Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

外国人の相続税課税の見直し

ずいぶん前に「外国人の『死』と『税金』」というブログで、外国人が亡くなった場合に日本の相続税がどのように課税されるかについて軽く触れたことがあります。
日本に所縁のある外国人が亡って相続が発生すると、時と場合によっては相続人が日本で相続税を申告納税しなければならないというちょっとショッキングな内容でした。
この相続税問題がネックとなり高度人材外国人が日本で働くことをためらうことが多いとも聞きます。
その声が政府に届いたのか、2021年度税制改正で外国人からの相続に対する相続税の課税範囲が見直されました。ポイントは被相続人と相続人の「在留資格」にあります。

これまでの課税範囲

外国籍の方からの相続に対する相続税の課税範囲は以下のようになっていました。

  相続人 国内住所あり 国内住所なし
被相続人   一時居住者 その他
国内住所あり 一時居住者 国内財産 全財産 国内財産
その他 全財産 全財産 全財産
国内住所なし 10年以内
住所あり
国内財産 全財産 全財産
10年以内
住所なし
国内財産 全財産 国内財産

表中にある「一時居住者」とは、就労ビザで国内在留している外国籍の方のうち相続開始前15年以内に国内に住所を有していた期間の合計が10年以下の方のことです(相続税法1条の3第3項1号)。
そして、ここにいう「就労ビザ」とは、出入国管理及び難民認定法別表第1(在留資格)の上欄の在留資格のことです。
したがって、別表第2に掲げられている永住者ビザ、配偶者ビザに基づく在留者は「一時居住者」にはなれません。

被相続人(亡くなった方)・相続人(財産を相続する方)ともに一時居住者の場合、日本の相続税の課税対象となる相続財産は国内財産に限定されます。
また、国外に住む被相続人を一時居住者が相続する場合も課税範囲は国内財産のみです。(相続税法2条2項、1条の3第1項3号)
このように、被相続人・相続人の在留資格の種類によって国外財産に日本の相続税課税が及ぶかどうかが大きく違ってくるのです。

なお、国外の被相続人を相続する場合で、被相続人がかつて日本国籍者であったときは注意が必要です。
被相続人が相続開始前10年以内のいずれかの時において日本国籍を有していると、その10年間の間に一度でも国内に住所を有していたときは「国内住所あり(その他)」として取り扱われてしまいます(相続税法1条の3第3項3号)。
その結果、相続人が一時居住者であっても国外財産にまで相続税課税が及びます。

2021年度改正点

改正後の課税範囲は下記の表のようになります。
従来の一時居住者である被相続人(一時居住被相続人)に代えて「外国人被相続人」という相続人の区分が設けられました(相続税法1条の3第3項2号)。

  相続人 国内住所あり 国内住所なし
被相続人   一時居住者 その他
国内住所あり 外国人被相続人 国内財産 全財産 国内財産
その他 全財産 全財産 全財産
国内住所なし 10年以内
住所あり
国内財産 全財産 全財産
10年以内
住所なし
国内財産 全財産 国内財産

表だけ比べてみると、それ以外に改正前との違いはありませんが、この相続人区分の変更に重要な意味があります。
従前の「一時居住被相続人」には「相続開始前15年以内に国内に住所を有していた期間の合計が10年以下」という居住期間に関する要件が付されていましたが、改正によって新設された「外国人被相続人」については居住期間要件はありません。
依然として就労ビザ要件は付されていますが、相続時点で有効な就労ビザを有している被相続人であれば居住期間の長短にかかわらず「外国人被相続人」に該当します。
その結果、改正前のルールでは「その他」に区分されていた被相続人が、今後は「外国人被相続人」となります。
日本で就労中に死亡した外国人からの相続に対する課税範囲をさらに縮小することが狙いの改正です。
ただし、相続人の一時居住者要件は従前のままです。
引き続き、就労ビザ+「相続開始前15年以内に国内に住所を有していた期間の合計が10年以下」の要件を満たした相続人だけが一時居住者に該当します。
ご留意ください。

在留資格による区別は合理的か?

今回の改正は、高度外国人材の日本での就労等を促進するという政策目的によるものです。
それはそれで合理的といえますが、永住者や配偶者ビザなど就労目的以外の資格で日本に在留する外国人との相続税負担の差は開く一方です。
日本国籍者に準ずる身分ともいえる永住者については日本人と同じように課税するほうが公平な課税の実現という観点から望ましいという考え方もあります。
一方、就労ビザで日本滞在中に日本人と結婚し、退職後も日本に住み続けたいという外国人の方もいらっしゃることでしょう。
私が知る外国人の方も定年後は日本に骨を埋めたいという思いはあるものの、国外親族の相続税負担を考えるとずっと日本に住めないと言っています。
そんな「日本のファン」を課税負担のために失うのは個人的には残念に思います。
日本に在留歴がある外国人が日本の相続税なし国外親族に国外財産を相続させるには、日本を離れた後少なくとも10年は死ねません。
しかし、そう願っていても、特にお年寄りや病気に方にはそれは難しいことかもしれません。

***

人はいつ亡くなるかわかりません。そのような不確定な事象によって課税範囲が変わりうる相続税について課税の公平を貫徹することは容易ではありません。
同じ外国人でも在留資格の種類によって課税範囲が変わることが果たして公平といえるかわかりませんが、ルールはルールとして従うしかありません。もっとも、そのルールの範囲内で可能な限りの備えをしておくに越したことはありません。

 

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