Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

最近の税務調査の実態

東京税理士会が所属会員税理士・税理士法人を対象にしたアンケート(2018年7月実施。対象期間2017年7月~2018年6月)をみると最近の税務調査の実態がわかります。
そのハイライトをご紹介しましょう。

調査の事前通知

国税通則法の改正(2014年)で法定化されたこともあって、事前通知なしの調査はかなり減りました。
それでも、税務代理権限証書を提出した税理士に通知していない(6.5%。166/2524件)、まったくの事前通知なし(5.3%。134件)のケースがそれなりにありました。

事前に通知すべき事項は以下の11項目です(国税通則法74条の9、国税通則法施行令30条の4)

  1.  実地の調査を行う旨
  2.  調査開始日時
  3.  調査を行う場所
  4.  調査の目的
  5.  調査の目的となる税目
  6.  調査の対象となる期間
  7.  調査の対象となる帳簿書類その他の物件
  8.  調査の相手方である納税者の氏名及び住所又は居所
  9.  調査を行う当該職員の氏名及び所属官署
  10.  調査開始日時又は調査を行う場所の変更に関する事項
  11.  事前通知事項以外の事項について非違が疑われることとなった場合、当該事項に関し調査を行うことができる旨

税理士が代理人となって申告書等を作成したことを証する「税務代理権限証書」が税務署に提出されている場合は、事前通知は税理士に対してすれば良いことになっています(税理士法34条2項、国税通則法74条の9第5項同旨)。
それにもかかわらず、税理士に通知せず、納税者だけに通知しているケースは何か意図があるのではないかと勘繰ってしまいます。

ちなみに、法律上は正当な理由があれば事前通知をしなくても良いことになっています。

(国税通則法74条の10 事前通知を要しない場合)
税務署長等が調査の相手方である同条第3項第1号に掲げる納税義務者の申告若しくは過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報その他国税庁等若しくは税関が保有する情報に鑑み、違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、同条第1項の規定による通知を要しない。

事前通知がなかった5.3%は、よほど納税者が悪質で緊急に対応せざるを得ない事情があったと思いたいところですが、通知なしの調査がこんなにあるとは意外です。

事前通知がない場合には、それをそのまま調査を受忍する義務はありません。
まずは、調査官に対して事前通知のない理由を確認しましょう。
顧問税理士がいるなら税理士の立会い、調査日程が事業に障るようなら日時の変更等を求めることができます。

調査日数

1日=23.2%
2日=50.8%
3~4日=16.39%
5日以上=9.1%

税務署(いわゆる「所轄」)の調査なら、2~4日で実地調査を終えるのが普通です。
国税局が担当する大法人の調査は数か月かかります。
「5日以上」の大半は大法人の調査ではないかと思われます。
前回調査(2017年)では5日以上が19%もありました。
ここ数年のうち「5日以上」の割合が二桁なのは2017年だけなので、たまたま大法人の調査のあたり年だったのかもしれません。

ちなみに、確定申告期間中(2/16~3/15)に行われた調査が4.1%(103件)もあったそうです。
この時期は税務署も忙しいでしょうから、普通は調査に来たがらないと思います。
納税者からの申し入れでこの時期に変更になったのかもしれません。
それにしてもちょっと多いですね。

着手から終了までの期間

3か月以内=83.8%
3か月超5か月以内=12.7%
6か月以上=3.5%

実地調査が終わっても、資料の整理・内部報告などに時間がかかります。
なんらかの是正を要する場合は、税務署内での手続きも増えますから時間は余計にかかります。
3か月以内に8割超が終結しているのは私にとっては意外でした。

調査内容

帳簿・証憑=84.7%(2,085/2,462件)
現金・預金=30.5% (750件)
机・書庫・金庫=12.2% (300件)
パソコン等=10.1% (249件)

帳簿・証憑は当然見ます。
帳簿・証憑がちゃんとしてないと現物やデータを漁られることになります。
それでも、「机・書庫・金庫」「パソコン等」の調査を「強制」することは許されません。
隠し立ては良くありませんが、不要な調査は断るべきです。
私の経験では、建物付属設備や器具・備品の現状確認を求められたこともありました。
断る理由もないので応じましたが、それなりに時間がかかりました。

帳簿書類・原始記録等の提出(預り)要求

調査で資料を税務署に持ち帰ったケースは33.3%(695/2,086件)もあります。
個人や中小企業の調査の場合は、納税者のコピー機を拝借できるとは限らないので、現物を預かって税務署でコピーする必要に迫られた結果ではないかと推察します。

確かに大量コピーは納税者の負担になるので、税務署に持ち帰ってもらった方が楽という考え方もあります。
しかし、紛失・汚損のリスクを考えるとコピーを渡した方が安心です。
その点、日頃から帳簿・証憑を電子ファイル化しておくと、税務署に提出する資料の準備は格段に楽になります。
もっとも、税務署から「これに入れて」と渡されるUSBメモリ等のメディアからウィルス感染するリスクもありますから、プリントアウトして渡す、新品のUSBメモリを用意するなど、提出方法を慎重に検討すべきです。

どうしても現物を渡すときには「預かり証」を請求しましょう。
これも以下のように法定されています。

(国税通則法30条の3 提出物件の留置き、返還等)
国税庁、国税局若しくは税務署又は税関の当該職員(以下この条及び次条において「当該職員」という。)は、法第74条の7(提出物件の留置き)の規定により物件を留め置く場合には、当該物件の名称又は種類及びその数量、当該物件の提出年月日並びに当該物件を提出した者の氏名及び住所又は居所その他当該物件の留置きに関し必要な事項を記載した書面を作成し、当該物件を提出した者にこれを交付しなければならない。
2 当該職員は、法第74条の7の規定により留め置いた物件につき留め置く必要がなくなつたときは、遅滞なく、これを返還しなければならない。
3 当該職員は、前項に規定する物件を善良な管理者の注意をもつて管理しなければならない。

調査結果

申告是認(問題なし)=22.5% (522/2,312件)
修正申告 (納税者が自主的に是正)= 73.5% (1,699件)
更正(税務署等の処分による是正)=1.5% (35件)
不明 = 2.4% (56件)

やはり無傷で済むケースは少ないようです。
こんなに修正申告が多くて更正が少ないとは驚きです。
以前ブログ「税務調査の終わらせ方」にも書いたのですが、修正申告のデメリットが納税者にちゃんと伝わっているのか心配です。

重加算税処分

なし = 69.8% (1,250/1,790件)
あり = 18.0% (323件)
不明 = 12.1% (217件)

更正処分の件数(35件)をはるかに上回る数の重加算税処分があったということは、修正申告に対する処分が大半を占めるということです。
おそらく、調査の通知を受けて修正申告書を提出したものの、調査で仮装・隠蔽が判明して重加算税(35%または45%)の対象になったということでしょう。

ちなみに、単純ミスによる申告もれはに対しては、重加算税ではなく「過少申告加算税」(10%または15%)が課されます。

***

いかがでしたか?
税務調査は法律と作法に則って行われます。
お互いフェアな態度で臨めば、自ずとアンケート結果のマジョリティの範囲内の結果になると思います。
泥沼化するとマイノリティになります。
が、場合によってはマイノリティになることを恐れず、主張すべきを主張する態度が必要です。

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