「財産調書」って聞いたことありますか?
一定額を超える財産をもつ個人は、確定申告書とは別に財産内容を税務署に報告する義務が課されています。
その報告用の書面が「財産調書」です。
「国外財産調書」と「財産債務調書」の2種類の報告制度が2012年の税制改正で創設され、2013年分から実施されています。
人によっては2種類とも提出が必要になることもありますので注意が必要です。
Table of Contents
実は2012年以前にも財産報告制度は存在していました。
所得金額が2,000万円を超える個人については、所得税の確定申告書とともに「財産債務明細書」という書面を税務署に提出することになっていた(旧所得税法232条)のですが、財産をどれだけもっているかはあまり人には知られたくない事柄であり、また未提出に対する罰則がないという事情もあって、提出しなかった人が多かったようです。
しかし、日本の所得税・相続税の課税から逃れようと財産を国外に移転させる富裕層が増えてきたことから、国も報告制度の見直しに動きました。
1998年4月施行の「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」(その目的がよく分かる名称ですが、あまりに長いので以下「国外送金等調書法」と略します。)により日本から国外送金等をする個人・法人とそれを取り扱う金融機関等に様々な報告義務を課すことで国(税務署・国税局)が資金移動(フロー)を把握できるようになりましたが、国外にある財産(ストック)の把握もできるように2012年に同法を改正し、2013年から「国外財産調書」制度が実施されています(国外送金等調書法5条)。
年末時点で国外財産の価額(時価)の合計額が5,000万円を超える日本の居住者(「非永住者」を除く)です。
ここで気を付けなければならないのは、所得税・贈与税・相続税の申告義務がない人でも、上記の要件に該当するときは国外財産調書の提出義務を負うということです。
住所地の管轄の税務署です。所轄の税務署は国税庁HPで検索できます。
明細(国外財産調書)と合計表(国外財産調書合計表)の2種類を翌年の3月15日(2023年1月以降提出分については6月30日)までに提出します。
〔国外財産調書〕
国外財産調書printed
〔国外財産調書合計表〕
国外財産調書合計表printed従前の「財産債務明細書」と違って罰則があります(国外送⾦等調書法10条)。
虚偽記載は1年以下の懲役または50万円以下の罰金、正当な理由なく期限までに提出しなかった場合も1年以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰の対象になります。
また、期限内に調書が提出されていない場合または期限内に調書が提出されていても財産の記載もれがあった場合は、その後の修正申告・期限後申告、更正、決定(修正申告等)によって追加税額が発生し加算税(過少申告加算税、無申告加算税という行政罰)の対象となるときは、調書に記載されていなかった財産から生じた追加税額に対する加算税を5%増しにするという加重措置があります(国外送⾦等調書法6条2項)。
一方、期限内に調書を提出していれば、その後の修正申告等によって追加で納税する税額が発生し、加算税が課されることになっても、調書に記載済みの財産から生じた追加税額については加算税が5%軽減されます(国外送⾦等調書法6条1項)。
従前の「財産債務明細書」を国外送金等調書法で調書制度に取り込んだものです(国外送⾦等調書法6条の2)。
国外財産だけでなく、国内財産と債務(借入金、未払金など)を含めた包括的な調書です。いうなれば個人の貸借対照表(バランスシート)です。
なお、個人事業者の青色決算書の貸借対照表には事業用の資産・負債を記載しますが、財産債務調書の対象は事業用だけでなくその他の資産・負債も含まれます。
所得金額合計が2,000万円を超え、かつ、年末に有する財産の価額が3億円以上または国外転出特例対象財産の価額が1億円以上の個人です。
ここにいう「国外転出特例対象財産」とは、有価証券等ならびに未決済信用取引等、および未決済デリバティブ取引に係る権利のことです
非居住者、居住者を問わず上記要件に該当する個人が提出義務者になります。
居住者のうち非永住者も対象になります。
別途「国外財産調書」を提出する場合でも、財産債務調書の提出義務者に該当するときは、国外財産を含めた財産債務調書を提出します(国外財産調書に記載した金額は合計額のみ記載)。
所得税の確定申告書の提出先の税務署に提出します。
明細(財産債務調書)と合計表(財産債務調書合計表)の2種類を翌年3月15日までに提出します。
〔財産債務調書〕
財産債務調書printed2
〔財産債務調書合計表〕
財産債務調書合計表printed理由はわかりませんが、財産債務調書については依然罰則が設けられていません。
ただし、国外財産調書と同様の加算税の軽減・加重措置はあります(国外送⾦等調書法6条の3)。
税務申告書と同様に調書も税務署・国税局による調査の対象になります(国外送⾦等調書法7条)。
調査によって国外財産調書の未提出・虚偽記載が判明すれば、罰則が適用されますし、調書の調査を端緒に所得税・贈与税・相続税の申告漏れを指摘されることもありえます。
財産債務調書について罰則はありませんが、やはり調書の調査の結果申告もれがあれば加算税の対象になります。
先述のとおり、いずれの調書についても、記載がなかった財産が原因の申告もれに対しては加算税が加重されます。
***
財産調書、とくに国外財産調書の提出もれがいまだに多いようです。
最近はAEoIや租税条約の情報交換規定によって税務署・国税局が独自に日本人の国外財産を把握することも可能になっています。
「頭隠して尻隠さず」で後に加算税を加重されるよりは、最初から正直に調書を提出した方が安心できると思います。