Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant
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租税回避と行為計算の否認

「行為計算の否認」という言葉を聞いたことあります?
簡単にいうと、取引行為として成立していても、税務上は無かったことにされてしまうことです。
なんとも強引な話しですが、契約書などの形式だけ整えても、実態が伴わなないような取引について適用されることがある税務上のルールです。

「行為計算」とは

そもそも否認される「行為計算」とは何でしょう?
行為というのは、契約のように法律上の権利・義務を生じさせる「法律行為」のことです。
計算は、申告書・決算書上の金額の計算を指しているようですが、制度趣旨から考えると法律行為の結果(利害)の帰属先のことも指しているように思えます。

税金は、法律が定める要件事実(「課税要件事実」とか「課税事実」といいます)に従って課税される仕組みになっています。
この要件事実は税法が独自に「こういう場合は‥」とか「こういうときは‥」と定めるものもありますが、その大半は民法、商法、会社法などの一般私法上の法律行為をそのまま前提にしています。

たとえば、「売買があった」という事実の有無は民法の555条以下の規定に照らして判断することになりますし、「モノを貸した」という事実が消費貸借(民法587条~)、使用貸借(民法593条~)あるいは賃貸借(民法601条~)のいずれにあたるのかも民法に即して判断します。
会社が成立したといえるかどうかは、会社法の規定に従って設立手続きを踏んで、最終的に設立登記(49条、579条)までしたかどうかによって判断します。

このように、税法に独自の定めがない法律行為の存否や法律行為の効果の帰属先については、私法の定めに従うことが要件事実を認定する際の大原則なのです。

私法上OKでも税務上NGな場合

ところが、私法上有効に成立した法律行為であっても、課税逃れのための取引ではないかと問題視されるものもあります。
最近では、法人向けの節税保険が過度な課税繰り延べを狙った商品だとして問題になっています。
このように、私法上はOKでも、税務上は看過できない場合に、私法上の効果は認めつつも、税務上はその効果を否認するという法理が「行為計算の否認」なのです。

ただし、要件事実は私法に従って判断するという原則に変わりはありませんから、これを否認できるのは余程の事情がある例外的場面に限られています。そのため、行為計算の否認は滅多に抜けない「伝家の宝刀」などともいわれます。

行為計算の否認の出番

では、余程の事情とは、どのような事情をいうのでしょうか?
以下のようなケースを考えてみましょう。

個人が所有する不動産を譲渡すると、その譲渡益に対して所得税が課税されますが、その税率はその不動産の所有期間によって変わります。
譲渡した年の1月1日現在で5年以内の場合は30.63%(+住民税9%)ですが、5年を超える場合は15.315%(+住民税5%)と半分になります。

税金を安くしたいなら、所有期間が5年超になるまで待ってから売却すればよいのですが、待ってられないときに次のような取引をしたとします。

  1. 取得から2年で売却したいと思ったが、思いとどまって売却せずに人に貸すことにした。所有期間が5年を超えた後、賃借人が物件を気に入り、買いたいといってきたので売却した。
  2. 取得から2年で売却しようと買い手を探し、首尾よく買い手が見つかった。ただし、所有期間が5年を超えるまで賃貸借で使ってもらい、5年を超えたのちに正式に売却した。
  3. 取得から2年で売却しようと買い手を探し、首尾よく買い手が見つかったのですぐ売却した。ただし、所得税の負担を軽くするため、買い手との合意のもとで売却日を所有期間5年超となる日後にすることにした。

Aは何ら問題ないケースです。5年経過後に売却したという事実は、税法が軽減税率の対象として想定する経済合理性のある取引なので、その事実に即した課税が行われます。いわゆる「節税行為」です。

Bは微妙なケース(グレーゾーン)です。民法上は、賃貸借契約と売買契約は別個の法律行為として存在しますが、税務上は実質的には賃貸の時点で売却したものとして否認されるかもしれません。
しばらく賃貸で住み心地を確かめて、気に入ったら買うという条件付きの譲渡契約になっていたなら「白」に近いグレーといえますが、当初から税負担を減少させるために売却を先送りするために賃貸していたなら「黒」に近づきます。
このようなケースは「課税回避行為」として問題視されるおそれがあります。

Cは買い手と通謀して売却時期を偽っていますので民法上も無効です(94条)。売り手と買い手の本来の意思は取得から2年経過時点での売買なので、少なくとも当事者間ではその時点で売買があったことになります。税法上は、行為計算の否認を適用するまでもなく、2年経過時点での譲渡があったという事実に即して課税されることになります。
このように事実を仮装・隠蔽したケースは「脱税行為」にあたります。

脱税行為は比較的わかりやすいのですが、租税回避行為と節税行為とボーダーラインはあいまいです。
結局のところ社会通念で判断するしかありません。

行為計算の否認が適用されるのは、租税回避行為のうち税負担を不当に減少させるものに限られます。
したがって、上記のケースBが行為計算の否認事例にあたるかどうかは一概にいえません。
否認しなければ「課税の公平」を達成できないといえるほどの「余程の事情」がなければ、伝家の宝刀は抜けません。

同族会社の行為計算の否認

このように行為計算の否認の法理は謙抑的に行使すべきものであり、法令上の根拠なく課税庁の裁量では否認はできないと考えられています
実際、税法上も、
何にでも適用できる「一般的」否認規定はなく、適用できる場面を限定した個別的な否認規定を中心に立法化されてます。
同族会社の行為計算の否認規定(法人税法132条、所得税法157条)や法人組織再編の包括否認規定(法人税法132条の2、132条の3)は個別規定に比べると適用場面が広めですが、「余程の事情」がなければ適用できないことには変わりありません。

その中にあって「同族会社の行為計算の否認」は比較的適用事例が多いといえます。
古くから規定が存在していたという歴史的背景もありますが、日本の会社総数の99%を占める中小企業のほとんどが「同族会社」であることから、問題視されるケースの絶対数が多いためだと思われます。

「同族会社」とは、3人以下の株主等によって発行済株式(持分会社の場合は出資)の過半を所有されている会社など少人数の会社関係者によって支配されている会社のことです。
唯一の株主が自ら役員として経営する「ひとり会社」はこの同族会社の典型例です。
同族会社の判定にあたって基準となる株主等の人数を数える際には、その親族、内縁者、使用人やこれらと生計を一にする親族も含めたグループ単位でカウントしますので、株主名簿上の株主数だけでは判定できません。
大勢の近親者や社員にすこしずつ株主になってもらっている場合でも、同族会社に該当することもありますから注意が必要です。

同族会社に該当する場合、役員やその親族と会社の取引、同一株主に支配されている会社同士の取引は、税務調査の際には「課税回避行為」にあたるのではないかという目で見られると思ってください。
そのためにも、相手が身内といえども経済合理性のない取引は避けるべきです。

参考までに関連規定を掲載します。

法人税法132条
同族会社等の行為又は計算の否認

税務署長は、次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。

一 内国法人である同族会社
二 イからハまでのいずれにも該当する内国法人
 イ 3以上の支店、工場その他の事業所を有すること。
 ロ その事業所の2分の1以上に当たる事業所につき、その事業所の所長、主任その他のその事業所に係る事業の主宰者又は当該主宰者の親族その他の当該主宰者と政令で定める特殊の関係のある個人(以下この号において「所長等」という。)が前に当該事業所において個人として事業を営んでいた事実があること。
 ハ ロに規定する事実がある事業所の所長等の有するその内国法人の株式又は出資の数又は金額の合計額がその内国法人の発行済株式又は出資(その内国法人が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の3分の2以上に相当すること。

2 前項の場合において、内国法人が同項各号に掲げる法人に該当するかどうかの判定は、同項に規定する行為又は計算の事実のあつた時の現況によるものとする。

3 第1項の規定は、同項に規定する更正又は決定をする場合において、同項各号に掲げる法人の行為又は計算につき、所得税法第157条第1項(同族会社等の行為又は計算の否認等)若しくは相続税法第64条第1項(同族会社等の行為又は計算の否認等)又は地価税法(平成3年法律第69号)第32条第1項(同族会社等の行為又は計算の否認等)の規定の適用があつたときについて準用する。

 

所得税法157条
同族会社等の行為又は計算の否認等

税務署長は、次に掲げる法人の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主等である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者(その法人の株主等である非居住者と当該特殊の関係のある居住者を含む。第4項において同じ。)の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その居住者の各年分の第120条第1項第1号若しくは第3号から第8号まで(確定所得申告書の記載事項)又は第123条第2項第1号、第3号、第5号若しくは第7号(確定損失申告書の記載事項)に掲げる金額を計算することができる。

一 法人税法第2条第10号(定義)に規定する同族会社
二 イからハまでのいずれにも該当する法人
 イ 3以上の支店、工場その他の事業所を有すること。
 ロ その事業所の2分の1以上に当たる事業所につき、その事業所の所長、主任その他のその事業所に係る事業の主宰者又は当該主宰者の親族その他の当該主宰者と政令で定める特殊の関係のある個人(以下この号において「所長等」という。)が前に当該事業所において個人として事業を営んでいた事実があること。
(施行令276)

 ハ ロに規定する事実がある事業所の所長等の有するその法人の株式又は出資の数又は金額の合計額がその法人の発行済株式又は出資(その法人が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の3分の2以上に相当すること。

2 前項の場合において、法人が同項各号に掲げる法人に該当するかどうかの判定は、同項に規定する行為又は計算の事実のあつた時の現況によるものとする。

3 第1項の規定は、同項各号に掲げる法人の行為又は計算につき、法人税法第132条第1項(同族会社等の行為又は計算の否認)若しくは相続税法第64条第1項(同族会社等の行為又は計算の否認等)又は地価税法(平成3年法律第69号)第32条第1項(同族会社等の行為又は計算の否認等)の規定の適用があつた場合における第1項の居住者の所得税に係る更正又は決定について準用する。

4 税務署長は、合併(法人課税信託に係る信託の併合を含む。)、分割(法人課税信託に係る信託の分割を含む。)、現物出資若しくは法人税法第2条第12号の5の2に規定する現物分配又は同条第12号の16に規定する株式交換等若しくは株式移転(以下この項において「合併等」という。)をした法人又は合併等により資産及び負債の移転を受けた法人(当該合併等により交付された株式又は出資を発行した法人を含む。以下この項において同じ。)の行為又は計算で、これを容認した場合には当該合併等をした法人若しくは当該合併等により資産及び負債の移転を受けた法人の株主等である居住者又はこれと第1項に規定する特殊の関係のある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に関する更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その居住者の各年分の第120条第1項第1号若しくは第3号から第8号まで又は第123条第2項第1号、第3号、第5号若しくは第7号に掲げる金額を計算することができる。

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以前、外資100%子会社で働いているときに、一度だけ税務調査官に「そんなに言うなら伝家の宝刀抜いちゃうよ~」と脅されたことがあります。
そんなに簡単には抜けないことは先方も承知の上での発言と思っていたものの、調査が終わるまで何とも嫌な気分を味わいました(おかげさまで無事でしたけど)。

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