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税務当局の処分に不服があっても、まずは処分によって納付すべきといわれた税金を納付しましょう。
税務当局、厳密には行政庁(税務署長や国税局長などの行政機関の長)が国民に対してした処分には法律上「公定力」が認められています。
公定力とは、たとえ処分が違法・無効であっても、取り消されるまでは有効なものとして通用させてしまう法律上の効果のことです。
それゆえ、納税者に不満があろうとなかろうと、出てしまった処分は「とりあえず正しい」ことになってしまい、これに反発して納税を拒否している納税者が悪者扱いされてしまいます。
未納の税金には日々延滞税が課されていきますから、悔しくても、まずはいわれた通り納税して延滞税を避けておく方が賢明です。
納付をしたからといって、それで「負け」にはなりません。
納付をすませても不服申立できます。
不服申立が認められれば、納めた税金は「還付加算金」という利息付きで戻ってきます(国税通則法58条)。
もっとも、不服申立の対象は税務当局のした処分ですから、税務調査官にすすめられて納税者自身がした修正申告について争うことはできません(ブログ「税務調査の終わらせ方」参照)。
税務調査の結果に対する不服申立には、国税当局に対する行政不服申立と国を相手とする訴訟の二段階があります。
まず、行政不服申立をして、その結果に不服がある場合でなければ、訴訟提起はできません(不服申立前置主義。国税通則法115条)。
行政不服申立は、税務署長・国税局長・税関長に対する「再調査の請求」と、国税不服審判所に対する「審査請求」の2通りがあります。
不服申立の相手先が違いますのでご注意ください。
一昔前までは、「再調査」(当時は「異議」と呼ばれていました)を申し立てて、その結果になお不服があるときは「審査請求」を申し立てるという2ステップが原則でしたが、2016年に国税通則法が改正され、最初から国税不服審判所に審査請求しても良いことになりました(国税通則法75条1項1号、2項1号)。
訴訟を提起するには、この審査請求をして裁決(裁判所の判決に相当する処分)を受けておく必要があります。
再調査の請求は、処分庁自体に税務調査の結論が妥当であったか見直しを求める手続きです。
処分をした行政庁に「再調査の請求書」を提出することで手続きが始まります。
請求書の提出期限は処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内です。
それ以降に提出しても、不服申立の要件を満たさないということで、請求は却下(門前払い)され、再調査は行われません。
名義上は処分をした行政庁に対する不服申立になりますが、税務調査を担当した「調査官」ではなく「審理専門官」とか「審理官」という肩書の税務職員が再調査の担当になるようです。
再調査の結果、納税者の申立てに理由がある(主張がもっともだといえる)場合は、納税者の主張を認めて処分を取り消す決定(認容決定)をします。そうでない場合は、申立を退ける決定(棄却決定)をします。
いちおう第三者的立場の人を関与させていますが、同じ処分庁に属する税務職員ですから、よほど「出来の悪い」処分でなければ再調査で取消しにすることはないと思われてきました。
しかし、最近は再調査の段階で処分を取り消すケースもそれなりあるようです。
もっとも、それが「出来の悪い」処分が乱発されているためか、再調査が実質的に機能し始めているのか、事情はわかりません。
実際「出来の悪い」処分については、いきなり審査請求に行くより、まず再調査で処分庁に再考を促すという作戦の方がうまくいくこともあるようです。
調査終了時に納税者に調査結果の内容をちゃんと説明していない場合、更正通知書に記載された処分理由が不十分だった場合など形式的な手続きを踏んでいない場合には、少なくとも処分理由の補完説明を得られる可能性があります。
その時に、説明がつかない(調査官の勇み足だった)ことが判明すると、処分が取り消されることもありえます。
審査請求は、国税不服審判所という課税庁とは独立の機関に税務調査の内容を審査させる手続きです。
国税不服審判所に「審査請求書」を提出することで手続きが始まります。
審査請求書の提出期限は以下のとおりです。
審査を担当するのは「国税審判官」です。
審査の結果、納税者の申立てに理由がある場合は、処分を取り消す処分(認容裁決)をします。
そうでない場合は、申立を退ける決定(棄却裁決)をします。
国税不服審判所は、税務署・国税局から独立した特別の機関ですが、国税庁長官の指揮下にあることには変わりなく、国税審判官の大半は税務署・国税局から異動してきた職員です。
そのため「審判所で処分取消しが少ないのは身内への忖度」との批判が常にありました。
この批判に呼応して、2007年から弁護士・税理士等を任期付きで国税審判官に登用しており、最近は事件担当審判官の約半数(50名程度)を民間出身者が占めるようになっています。
しかし、一部取消しも含む「認容割合」は依然10%~15%前後と低い水準にあることに変わりなく、むしろここ数年は10%を割る年度が続いています。
審査請求の結果、納税者の主張が認められず、なお不服がある場合は、国を相手に処分取り消しを求めて訴えを提起することになります。
国を被告として裁判所に出訴(訴状を提出)することで手続きが始まります。
出訴できるのは、通常の場合、国税不服審判所の裁決書謄本の送達があった日の翌日から6月以内です(行政事件訴訟法14条1項)。
なんらかの事情で裁決書の送達がされたことに気が付かなくても、採決のあった日から1年を経過すると出訴できません(行政事件訴訟法14条2項)。
裁判所は納税者(原告)と国(被告)の両当事者から提出された主張と証拠だけに基づき、訴えられた処分の違法性を判断します。
したがって、いずれの当事者も主張していない事実を考慮して判決することはありません。
原告が訴えていない処分についても判断しません。
裁判所が自分で証拠を収集することも原則としてありません。
訴訟でどのような主張を展開して、それをどのような証拠で立証するかは、すべて原告と被告の責任にかかっています。
裁判所はある意味「傍観者」です。
その点、国税不服審判所の審判官は職権で証拠を収集するなど、当事者が主張する事実が真実なのかを積極的に調べることも許されています。
また、訴訟で裁判所が処分取り消しの判決をすることができるのは、処分が違法な場合に限られるのに対して、再調査・審査請求の場合は違法な処分だけでなく、違法とまでは言えないけれど法の趣旨に照らすと「不当」な処分も取消し対象になります。
そういう意味では、訴訟よりは再調査・審査請求の方が、納税者の主張が受け入れられる余地が広いといえるのかもしれません。
納税者が租税訴訟で勝訴するには、処分手続きに重要な瑕疵(かし=欠陥)があったこと、あるいは処分の内容が法律に合致していないことを納税者が主張・立証する必要があります。
このあたりを納税者有利に進めるには弁護士(訴訟代理人)を立てる必要があります。
ただ、個々の税法に詳しい弁護士はまだ少ないので、必要に応じてその分野に明るい税理士を補佐人として参加させる必要もあろうかと思います。
一方、国は「訟務検事」という検察官を中心に「国税訟務官」「訟務専門官」といった専門家を参加させてきます。
法律家同士のガチの闘いになるので、お金の時間もかかります。
行政不服申立については標準処理期間(1年以内に決定・採決)という目標がありますが、訴訟はいつまで続くかわかりません。
その意味でも、訴訟は経済的・心理的負担を強いられる最後の手段と考えた方がいいのかもしれません。
出訴した後どこまで争うかは、勝てるかどうかよりも、勝って取り戻せる税額が訴訟に費やすお金と労力に見合うかどうかによって判断することになるのでしょう。
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再調査・審査請求のいずれも、納税者の主張が認められる割合はけっして高くはありません。
それは、主張の立て方が無理筋だったり、論理的ではないという納税者側の事情も多分に影響しているものと思われます。
勝ちに行くには、再調査・審査請求の段階から法的に筋の通った論理的主張を展開していく必要があります。
それもまた大変なことです。