Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant
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BEPSと移転価格文書

国際的な租税回避行為に対して各国税務当局が連携しつつあることを先日のブログ「国外財産のあぶりだし」でご紹介いたしました。
その中でCRSとAEoIについて触れましたが、OECD(経済開発協力機構)が主導する租税回避包囲網にはつづきがあります。
それがBEPSプロジェクトです。

BEPSとは

Base Erosion and Profit Shifting(税源浸食と利益移転)の略です。
「税源浸食」とは課税所得を人為的に減少させること、「利益移転」とは経済活動の実態のない国(主として低税率国)に利益を移転させることです。
いずれも、それをやられて自国内の課税所得が減る(すなわち税源が浸食される)国にとってはゆゆしき問題です。
これまでは、各国が自国の税法で自衛策を定め、それに違反する事案がでてきたときに個別に課税処分をするという対応が一般的でした。
「利益移転」は、ある国で課税所得の減少をもたらすと同時に他国の所得を増やすという結果になるため、所得が減少した国で課税処分をすると、所得が増えた国との間で国際的二重課税が生じてしまいます。
これを解決する手段として、租税条約に基づく「相互協議」という二国間交渉によって税源を配分する方法がありますが、これがうまくいく保障はなく、相手国との間に租税条約がなければそもそも交渉すら行われません。
悪質な租税回避が行われている場合であれば「自業自得」ということで済ませてしまってもよいでしょう。
しかし、国境を越えてビジネスをしている企業であれば、租税回避の意図がなくても、いつ何時「BEPS!」とのそしりを受けるかわからないのが現実です。

BEPSプロジェクトとは

このような状況下では、多国籍企業は二重課税のリスクに怯えながら海外進出することになります。
また、各国がバラバラにBEPS対策をしているうちは、各国の税制のスキマを狙った租税回避行為に網をかけることは難しく、結局単独ではBEPSを封じる有効策を打ち出すことはできません。
そこで、国際経済の発展と各国の税源浸食の防止を目指して2012年からOECDがBEPS対策に向けた国際的な合意形成に乗り出しています。

2013年7月には、具体的対応策として15のアクション・プランからなるBEPS行動計画(Action Plan on Base Erosion and Profit Shifting)がまとめられ、G20の支持を得て公表されました。
以前ブログ「内国法人と外国法人」で、外国法人に対する課税方法に関連してAOA(Authorized OECD Approach)のことに触れたことがありますが、あれもBEPSプロジェクトの成果物の一つ(アクション・プラン7に関連)です。

多国籍企業の企業情報の文書化

アクション・プラン13は「多国籍企業の企業情報の文書化」に関する勧告です。
移転価格税制の文書化に関する規定を策定するとともに、多国籍企業に対し、国ごとの所得、経済活動、納税額の配分に関する情報を、共通様式に従って各国政府に報告させることを目的とした取組みです。

この文書化は納税者のためというよりは、移転価格調査をする各国税務当局のためといった感があります。
各国の税務当局間での情報交換を前提に、共通書式による報告を民間企業に義務付ける法律を施行するよう勧告しており、この考え方はCRS/AEoIと全く同じです。
CRS/AEoIで報告義務を課せられるのは金融機関に限られていますが、アクション・プラン13は国外関連者と取引がある企業すべてに影響します。

日本はこの勧告を受けて2016年に国内法を改正して、一定規模の法人に「移転価格文書」の作成提出を義務化しました(租税特別措置法66条の4の3第6項、66条の4の4、66条の4の5)。
アクションプラン13に基づく「移転価格文書」は以下の3種類で構成されます。

文書名 記載内容 提出義務者 特例
事業概況報告事項 マスターファイル 多国籍企業の事業概要 多国籍企業グループに属する各法人 代表1社による提出も可
国別報告事項 CbCレポート 国別に合計した所得配分、納税状況、経済活動の所在、主要な事業内容等(英語) 最終報告親会社等 最終報告親会社等が租税条約締約国の外国法人である場合は日本での提出不要。その他の外国法人の場合は日本支店・子会社がそれぞれ提出(代表1社による提出も可)
独立企業間価格を算定
するために必要と認め
られる書類
ローカルファイル 個々の関連者間取引に関する詳細な情報 国外関連者と取引をした各法人 前事業年度における取引(資産の売買、役務提供)の対価の合計が50億円未満、かつ、無形固定資産取引(貸付等)の対価の合計が3億円未満の国外関連者との取引は報告不要

さらに国内法独自の「移転価格文書」として「最終親会社届出事項」があります。
提出義務者は多国籍企業グループに属する各法人ですが代表1社による提出も可能です。

各移転価格文書の提出期限、提出方法は以下のとおりです。

文書名 提出期限 提出方法 提出免除
マスターファイル 最終親会計年度終了の日の翌日から1年以内 e-Tax 直前の最終親会計年度の連結総収入金額が 1,000 億円未満の多国籍企業グループ
CbCレポート
最終親会社届出事項 最終親会計年度終了の日まで
ローカルファイル 確定申告書の提出期限までに作成し、調査において提示又は提出を求めた日から一定の期日(45日ないし60日以内)に提出 調査時に提出。
それまで各確定申告期限の翌日から7年間保管
前事業年度における取引(資産の売買、役務提供)の対価の合計が50億円未満、かつ、無形固定資産取引(貸付等)の対価の合計が3億円未満の国外関連者との取引は報告不要

納税者の事務負担は増える一方

アクション・プラン13関連の3文書についてはグループ全体の連結総収入金額を基準にした免除措置があります。
しかし、個々のグループ会社の事業規模が小さくてもグループ全体の売上げが1,000億円以上だと提出は免除されませんから、ここでも親会社からグループ会社への情報伝達が大事になります。
外資系企業の場合、日本法人まで外国の親会社から情報が降りてこなかったり、日本からの要望に耳を傾けてくれなかったり、情報伝達がスムーズに運ぶか心配なところがあります。
外部者(特に税務当局)には理解しがたいかもしれませんが、同じグループに属するといえども非協力的な親会社もいます。
こうした親会社とのコーディネーションは相当な負担になります。

各文書の記載内容は広範かつ詳細です。国外関連者との取引がすでにある、あるいはこれから取引が見込まれる場合は、現時点で提出が免除されているとしても、国税庁が作成しているパンフレットを参考に準備をすすめておくことをおすすめします。
また、e-Taxによる提出にあたって技術的問題や社内の情報管理ポリシー上の問題に抵触することも考えられます。
国税庁HPにデータ送信に関する様式などが公表されていますので、これを参考に事前に対策をとっておくべきです。

CbCレポートは最終親会社レベルで作ってもらえると期待できますが、その他の文書は各社作成・提出が原則です。
各社個別にといっても親会社がしっかりリードしないと、グループ各社の報告内容が矛盾、重複したり漏れがあったりでグダグダになりそうです。
こうした心配まで含めて税務担当者の負担は増える一方です。

***

BEPSプロジェクトの趣旨には賛同しますが、これだけ納税者に負担を強いるのであれば「提出できて当たり前」ではなく、納税者にインセンティブを与えるような施策をとれないものでしょうか?と思ってしまいます。
ちなみに、期限までにCbCレポートとマスターファイルを提出できなかった場合には30万円以下の罰金が科されることがあります。
行政罰ではなく刑事罰までとは…恐れ入ります。

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