外=不課税)。
この「消費税は不課税」を「所得税は非課税」と勘違いされている方もいらっしゃいました。

もっとも、給付金を含めた事業の収入金額が必要経費に満たない場合、つまり事業が赤字の場合は、結局のところ納付すべき所得税はゼロですから、給付金に対する税負担はありません。

事業所得は黒字であっても、そこからさらに所得控除(基礎控除・配偶者控除・扶養控除など)を差し引いた結果が赤字であれば、納付すべき所得税はゼロです。
所得控除後に黒字(=課税所得がプラス)の場合は、とりあえず所得税額が発生しますが、その所得税から控除できる税額控除(住宅ローン控除や配当控除など)があるときは、控除後の残額が納税額になります。
税額控除の結果、納税額がゼロになれば税負担はありません。
ただし、所得控除以降の計算は、事業所得以外の所得と合算で行いますから、事業所得以外の所得(不動産所得、雑所得など)が大きいと、最終的に所得税の納税が必要になるかもしれません。

住民税・事業税もお忘れなく!

税務署に所得税の申告をすると、課税所得金額等の情報はお住いの市区町村に伝達されます。
市区町村はその情報に基づいて住民税(都道府県民税+市町村民税)を計算し、その結果を通知してきます。
住民税においても持続化給付金は非課税ではありません。
住民税は所得税と似た方法で算定されますが、適用される税率や所得控除・税額控除の額が所得税のそれと異なりますので、所得税の納税額がゼロでも、住民税の納税が必要になることは起こりえます。

営む事業が地方税法に定める「法定業種」に該当するときは、事業税も課税されます。
事業税においても持続化給付金は非課税ではありません。
持続化給付金を含む事業所得金額が290万円(事業を営んでいた期間が1年未満のときは月割り)を超えると、超えた部分に事業税が課税されます(税率は営む事業の内容により3%、4%、5%のいずれか)。
事業税は住民税とはまったく別個の方法で計算されますので、所得控除・税額控除のおかげで所得税・住民税の納税額がゼロになった方でも、事業税だけは納税になるというパターンも考えられます。

国民健康保険料にも影響が!

市区町村に伝達される所得税の申告内容は国民健康保険(自治体によっては「国民健康保険税」と呼んでいます)にも影響します。
国民健康保険料は、前年の所得に応じて決まる「所得割額」、世帯の被保険者の人数に応じて決まる「均等割額」、世帯の属性で決まる「平等割額」の三つで構成されますが、持続化給付金をもらって所得が増えると「所得割額」に影響します。
この所得割額は住民税の課税所得をベースに算定しますが、基礎控除以外の所得控除を適用する前の金額をもとに保険料を算定することになっているため、住民税がゼロでも国民健康保険料の納付が必要になることがあります。

これまで無申告だと…

これまで所得税の申告をしてなかった個人事業者が初めて確定申告をすると、税務署・市役所から過年分の申告状況について「お尋ね」がくるかもしれません。
過去5年以内に申告義務があったにもかかわらず無申告だった場合は、さかのぼって課税処分を受けるかもしれません。
所得税の課税処分を受けると、住民税・国民健康保険料にも影響します。
市区町村から過去に払い足りなかった住民税・国民健康保険料の納付を求められるかもしれません。
個人事業者の場合、持続化給付金の最大額は百万円ですが、過去5年分の所得税・住民税・国民健康保険料の未納額が百万円を超えているかもしれません。
特に国民健康保険料は、所得税・住民税よりも高額になりがちです。持続化給付金をもらっても一度に納付できそうにないときは、税務署・市区町村に納税猶予を申請し、すこしづつでも納付しましょう。

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フリーランスの方、特に外国人の方に中には、国民健康保険への加入手続きを済ませていない方も少なからずいらっしゃるようです。
持続化給付金の申請目的で所得税の申告をお考えの方には、確定申告だけでなく住民税・国民健康保険の納付義務についても説明するようにしています。
お伝えしなければならないことだと思ってお話していますが、落胆されると私もつらいです。

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