Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

税務調査の終わらせ方

調査官が一通り資料を見終わると、いろいろ質問をし始めます。
単なる確認のこともあれば、問題点の核心に切り込む質問もあります。
上手な調査官はその違いを悟られないように自然体で納税者に接しますので、なにを探ろうとしているのか察しがつきにくいことがあります。けっこう心理戦になったりします。

論点整理

そんなやりとりを終えると、調査官は「論点整理」を始めます。
税務署の調査は日程が短いので、論点整理は資料を税務署に持ち帰ってからになるのが一般的です。
あまり問題点がなければ調査最終日に口頭で問題点を指摘するということもあります。

国税局の調査は長期におよぶので、途中切りのいいところで「論点整理表」のようなものを作成しているようです。
納税者向けの論点整理表を作成して、調査中盤から実直に問題点を挙げて「是々非々で議論しましょう」といってくれる調査官もいますが、調査終盤まで手の打ちを明かそうとしないポーカーフェイスもいます。
調査官のタイプによって論点をどのタイミングで納税者に伝えるか違いがあり、この違いが調査の終わらせ方にも影響します。

指摘事項

早ければ論点整理の段階で、遅くとも調査終盤で「指摘事項」が通知されます。
文書よりは口頭で伝えられることが多いです。
指摘事項は当局の正式見解ではなく、担当調査官の意見にすぎません。
ここからが議論の始まりなので、指摘を受けたからもうおしまい…と考える必要はありません。
この段階での指摘事項は、事実認定や法令解釈がけっこうアバウトだったりします。

たとえば、会社が提出した帳簿に「会議費」として計上されていた費用100万円が「交際費」であるから全額損金不算入とすべきと指摘されたとします。
交際費は会計上は全額「経費」に計上されますが、税法には次のような「別段の定め」があるため全額を「損金」に算入できるとは限りません。

法人が平成26年4月1日から平成32年3月31日までの間に開始する各事業年度において支出する交際費等の額のうち接待飲食費の額の100分の50に相当する金額を超える部分の金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。(租税特別措置法61条の4)

調査官の指摘が正しければ、申告した課税所得が100万円の過小であったということになります。
しかし、調査官の指摘が間違っている可能性もありますから、納税者は指摘事項の内容を確認すべきです。

調査官と議論すべきか?

指摘事項には議論の余地が「あるもの」と「ないもの」があります。

議論の余地がないもの
単純な計算ミス。判断ミス(要件不充足)。仮装・隠蔽。
この手のミスはいいわけしようがありません。さっさと間違えを認めるべきです。

仮に先ほどの「交際費」の内容が取引先とのゴルフ接待の費用だったとします。
経理担当者が間違って「会議費」に計上したり、ホントは「交際費」にあたると自覚していたけれども上司からの指示で「会議費」に計上していた場合は、その費用が交際費であることは争いようのない事実です。

議論の余地があるもの
事実認定、法定の解釈・あてはめについては議論の余地がありえます。
たとえば、先ほどの「交際費」100万円の内容が実際はゴルフ接待費用ではなく取引先を招待したパーティー費用、すなわち「飲食費」だったとします。
法律は「交際費等の額のうち接待飲食費の額の100分の50に相当する金額を超える部分の金額」を損金不算入にするといっていますから、宴会費用100万円のうち50万円までは損金算入できるはずです。
調査官が「宴会費用」を「接待飲食費」にあたらないとした事実認定に誤りがあるかもしれません。
ゴルフコンペの後にクラブハウスで開催された食事会だからゴルフ接待と「不可分一体」の費用と判断したのであれば一理あります。
単純に資料を読み違えてゴルフとは無関係のパーティー費用を「不可分一体」としているなら誤った事実認定です。

また、損金算入の制限をうける「交際費」の範囲は法律で次のように定められています(租税特別措置法61条の4第4項)。

交際費等とは交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(以下この項において「接待等」)のために支出するもの(次に掲げる費用のいずれかに該当するものを除く。)をいい、第1項に規定する接待飲食費とは、同項の交際費等のうち飲食その他これに類する行為のために要する費用(専ら当該法人の法人税法第2条第15号に規定する役員若しくは従業員又はこれらの親族に対する接待等のために支出するものを除く。第2号において「飲食費」という。)であつて、その旨につき財務省令で定めるところにより明らかにされているものをいう。
一 専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用
二 飲食費であつて、その支出する金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額が政令で定める金額以下の費用
三 前2号に掲げる費用のほか政令で定める費用

仮に、ゴルフコンペが社内行事だったらどうでしょう。
上記1号の「専ら従業員の慰安のために行われる運動会」にあたるから、そもそも「交際費等」には含まれないという解釈もできます。
「専ら従業員の慰安」というには全社員参加が要件だと調査官が厳格に解釈していたとすると、その法令解釈が妥当か議論の余地があります。
論点整理の段階で早めに指摘事項を具体的に伝えてもらえれば、納税者としては議論の余地や反論を検討することができます。
しかし、調査の最後になって不意打ち的に指摘事項を呈示する調査官もいます。

調査終盤の「お話合い」

指摘事項を伝えると「お話合い」のステージに入ります。
税務調査のクライマックスといってよい局面です。
大抵の調査官は指摘事項にそった「修正申告」をすすめてきます。
納税者の方から自主的に修正してくれれば、調査官側の事務手続きが楽ですし、なにより納税者からの「蒸し返し」を防ぐことができるからです。

納税者が「修正申告」を拒否すると、そこから調査官の仕事が増えます。
まず、更正処分をするかどうか税務署・国税局内で検討しなければなりません。
納税者に対する「更正決定通知書」は処分理由を具体的に明記する必要があります(行政手続法14条、国税通則法74条の14)。
調査官の事実認定、法令解釈・あてはめに無理があると処分理由がむちゃくちゃになるので、「審理官」という内部チェックをする担当官からダメ出しされていやーな思いをします。
仮に、審理官がOKしても、ツメが甘い状態で処分を強行すれば、納税者から不服申立(再調査の請求、審査請求)という「蒸し返し」を受けるおそれが高いので、慎重にならざるを得ません。

更正処分を受けるか、修正申告するか?

指摘事項を検討して「ごもっとも」というときは、意固地にならず修正申告したほうがいいと思います。
そんなところで争っても遅かれ早かれ更正されるに決まっています。
明かな間違いを認めずにゴネていると「どうせ手間暇かけて更正するならコレもアレも入れたれ!」みたいになって処分額がふくらむこともあります。

修正申告は納税者が自ら誤りを是正する手段ですから、納税者が納得できないものを修正する必要はありません。
その意味で「お話合い」の段階で、調査官と「コレは修正しますけど、今回アレは直しません。以後気をつけます。」といった感じで折り合いをつければ「コレもアレも」は防げます。

もっとも、安易に修正申告に応じてはいけません。
内容に不満があっても、自分でした修正申告をあとから撤回することはできません。
修正申告の内容に誤りがあれば「更正の請求」という方法で申告内容を税務署側で修正(更正)するよう求めることは可能ですが、単に「よくよく考えたら修正申告すべきでなかった。後悔してます。」という理由では「更正の請求」は認められません。

そういうこともあるので、調査官の指摘に不満があるときは、修正申告すべきではありません。
なにが不満で承服できないかを伝えて、「調査終了の手続き」を待つとしましょう。

調査終了の手続き

国税当局は調査終了時に調査の顛末を納税者に書面で通知することになっています(国税通則法74条の11)。
書面は3種類あります。
A. 更正決定等をすべきと認められない(問題なし)
B. 更正決定等をすべき+調査結果の内容の説明
C. 修正申告又は期限後申告の勧奨+これに従ったら不服申立てができないという説明

BとCはセットなので、終わり方のパターンはAかB+Cのいずれかです。
「お話合い」の段階で修正申告に応じる意向を示すと、Bの内容が合意内容に合わせたものになるはずです。
修正申告を拒否している場合は、Bの内容がどうなるかは書面をもらうまでわかりません。ドッキドキです。

Aをもらったらそれでおしまいです。何もする必要はありません。
B+Cをもらったら修正申告するか、あえて更正処分を受けるか最終的な判断をしなければなりません。

***
2012年に改正前の国税通則法には調査終了の手続きが明文化されていませんでした。
特に、税務調査の結果問題がない場合にはなんのお知らせもありませんでしたから、調査が無事終わったのか、まだ持ち帰り検討中なのわからず、納税者はヤキモキさせられました。
その点が改められたのは良いことです。

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