Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant
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貸倒損失

企業向け取引が増えるにつれ「掛売」や「手形取引」に応じざるを得ないことも増えてくるのではないでしょうか。
そうなると、取引先がちゃんと期限に代金を決済してくれるかどうかが心配ですね。
決済してもらえないと資金繰りに影響しますが、税務にも影響してくるんです。
ということで、本日のテーマは「貸し倒れ」です。
法人を前提にお話しします。

会計上の取り扱い

特定の他人に対して一定の給付を請求することができる権利を「債権」といいます。
売掛金、受取手形などは、取引代金を金銭で支払うことを請求できる債権なので「金銭債権」と呼ばれます。
会計上、金銭債権は債権額(相手方に請求できる金額)で計上するのが原則です。
ところが、請求しても全額回収できるか怪しくなってきた債権については、回収見込み額で計上することになります。
債権額と回収見込み額の差額が「貸し倒れ」ということになるのですが、この時点での「貸し倒れ」は回収できそうにない見込み額であって、実際にその金額が損失として確定するかどうかは、その後の状況を見守らなければわかりません。
例えば、一時的な資金難で支払期限に遅れているものの、後日全額回収できる可能性もあります。

しかし、会計上は、回収が危ぶまれる債権については早めに「貸し倒れ」を見積もって、現実的に回収できそうな金額をもって貸借対照表に計上すべきとされています(保守主義の原則)。
会計実務の指針となる「金融商品に関する会計基準」には次のような定めがあります。

受取手形、売掛金、貸付金その他の債権の貸借対照表価額は、取得価額から貸倒見積高に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額とする(第14項本文)。

貸倒引当金とは、取引先の倒産などによって売掛金や貸付金などの金銭債権が回収できない時のために、その取立不能見込額、つまり「貸し倒れ」をあらかじめ見積もり、計上しておく引当金のことを意味します。

貸倒見積高の算定にあたっては、債務者の財政状態及び経営成績等に応じて、債権を次の三種類に区分し(第27項)、それぞれについて貸し倒れの額を見積もることとされています(第28項)。

債権区分 債権の内容 貸倒見積高の算定方法
一般債権 経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権 債権全体又は同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率等合理的な基準により貸倒見積高を算定する。
貸倒懸念債権 経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権 債権の状況に応じて、次のいずれかの方法により貸倒見積高を算定する。ただし、同一の債権については、債務者の財政状態及び経営成績の状況等が変化しない限り、同一の方法を継続して適用する。

  1. 債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態及び経営成績を考慮して貸倒見積高を算定する方法
  2. 債権の元本の回収及び利息の受取りに係るキャッシュ・フローを合理的に見積ることができる債権については、債権の元本及び利息について元本の回収及び利息の受取りが見込まれるときから当期末までの期間にわたり当初の約定利子率で割り引いた金額の総額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とする方法
破産更生債権等 経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権 債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額を貸倒見積高とする

税務上の貸し倒れ

一方、貸し倒れを税務上の損金に算入できるのは、「当該事業年度の損失の額」(法人税法(以下「法」22条3項3号)に該当する場合です。
「当該事業年度の損失の額」も「一般に公正妥当と認められる会計処理基準に従って計算される」ことになっています(法22条4項)。
法人税法には貸倒損失に関する「別段の定め」がないため、企業会計上計上した貸倒引当金の繰入額がそのまま税務上も損金として認められそうなのですが、実際はそうなっていません。
判例によれば、金銭債権の貸倒損失を「当該事業年度の損失の額」として損金算入するには、その全額が回収不能であることが客観的に明らかでなければならず、具体的には、以下のような事情、経済的環境等も踏まえ、社会通念に従って総合的に回収不能性を判断すべきとされています(最判平成16年12月24日)。

債務者側の事情 債務者の資産状況、支払能力等
債権者側の事情 債権回収に必要な労力、債権額と取立費用との比較衡量、債権回収を強行することによって生じる他の債権者とのあつれきなどによる経営的損失等

この考え方を、法人税法そのものの規定ぶりからは読み取ることはできませんが、法人税法基本通達(国税職員向けの法人税法の解釈指針)にこれと整合する解釈が次のように示されています。

金銭債権が切り捨てられた場合(法律上の貸し倒れ)

次に掲げるような事実に基づいて切り捨てられた金額は、その事実が生じた事業年度の損金の額に算入されます(法人税基本通達(以下「法基通」)9-6-1)。

  1. 会社更生法、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律、会社法、民事再生法の規定により切り捨てられた金額
  2. 法令の規定による整理手続によらない債権者集会の協議決定及び行政機関や金融機関などのあっせんによる協議で、合理的な基準によって切り捨てられた金額
  3. 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができない場合に、その債務者に対して、書面で明らかにした債務免除額

金銭債権の全額が回収不能となった場合(事実上の貸し倒れ)

債務者の資産状況、支払能力等からその全額が回収できないことが明らかになった場合は、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することができます(法基通9-6-2)。
ただし担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ損金経理はできません。
なお、保証債務は現実に履行した後でなければ貸倒れの対象とすることはできません。

一定期間取引停止後弁済がない場合等(形式上の貸し倒れ)

次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対する売掛債権(貸付金などは含みません。)について、その売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をすることができます法基通9-6-3)

  1. 継続的な取引を行っていた債務者の資産状況、支払能力等が悪化したため、その債務者との取引を停止した場合において、その取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上経過したとき(ただし、その売掛債権について担保物のある場合は除く)。
    なお、不動産取引のように、たまたま取引を行った債務者に対する売掛債権については、この取扱いの適用はありません。
  2. 同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がない場合

税務上の貸倒引当金

そうはいっても、貸し倒れの懸念がありながら、それが現実になるまで税務上なんら備えをさせないのは、納税者にとっては酷ともいえます。そこで、一定の要件のもとに税務上も貸倒引当金の計上を認めています(法52条)。

税務上の貸倒引当金の計上が認められるのは以下の法人に限定されています。

  • 期末資本金の額が1億円以下の普通法人(資本金5億円以上の法人等の100%子会社を除く)
  • 公益法人等または共同組合等
  • 人格のない社団等
  • 銀行・保険会社
  • その他一定の金融業(リース業、金融商品取引業、質屋、割賦販売業など)を営む法人

また、以下の金銭債権は貸倒引当金の対象債権から除外されます。
一般的に貸し倒れのリスクが低いものやその実質的に債権として確定していないものです。

  • 預貯金、公社債の未収利息
  • 保証金、敷金
  • 手付金
  • 前渡金
  • 前払給料及び仮払旅費などの費用の前払金や立替金

税務上の貸倒引当金はその回収可能性によって「個別評価金銭債権」と「一括評価金銭債権」との2つの種類に区分されます。
貸倒引当金の繰入限度額は、どちらに区分されるかによって計算方法が異なります。
いずれに方法によるかは、適用要件を満たす限り納税者の任意ですから、一通り計算して一番有利な方法を選択することができます。

個別評価金銭債権に係る貸倒引当金

「個別評価金銭債権」とは、更生計画認可決定など債務者について進められている一定の債権整理手続によって、貸倒れその他これに類する事由による損失が見込まれる金銭債権をいいます。
繰入限度額は、以下の区分の合計額となります。債権の種類ごとに繰入限度額が以下のように定められています(法52条1項)。

対象となる債権 債権の状態 繰入限度額
  1. 売掛金、貸付金その他これらに準ずる金銭債権
  2. 保証金、前渡金等の返還請求権
会社更生法等の規定による更生認可決定され、弁済の猶予または割賦による弁済とされる場合 その事由が生じた事業年度の翌期首から5年以内に弁済される金額以外の金額
債務者について債務超過の状態が相当期間継続し、事業好転の見通しがないこと等の事由がある場合 取立ての見込みがないと認められる金額
会社更生法等の規定による更生手続き開始等の申立てがなされた者に対する債権 50%
長期にわたる債務履行遅滞により経済的価値の著しい減少または弁済を受けることが著しく困難と認められる外国の政府、中央銀行等への債権

なお、上記金銭債権のうち、当該債務者から受け入れた金額があるため(前受金など)実質的に債権と見られない部分の金額および担保権の実行、保証機関などによる保証債務の履行により取立ての見込みがあると認められる部分の金額を除外しなければなりません。

個別評価により繰入を行う際には、その事由を証明する書類(債務者、管財人からの通知など)の保管が必要です。

一括評価金銭債権に係る貸倒引当金(原則)

上記の個別評価金銭債権に該当しないものは一括評価金銭債権に区分されます。一括評価金銭債権の繰入限度額は、過去3年間の貸倒実績率により以下の式により計算します(法52条2項)。

一括評価金銭債権に係る貸倒引当金(法定繰入率の特例)

期末の資本金額または出資金額が1億円以下の普通法人、公益法人等・共同組合等については、特例として上記の貸倒実績率に替えて、以下の法定繰入率により繰入限度額を計算することを認めています(租税特別措置法(以下「措法」)57条の9、租税特別措置法施行令(以下「措令」)33条の7)。

業種 法定繰入率
卸・小売業 1.0%
製造業 0.8%
金融保険業 0.3%
割賦小売業 1.3%
その他の事業 0.6%

ただし、2点注意が必要です。
まず、期末の資本金額または出資金額が1億円以下の普通法人であっても、以下の法人はこの特例を使えません。

  • 適用年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得の金額の平均額が15億円を超える法人(適用除外事業者。2019年4月1日以後開始事業年度に適用される措法57条の9第1項括弧書、42条の4第8項6号の2
  • 保険業法に規定する相互会社・外国相互会社(措法57条の9第1項括弧書、措令33条の7第1項)

次に、「実質的に債権と見られないもの」を一括評価金銭債権から除外して計算しなければなりません。
「実質的に債権と見られないもの」とは、一括評価金銭債権のうち、債務者に対して負っている金銭債務等(買掛金、支払手形、借入金等)と法的に相殺可能な状態(相殺適状)にある額をいいます。

公益法人等・協同組合等の特例(割増特例)

公益法人等又は協同組合等については、2017年4月1日から2019年3月31日までの間に開始する事業年度における一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入限度額の計算を、原則法または法定繰入率の特例のいずれの方法で行った場合であっても、繰入限度額が10%加算されます。

会計と税務の差の取り扱い

以上のように、貸し倒れをめぐっては会計と税務で取り扱いが異なることが多いです。
違ってしまった部分は、法人税の申告にあたって課税所得の計算の中で調整(申告調整)することになります。
その際に注意すべきは、貸倒引当金の繰入額です。
引当金の繰入額の損金算入は、確定決算で費用として繰り入れた金額が限度になります。
したがって、繰入限度額に余裕があったのに、決算書上少なめに引当金繰入額を計上した場合は、余裕額を申告調整で損金に算入することはできません。
多めに引当金を計上しておけば、税務上限度額まできっちり損金算入することができますが、確定決算の利益をそのぶん圧迫することになります。
きっちりやろうとすると、決算利益の着地見込みをみながら繰入額を決める必要があります。
また、決算書上貸倒引当金を取り崩すことなくキープしていても、申告上は翌年に一旦全額戻し入れて(益金に算入)、改めてその年の繰入限度額と比較して申告調整する必要があります。

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計算と経理処理がちょっと面倒ですが、貸倒引当金は損金算入できる数少ない引当金です。
うまく使えば節税にもなりますし、なにより貸し倒れに対する備えになります。

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