では、施行日をまたいで行われる取引の場合はどうするのでしょう?
たとえば、今月から1年間のクラウドサービスの前払い、今年着工したけど完成は施行日より後になる建設工事、長期のリース契約などなど…
そういった場面での適用税率の判断について国税庁がQ&Aを公表しています。
ありがたいんですけど、ちょっとわかりにくいところもあるので、何がインで何がアウトになるのか、基本的なところだけ簡単にお伝えしたいと思います。
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すでに取引が始まっているのに、後から税法が変わって課税関係が変化することは、納税者にとって不測の事態(後出しジャンケン)といえます。
我が国の租税法律主義のもとでは、事後法を遡及適用することはありませんので(例外もありましたが)、過去に行われた取引が現在の税法によって課税される心配はありません。
しかし、税法の改正前から継続的に行われている取引の課税関係が複雑になってしまうことがあります。
その時に、改正後に行われた取引についても、従前の税法を継続して適用することで、課税関係をスッキリさせる特例措置が設けられることがあります。
それが「経過措置」です。
経過措置はあくまでも納税者の便宜のために暫定的に認められるものです。
おまけに、何でも対象になるわけではなく、改正法を適用することで納税者の事務負担が著しく重くなる場合や、後出しジャンケンによるショックが大きすぎる場合に限って認められます。
経過措置は税務当局の裁量で認められるものではなく、税法に規定がある場合にのみ認められます。
大抵の場合、各税法の「附則」に経過措置の定めがあります。
地方消費税をあわせた消費税率は2019年10月1日以降10%(飲食品等は8%)になります。
国税部分の税率は現行の6.3%から7.8%(飲食品等は6.24%)に変わります(消費税法29条)が、これに関連した経過措置は平成28年改正消費税法の附則第34条から40条までに規定されています。
ちなみに、附則第44条から52条まではインボイス方式に関する経過措置の規定になっています。
消費税の納税義務の成立時期は資産の譲渡等が行われたときです。
モノの譲渡であればそのモノの引渡し(所有権移転)のとき、役務提供ならその提供が完了したときです。
そうすると、契約からモノの引渡し・役務提供が終わるまでに年月を要する取引の場合、今回のように法改正によって税率が変わることがあります。
そんな場合でも、モノの引渡し・役務提供時の税率で納税義務が成立するのが原則中の原則です。
したがって、経過措置の対象とならない取引は、すべからく原則どおり資産の譲渡等が行われた時点での税率で課税になるということです。
一般的には、施行日をまたぐ動産の売買は原則どおり、請負・賃貸借・役務提供など長期の継続的取引は経過措置の対象になることが多いと考えてよいと思います。
不動産(建物)は完成済み物件の売買であれば原則課税です。
注文建築の場合は、2019年3月末までに契約が済んでいれば経過措置、そうでなければ原則課税です。
こんなイメージを持っていただいてからQ&Aを見ていただくと理解しやすいのではないかと思います。
Q&Aの5~6ページに主な経過措置の概要が表になってます。
この表はなかなかよくできているので、まずこの表をご覧になることおすすめします。
経過措置が適用されるのは、いずれも契約締結・代金の受領(締め日)と資産の譲渡等の間に時間的隔たりが生じる取引です。
この期間中に施行日が到来してしまっても、10%ではなく8%課税で済ませてしまうのが経過措置です。
いずれも、軽減税率の対象となる取引には適用されません。
取引の類型 | 関連するQ&A | 生じうる時間差 |
検収基準・決算日基準 | 問3 | 実際のモノの引渡しの時期と検品・取引認識の時期 |
販売商品の返品 | 問4 | 販売時期と返品時期 |
施行日を含む1年間の役務提供 | 問6 | 対価の受領時期(前受)と役務提供時期(あとから) |
旅客運賃・前売券 | 問9、10 | 対価の受領時期(前受)と役務提供時期(あとから) |
電気・ガス・水道・電話・インターネット | 問11~13 | 実際のサービス提供の時期と料金計算上の締め日 |
工事・作製・仕事の請負等 | 問14~27、44 | 契約時期と引渡し時期 |
リース・賃貸借 | 問28~31、41~43 | 契約時期・支払時期と使用時期 |
積立会員制度(デパート・互助会など) | 問32、33 | 対価の受領時期(前受)と役務提供時期(あとから) |
書籍等の予約販売・定期販売 | 問34、35 | 対価の受領時期(前受)と役務提供時期(あとから) |
通信販売 | 問36~40 | 申込時期と引渡し時期 |
定期刊行物 | 問45 | 発売日と引渡し時期 |
有料老人ホーム・介護サービス | 問46 | 入居一時金の受領時期(前受)と役務提供時期(あとから) |
家電リサイクル | 問47 | 対価の受領時期(前受)と役務提供時期(あとから) |
個々の取引の取り扱いはQ&Aの各問を参照いただければと思いますが、請負・役務提供・賃貸借などは2019年3月末までに契約が済んでいないと経過措置の対象になりません。
駆け込みで工事を発注したくても、オリンピックの影響で人手や資材が不足していて、思うように契約にこぎつけられないという話も聞きます。ご注意ください。
経過措置の適用の有無は、一義的には資産の譲渡等をする事業者(売り手)が責任をもって確認すべきです。
上の表をみて、ご自分が売り手になる取引がある場合は、経過措置の対象となる取引の確認が必要です。
心配なのは「リバースチャージ」です。
海外の業者からインターネット経由でサービスを受けている事業者(買い手)は、リバースチャージと呼ばれる仕組みで、売り手に代わって消費税を申告・納税する義務を負います。
売り手は日本での消費税申告に一切関与しませんから、経過措置の適用の有無についても買い手が判断して申告に反映しなければなりません。
同じようにインターネット経由で受けるサービスでも、最初から一般消費者向けのサービスは、たとえ事業者が買い手になる場合でもリバースチャージの対象にはなりません。
一般向けサービスの場合は、サービスを提供する海外の業者が経過措置の適用を確認して消費者に通知すべきですが、果たしてそこまで対応してくれるかちょっと心配ではあります。
過去2回の消費税率引き上げ時にも今回同様の経過措置がありました。
ところが、どうも周知徹底されていなかったようで、ミス、勘違い、最初から無視していた事業者さんが結構多かったそうです。
経過措置は適用できる取引については必ず適用しなければなりません(強制適用)ので、めんどうでも8%課税になるものと10%課税になるものを区別して申告しなければなりません。
これを選択適用できると勘違いして、取引先から新税率で消費税を徴収していたケースも少なくなかったようです。
取引先との話し合いで税額分の対価調整なしで済んでも、相手方で仕入税額の修正計算は免れませんから、取引先のためにも経過措置を正しく適用すべきです。
とくに長期のリース・賃貸借取引は、複数の課税期間にわたって経過措置の適用が続きますから、経過措置の対象取引がすべて満了するまで、きちんと記録を残して管理していく必要があります。
このあたりまでしっかり対応できていると、取引先からの信頼もアップするのではないでしょうか。
そう思ってモチベーション上げていかないと、こんな細かいことやってられんわいっ!というのが本音ですけど。