Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant
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移転価格税制

「身内に安く売る」「身内から高く買う」は税務上問題になりがちです。
特に、相手が海外の関連会社だとなにかと面倒なことになります。
通常の取引より儲けが少ないうえに余計に税金を払う羽目になるかもしれません。

税務の原則は「時価主義」

納税者の立場からは「税金でもってかれるくらいなら儲けを減らしてでもお客さんを喜ばしたほうがマシ」というある意味「健全な」考え方もありますが、特定の相手と結託することで当事者全体の税負担を軽減しようとする「不健全な」企てもあります。

例えば、これ以上税金を払いたくないというくらい儲かっているA社と、いつも赤字でどうやっても課税所得がでそうにないB社がいたとします。
互いの事情を知っている両者は、両者の間の取引価格を調整してA社の法人税を減らそうと考えました。
具体的には「A社がB社へ売る商品の代金を値下げする」か「A社がB社から仕入れる商品の代金を値上げする」のいずれかです。

いずれの方法をとってもB社が赤字のままだとすれば、A社の課税所得が減るだけですから、A社の税負担を減らすことができるのは明らかです。
B社が黒字になったとしても、過年度からの欠損金の繰越し控除のおかげでB社の課税所得を少なくできるのであれば、使い切れないはずの欠損金を使うことができるようになったという税務上のメリットをB社は享受できます。
A社の利益が減った分、B社の利益が増えるなら、2社合計の所得総額は同額になりますが、適用される税率や税額控除の違いによって納税額総額を減らすことができるかもしれません。

このように事情を通じた当事者が結託すれば、通常の取引では起こりえない課税関係を作り出すことができてしまうのです。
企業同士の取引条件は当事者が自由に決めてよいものですが、不適切な課税関係を作り出すような取引まで自由にさせては「公平な課税」を実現できません。

そのため、適正な取引価格、いわゆる「時価」から逸脱した価格で取引すると、実際の取引額のいかんにかかわらず、時価で取引したものとみなすルール(いわゆる「時価主義」)が所得税法(59条1項など)、法人税法(22条の2第4項など)、消費税法(28条1項など)などに置かれています。
また、相続財産の評価額も時価を基準に算定することになっています(相続税法22条)。
このように税法は、時価主義こそが「公平な課税」を実現するための基本ルールであると考えているのです。

移転価格税制

取引相手が国内の場合は、時価から逸脱した取引であっても、全体での納税額が変わらないこともあります。
先ほどの例でいえば、A社の納税額が減った分、B社の納税額が増えて、国からみれば税収に過不足が生じない状態もあり得ます。
こうした事情もあるので、国内企業との取引については課税上の弊害が懸念される異常な取引、すなわち時価から「著しく」乖離した取引に限って時価主義が適用されるのが原則です。

しかし、取引相手が国外にいる場合は、時価との差額は確実に日本企業の納税額に影響をもたらします。
そこで、国外の「関連者」との取引価格が時価と乖離するときは、その差額の多寡にかかわらず、時価による取引があったものとして法人税額を計算するルールが設けられています。
これが「移転価格税制」(租税特別措置法(以下「法」)66条の4)です。

ここにいう「関連者」とは、株式の保有や役員の派遣などを通じて、一方が他方を支配する、あるいは一方が他方によって支配されている関係にある者同士をいいます。
親会社と子会社は相互に関連者になる典型例です。
第三者に比べると、こうした支配関係下にある「関連者」の間では取引価格の調整が容易であることから、関連者取引を用いて国外への所得移転が図られるおそれが高いと考えられています。
一方、非関連者との取引についてまで時価と乖離する取引すべてに移転価格税制を適用するのは厳格にすぎますから、適用対象を関連者取引に限定している点は合理的だといえます。

もっとも、日本の移転価格税制は日本企業の課税所得が減る取引についてのみ適用される規定ぶりになっていますので、国外関連者を相手に時価より高く売りつけた場合や、時価より安く仕入れた場合、すなわち日本側で多めに所得が生じる場面には適用されません(法66条の4第1項)。
この点については、アンフェアな感じもしますが、日本の税収を確保するための制度ですから、やむを得ないのかもしれません。

独立当事者間価格(ALP)

移転価格税制における「時価」は「独立当事者間価格」と呼ばれる特別な価格です。
これは「全くの他人同士であればこの金額で取引するのが普通だよね」という価格のことで、英語のarm’s length priceの頭文字をとってALPと称されたりします。
これも「時価」の一種といえますが、国外関連者との取引には一般的な「時価」が観念できない「内輪だけの取引」もよくあるのでALPという概念が用いられているようです。

ALPをどう定義するかは各国税法によって違いがあります。
日本の税法は以下の方法で算定した価格をALPと定義しています(法66条の4第2項各号)
このALPの算定方法だけで一冊の本になるくらい複雑な話しなので、ここでは詳細に立ち入らずエッセンスだけ紹介します。

①独立価格比準法(CUP法)

比較対象取引(第三者間取引又は企業と第三者との間の取引)の対価の額をALPとみる方法です。Comparable Uncontrolled Price Methodの頭文字をとってCUP法などと呼ばれます。
検証対象となる関連者間取引と比較対象となり得るほどの類似性を有する非関連者間取引がある場合に使える方法です。
端的にいうと第三者への一般的な売値(売却時価)を基準にALPを求める方法です。

②再販売価格基準法(RP法)

下記AからBを引いた金額、すなわち第三者への売値(時価)から通常の利潤の額を引いた金額をALPとみる方法です。
A.国外関連者間取引に係る棚卸資産の買手が第三者にその資産を販売した対価の額
B.比較対象取引(第三者間取引又は企業と第三者との間の取引)に係る売上総利益の額

③原価基準法(CP法)

下記CにBを足した金額、すなわち第三者からの買値(時価)に通常の利潤の額を加えた金額をALPとみる方法です。
C.国外関連取引に係る資産の売り手の取得価額
B.比較対象取引(第三者間取引又は企業と第三者との間の取引)に係る売上総利益の額

④①~③の方法に準ずる方法

「利益分割法」と「取引単位営業利益法」があります(租税特別措置法施行令39条の12第8項)

・利益分割法(Profit Split Method=PS法)
複数の関連者が相互に利用・補充しながら一体として利益上げている取引について適用されます。
分割要因(分割ファクター)を用いて、各関連者の合算利益を分ける方法です。
分割対象利益のとらえ方と分割ファクターの違いによって、寄与度利益分割法(Contribution Profit Split Method)、比較利益分割法(Comparable Profit Split Method)、残余利益分割法(Residual Profit Split Method)の3種類に大別されます。

・取引単位営業利益法(Transactional Net Margine Method=TNMM)
国外関連取引に係る売り手または買い手いずれか一方の関連者の営業利益を独立当事者間取引に係る営業利益と比較します。
独立企業間の取引の結果生ずるであろう営業利益(通常の利潤)の水準を算定し、国外関連者取引の営業利益が通常の利潤に達しているかどうかを検証することで、間接的にALPを算定する方法です。

①から④のいずれの方法を適用すべきかは、検証対象となる国外関連者取引の内容をよく検討し、もっとも適切な方法(ベスト・メソッド)を選択すべきとされています(法66条の4第2項柱書)。

移転価格の実務上の困難さは、このベスト・メソッドの選択のための取引内容の検証と、比較対象となる非関連者取引(ベンチマーク)を見つけることができるかどうかにあります。
ライバル企業がベンチマークにつかえるデータを開示してくれるわけありません。
ベンチマークの基礎データを提供してくれる業者さん(トムソン・ロイターなど)もありますが、検討対象となる国外関連者間取引との類似性は自分で検証するしかありません。
移転価格が税務の中でも特殊な領域といわれるのは、こうした検証には税法の知識に加えて経営分析的な技法が求められるからなのでしょう。

一方、税務調査をする側の国は、いろいろな納税者からデータを集めて蓄積しています。
このような情報の偏在性も移転価格の実務、とりわけ税務調査の対応を難しくしています。

***

移転価格税制の大前提は「一物一価」であるように思います。
しかし「ビッグマック指数」に見るように、同じもの売っていても単一通貨に引き直してみると、為替の関係で売値が全く異なって見える現象もありえます。
日本で法人税の申告をするには、ALPも最終的には日本円に引き直して算定することになります。
モノの本質的な価値からはなれた要因で第三者間取引価格がブレれしまう場合、なにをベンチマークにすべきか悩みます。

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