ヤマグチが税理士試験に合格したころ(1996年)は、インターネットというものはまだ黎明期にあり、これほどまでに普及するとは予想できませんでした。
当然、20数年後に自分がオンラインで税理士業を始めることになるなど夢にも考えませんでした。
逆にいうと、ここまでインターネットが発達しなければ、企業内税理士を辞めて独立することもなかったと思います。
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私がフリーランスとして税理士を始めようと思ったきっかけは、freeeやマネーフォワードクラウドなどのクラウド会計の登場でした。
これらクラウド会計のユーザーに対する最大のセールスポイントは、インターネットバンキングとの連携とAIを活用した経理処理の省力化です。
こうしたサービスによって記帳代行などの業務依頼が減るのではないかと心配する税理士も多くいますが、私はそう思いません。
むしろ、税理士にとってもメリットは多いと考えます。
税理士業は、請け負った仕事を遂行するにあたって必要な情報をお客様から提供してもらい、その情報に基づいて仕事をし、その結果を情報としてお客様に伝えるという一連のコミュニケーションがあって成り立ちますが、クラウド会計はお客様とのコミュニケーションの道具としてとても有用だと考えています。
お客様の経理処理を事務所からオンラインでチェックしたり、個別の取引ごとにコメントを付けたり、レシートなどの証憑を取引データに添付してもらうことで、コミュニケーションに費やす時間と労力を相当減らせます。
こうした基本的なコミュニケーションを効率化できれば、その分より付加価値の高い仕事に注力できますから、クラウド会計の活用によって、お客様だけでなく税理士の役割・働き方も変わってきます。
そう思ったとたんに、自分で実践してみたいという衝動に駆られ、独立してしまいました。
これまでのところ、日本人のお客様のほとんどにクラウド会計を導入していただいており、今年の決算・申告はほんとうにスムーズに終わりました。
会計事務所に勤務していたころとは大違いです(20年以上前のことなので、そもそも環境が違いすぎるかもしれませんが…)。
2年前の「変わるかも」という予感が「変わる」という確信に至りました。
今後の課題は、日本語がわからない外国人のお客様にどうやって日本のクラウド会計を使っていただくかです。
日本で起業した外国人の方を決算・申告時のストレスから解放することが私の夢です。
税理士業は地域密着性が高い職業だといわれます。
それは国税局・税務署の管轄単位で組織される税理士会・税理士会支部への税理士登録が強制されていることに加えて、税理士とお客様は面談しながら関係を構築していくものだという一種の「常識」も影響しているのではないかと感じています。
そのため、税理士には、遠方よりも近くのお客さんを歓迎する傾向があるように思います。
納税者の方々も、税理士に相談するには、資料をもって事務所まで出向かなければならない、あるいは税理士に来てもらわなければならないと考えている方が多くいらっしゃいます。
そのため、お客様の傾向として、自分のニーズにマッチしているかよりも「通えそうな近く」に事務所があるかを重視して税理士を探すことが多いようです。
面談は最良のコミュニケーション手段です。
それは認めますが、これは時間と労力・コストを要します。
ヤマグチはリモートでサービスを提供することを前提に独立開業しましたが、それは同業の友人の目にはかなり「非常識」に映ったとのことです。
しかし、一方で、地理的・時間的制約で税理士事務所まで足を運べない納税者もいます。
また、正式な契約を締結する前に、税理士に面談に来るように依頼することを躊躇する方もいらっしゃいます。
もっと気軽に税理士にアクセスしたいと考えている方々の目には、業界の「常識」は単なるハードルにしか映らないことでしょう。
ということで、私はお客様との接点はオンライン上でという「非常識」な方法を原則に据えることしました。
そのため、事務所(といってもマンションの一室です)には会議室もありません。
お客様には、Zoom、Skypeなどのオンライン会議室のリンクをメールでお送りし、約束の日時にオンライン上で面談をしています。
移動時間ゼロでお互いの顔を見ながら話しができる上、会話の展開次第で急に資料を参照したいときにも、PCの画面共有で資料を示しながら説明ができるので、とても便利です。
時間をかけて打ち合わせにきたのに、資料不足で後日仕切り直し…などといったことは起こりません。
かつては、技術的な制約から個人や企業には敷居が高かったオンライン会議も、ブロードバンドが普及し、いろいろなベンダーがブラウザー上で簡単に使えるサービスを提供している今なら手軽に利用できます。
今後はリモートでの面談が「常識」になってほしいと思っています。
ちなみに、税理士は所属する税理士会の管轄外でお客さんをもってはいけないとうルールはありませんのでご安心ください。
私は東京税理士会所属ですが、お客様の半分以上は他府県です。海外にもお客様はいらっしゃいます。
いつか、全国のお客様を訪ねて周り、地元の美味しいもの紹介してもらうのが私の夢です。
どんな仕事(アウトプット)も投入物(インプット)なしには進みません。
税理士業における典型的なアウトプットは申告書・決算書などの成果物ですが、それらはすべて「情報」をインプットして得られるものです。
税理士は、各種帳簿、銀行取引明細、証憑(レシート、請求書など)、契約書といった「情報」をお客様に提供してもらって問題点(Issue)を確認し、これに関連する会計・税務に関する法令(Rule)をあてはめ(Application)、あるべき結論(Conclusion)を見つけていきます。
これらIssue→Rule→Application→Conclusion(以下「IRAC」と略します。)のそれぞれの段階で「情報」の収集・加工・分析が行われ、その結果を数額(これも「情報」です)に表したものが決算書・申告書です。
このように、税理士の仕事は「情報」に始まり「情報」に終わる「情報サービス業」ともいえますし、その仕事の質は、IRACそれぞれのプロセスの精度にかかっているともいえます。
税理士に限らずいわゆる「士業」の仕事の難しさは、最初の「I」の段階で事実を誤認するとし、どんなにその後のプロセスでがんばっても、結果がおかしくなってしまうことです。
それを知っている税理士は、お客様から提供される情報の質・量が足りないときには、事実関係をはっきりさせようとして何度も追加資料をお願いして、結果的にお客様を辟易させてしまいます。
この「I」の段階で費やす時間と労力は、お客様・税理士双方にとって減らせるに越したことはない負担です。
そういった負担軽減には、情報のオンライン化が有効です。
また、成果物の提供もオンライン上で行えば、待ち時間なしで結果をお客様に報告できます。
ただし、これを実現するには、お客様の協力が必須です。
まず、ハードコピー(紙媒体)に依存することをやめ、ソフトコピー(電子ファイル)を活用する体制を整えていただく必要があります。
日頃から証憑類(領収書・請求書)をPDFやJPEGファイルにスキャンすることを習慣にしておけば、年度末に集中しがちな作業負担を分散できますし、その年の途中で税理士にチェックさせることも可能になります。
特に、検索可能なPDFファイルに文書をスキャンしておくと、その後なにかと役に立ちます。膨大な資料の中から特定の用語を含む文書を探したり、文書に含まれる表をExcelなどのスプレッドシートに変換して加工することも可能になります。
こうした電子ファイル化を進めるには、ハードウェア・ソフトウェアが必要になるかもしれませんが、税理士側での作業負担が減れば請求される報酬も減るはずなので、すぐに元はとれると思います。
奇しくも、コロナ禍の影響でテレワークの導入が進み、対面でなければできないと思われていた仕事が意外にリモートでもこなせてしまうことが実証されつつあります。
ある仕事がリモートでも上手くいくかどうかのカギは、当事者双方が充分な「情報」にアクセスできるかにあると思います。
税理士が提供するサービスについても然りです。
年度末前にはほぼ決算書が出来上がっていて、当年分の申告だけでなく来年の方針についてもゆっくりとお客様と検討できるようになるのが私の夢です。
会計事務所勤務時代、企業内税理士時代はハードコピーで税務申告していました。
当時から申告書の作成自体はソフトで省力化できていましたが、これをプリンターで出力して、部数を整え、代表者・経理責任者の自署・押印箇所、提出先別の提出部数、申告控えの回収など、申告書が出来上がったあとにやらなければならないことが多くて大変でした。
企業内税理士時代(2011年ごろ)にすでに電子申告が始まっていましたが、当時は法人税申告書を電子申告しようにも、データ送信できない申告書別表や添付資料を別途郵送する必要があったり、届出関係もe-Taxで対応していないものが多くて、あまりメリットを感じられませんでした。
その後、e-Tax・eLTAXともに改良が進み、税務申告のペーパーレス化が可能になりました。
これがなければ、フリーランスの税理士になろうとは思わなかったでしょう。
独立開業して2年ちょっと経ちましたが、いまのところ電子申告率は100%です。
電子申告のメリットはペーパーレス化による効率アップだけではありません。
いつでも提出できます(土日祝日を除く)ので、税務署の開庁時間を気にする必要がありませんし、申告期限ぎりぎりまで作業時間を確保できます。
ハードコピーでの申告の場合は、どうしても、お客様・税務署等への送付に要する時間を差し引いて作業しなければなりませんので、申告に必要な情報がなかなか集まらないときや、期限直前で修正が必要になるときは、期限後申告を避けるために一度「割り切った」申告をして後日修正申告・更正の請求をするという二度手間を強いられることもありました。
その時間的制約を減らせることは、とくに税理士にとって大きな利点です。
地方税の関係でどうしても紙ベースで提出しなければならない書類(市役所に提出する「納税管理人申告書」など)がありますが、そのような書類はどのみち納税者本人の押印が必要なので、こちらで作成した書類をお客様にお送りして、押印と提出をお願いしています。
最終的には日本の全ての自治体へのすべての届出・申請がeLTAXでできるようになるのが夢です。
これは私の努力ではどうにもなりませんが…
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「うそでしょ?」といわれるかもしれませんが、お顔も知らず、声も聞いたことがないお客様がそれなりの数いらっしゃいます。
すべてのコミュニケーションがメールで完結し、オンライン会議すら不要だったためです。
ある意味、コミュニケーションがとてもうまくとれていた好例ともいえます。
しかし、会ったこともない「非常識」な税理士を信頼し、業務を委任してくれたお客様の英断に負うところが大きいと思います。
ありがとうございます。
私の夢の一つはすでに叶いました。