Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant
Tel/Fax : 03-6312-3320
営業時間 : 9:00 - 18:00 (月~金)

非居住者の「短期滞在者免税」

「日本での滞在期間が年183日以下であれば日本の所得税は納めなくていいんでしょ?」と聞かれることがあります。
結果的にはそうなることもあります。
でも、所得税の課税関係は日本での滞在日数だけでは決まりません。
半年を超えて海外で暮らしていても日本で所得税の納税が必要になるケースはたくさんあります。

「短期滞在者免税」の対象は限定的

この「日本での滞在期間が年183日以下であれば日本の所得税は納めなくていい」というお話し(以下「183日ルール」と呼びます。)、最近、特に外国籍の方からの質問が増えています。
多くの方が「国税庁のホームページにそう書いてある」とおっしゃいます。
私も実際にそのホームページ(英語版)をみてみました。
そこには以下のような説明があります。

4 Tax convention between Japan and your country of residence
Japan and your country of residence may conclude a tax treaty to avoid double taxation, etc.

With this tax treaty, you may claim the benefits of reducing the tax rate or an exemption from the tax on income such as interest, dividends, royalties or salaries.
 The provisions are different depending on each tax treaty, therefore, you need to refer to each tax treaty in each case.
For example, if you are a non-resident, you may need to consider the tax treaty if:

(1) You receive interest, dividends or royalties.
(2) You stay for 183 days or less in Japan and have earned income not paid by an employer in Japan and not borne by an employer’s PE in Japan. or
(3) You have earned income under the status of an overseas student.

【参考翻訳】
4 日本とあなたの居住国間の租税条約
日本とあなたの居住国の間に二重課税排除等を目的とする租税条約が締結されている場合は、租税条約に基づいて、利子、配当、使用料、給与などの所得に対する税率の軽減または免除を受けることができる可能性があります。
租税条約によっては規定する内容が異なりますので、それぞれの租税条約を参照してください。
あなたが非居住者であれば、以下のような場合に租税条約について検討を要するかもしれません。
(1)利息、配当、または使用料を得ている場合
(2)日本での滞在期間183日以下で、日本で得た所得が日本の雇用主によって支払われたものでなく、かつ、雇用主の日本における恒久的施設によって負担されるものでない場合
(3)留学生として身分で得た所得がある場合。

確かに(2)に「183日以下」という文言がでてきます。
ここを根拠に「日本での滞在期間が年183日以下であれば日本の所得税は納めなくていい」と解釈したようですが、それは正確とはいえません。

まず、この説明文は日本からみて「非居住者」にあたる個人向けのものです。
したがって、外国籍の方であっても日本の「居住者」にあたる人には、そもそも無関係です。

次に、説明文の小見出しにあるように、この説明は非居住者が居住する国と日本の間に租税条約が締結されている場合に関係してきます。
よって、非居住者といえども、日本と租税条約を締結していない国の居住者には無関係です。

そして、(2)の部分は、いわゆる「短期滞在者免税」の説明ですが、これは給与所得など限られた種類の所得に関係するものですから、(1)の利子・配当・使用料はもとより、事業所得、不動産所得、譲渡所得、一時所得などには無関係です。


また、日本での滞在期間が何日だったら「短期滞在者免税」の対象になるか、給与所得以外の所得についても免税になるかは租税条約ごとにその要件が異なります。
例えば、イタリア、カナダ、スイス、中国などとの租税条約では暦年1年間で合計183日以内を要件としていますが、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどとの条約では継続する12ヶ月を通じて合計183日以内、タイとの条約では
暦年1年間で合計180日以内が「短期」の要件となっています。
免税される所得の種類については、多くの租税条約が「給料、賃金その他これらに類する報酬」、すなわち給与所得を対象にしていますが、カナダ、韓国、タイ、中国との条約では給与所得だけでなく自由職業所得も対象に含まれます。

このように、短期滞在者免税は、租税条約が定める一定の要件を満たす場合にのみ適用される制度です。
日本における滞在期間が年183日以下なら、だれでも、どんな所得についても日本の所得税が免除されるわけではありません。

あなたは本当に「非居住者」?

183日ルールを居住者・非居住者の判定基準だと誤解している方もいます。
居住者・非居住者のいずれに該当するかは、日本における滞在日数だけでは決まりません。

日本に「住所」を有していると認定されれば、日本の居住者に該当します。
「住所」がなくてもそれにかわる「居所」を引き続き1年以上有している場合も居住者になります。
非居住者は居住者以外の個人と定義されていますから、日本に住所がなく、かつ、居所を有していた期間が1年未満の個人ということになります。

なにが「住所」や「居所」にあたるかは形式だけでなく実体で判定します。
一般的には、⽣活の本拠、すなわち、その個人の⽣活に最も関係の深い⼀般的⽣活、全⽣活の中⼼を指す場所が「住所」とされます。
その判定にあたっては、住民登録の有無といった形式だけではなく、⽣活の本拠たる実体を備えているかが重要になります。
例えば、滞在⽇数、住居、職業、⽣計を⼀にする配偶者その他の親族の居所、資産の所在等を総合的に考慮すべきです。
このように「滞在日数」は住所の有無の判定にあたっての考慮要素の一つにしかすぎません。
したがって、日本での滞在日数が183日を超えていても、総合的にみて住所・居所がないと判断されれば「非居住者」に該当する可能性は十分あります。逆に、日本での滞在日数が183日以下であっても「居住者」扱いになる可能性もあるのです。

非居住者でも課税される所得

非居住者になった後でも、日本で所得税が課税されることがあります。
繰り返しになりますが、以下の所得のうち183日ルールが関係するのは給与所得(租税条約によっては事業所得のうち自由職業所得部分も含む)だけです。

金融所得

日本の証券会社に株式、投資信託、債券を預けっぱなしで国外に転居してしまうと、それらから生じる配当、収益分配金、利子に所得税がかかります。これらの金融所得は所得税の源泉徴収だけで課税関係が完結しますので、放っておいてもあまり問題にはなりません。
ただし、国外に転居して税務上の非居住者になったことを証券会社に知らせておかないと、本来非課税になるはずの地方税(住民税配当割額、住民税利子割額)まで源泉徴収されてしまいます。
また、現在の居住国との租税条約を適用して所得税の減免を申請する場合の手続きは証券会社経由になりますので、その場合は証券会社に国外転居の事実を知らせる必要に迫られます。

不動産所得

日本にある不動産を賃貸していると、その賃料から必要経費を引いた残額が「不動産所得」として課税されます。
この不動産所得については非居住者となった後も、日本で所得税の確定申告が必要です。
なお、賃借人が会社などの法人の場合は賃料に源泉所得税もかかりますが、確定申告することで年税額から控除されます。
源泉徴収された所得税が確定申告によって計算した年税額を超えるときは、その超過額が国から還付されます。

事業所得

個人事業者が日本国内に事業所等を残したまま非居住者になると、事業所得のうちその事業所等を通じて行った事業から生じた部分については日本で所得税の確定申告が必要です。

給与所得

外国企業に勤務する非居住者が出張で日本に滞在すると、原則的に滞在期間に対応する給与が日本で所得税の課税対象になります。
しかし、短期の出張のたびに相手国で所得税を課税されては、国際的な企業活動の妨げになりかねません。

そこで、ほとんどの租税条約が、先述の短期滞在者のための免税規定を設けて出張者の給与所得を免税にしています。
居住国と日本との租税条約に短期滞在者免税の規定がある場合は、条約が定める滞在日数を超えない限り、日本での給与課税は免除されます。
ただし、出張期間に対応する給料が出張先の日本法人(外国法人の日本支店を含む)から直接支給されているとき、あるいは実質的に日本法人によって負担されるときは、租税条約に定める滞在日数を超えていなくても、日本で課税されます。
租税条約がない国の居住者が出張で来日するときは、1日でも日本で勤務すればその分日本で給与が課税されます。
日本勤務分の給与が日本で支払われる場合は、支払者が20.42%の所得税を源泉徴収をすることになっています。

日本勤務分の給与が国外で支払われるなど日本で源泉徴収の機会がないときは、非居住者が日本での勤務に相当する給与所得を自分で申告し、所得税を納付しなければなりません。この申告は「準確定申告」という方法によります。
申告書フォームも一般的な確定申告書ではなく、以下ような専用のもの使います。

JPN Tax Return Form (Art 172)

 

日本でこの申告が必要になる場合は、もともとの雇用主の外国企業と出張先の日本企業が協力して出張者をサポートしなければならないと思います。
国外の関連会社との人事交流が多い会社では、こうした税務面でのサポート体制も整えておく必要があるのではないでしょうか。

譲渡所得

日本の会社が発行する株式を譲渡したとき、日本国内の不動産を譲渡したときは、その譲渡所得に対して所得税が課税されます。
非居住者の譲渡所得のうち一定の株式の譲渡については租税条約によって日本での課税が免除されることがあります。
これら譲渡所得は確定申告が必要です。
非居住者に支払われる不動産の譲渡代金には源泉所得税もかかりますが、確定申告することで年税額から控除されます。

退職所得・年金

日本での勤務に関連して支給される退職金、年金(国民年金、厚生年金、私的年金等)にも日本の所得税が課税されます。
非居住者に支払う退職金・年金に対する課税は源泉徴収で完結し、確定申告は不要です。
年金については租税条約によって日本の所得税が減免されることがあります。

その他の所得

その他日本国内で生じた所得があれば、基本的に日本で所得税がかかります。
所得の種類によっては源泉徴収だけで課税関係が完結しますが、非居住者が日本国内に事業所等を有しており、その所得が日本にある事業所等を通じて行う活動に関連するときは、確定申告まで必要になるケースがほとんどです。

国際的な二重課税の問題

租税条約による免税措置を受けられない場合、日本で課税された所得が居住国で再び課税されることがあります。
いわゆる「二重課税」の問題です。

租税条約締約国間で生じた二重課税が、締約国の一方、または両方の税法の不備や租税条約の解釈の食い違いによって生じた場合は、条約の規定にしたがって両国の税務当局同士で協議(相互協議)してもらうことが可能です。
通常は居住国の税務当局に相互協議の申立をしますが、協議に値するような事案でなければ取り上げてもらえないのが実情です。
例えば、相手国での免税手続きの不備によって課税されてしまったようなケースでは、まず協議の対象になりません。
両国に適法な課税権があるために、起こるべくして起こってしまった二重課税も相互協議の対象にはなりません。
そのような二重課税については、「外国税額控除」などの居住国側での国内税制によって税負担の軽減を図るのが普通です。

***

昔、会社員時代に転職翌年に3ヶ月近く海外に出張しましたが、出発前に人事部から前職でどの国に何日間出張したか報告を求められました。
今思うに、出張先で所得税の課税の有無を確認するためだったんでしょうね。
20年以上前のことですが、しっかりした会社でした。
担当だった人事のHさん、元気にしてるかな…

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください