年が明けて12月決算でお忙しい方も多いと思います。
中にはこの時期にまとめて1年分の減価償却費を期末計上する方もいらっしゃるのではないでしょうか。
日頃は気にしていないけれども、この時期に「あーめんどくさっ。減価償却ってなんのためにやるんだろ?」と、あらためて疑問を持たれる方もいることでしょう。
ということで、本日のテーマは「減価償却」です。
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本題の前にちょっと寄り道です。
「費用収益対応の原則」という言葉を聞いたことあります?
これは、ある会計期間に発生した費用のうち、その会計期間の収益獲得に貢献した部分だけをその期の期間費用として認識・測定するという期間費用を決定する役割を担った会計原則です。
日本の「企業会計原則」も「費用及び収益は、その発生源泉に従って明瞭に分類し、各収益項目とそれに関連する費用項目とを損益計算書に対応表示しなければならない。」と定めています(第2章1C)。
「売上高」を計上するときに、これに対応する「売上原価」を計上して損益を計算するのが「費用収益対応の原則」の典型的適用例です。
期間収益と期間費用とを努力と成果という因果関係に基づいて対応計算を行うことでその努力と成果の結果としての期間損益を計算することが可能になります。
もっとも、「売上高」と「売上原価」のようにわかりやすい因果関係でひもづけできる収益・費用は少数派です。
たとえば、「販売費・一般管理費」に含まれる営業マンの歩合給は売上高との対応関係があるといえますが、固定給部分や管理部門の費用と売上高との間には直接の因果関係を見出すことはできません。
とはいえども、これらの費用が無秩序に各会計期間に割り振ってしまっては期間損益計算がゆがめられてしまいます。
そこで、「費用収益対応の原則」における「努力と成果という因果関係」とは、直接的なものだけでなく適正な期間損益のために人為的にもうけられた「フィクション」も含まれることになります。
たとえば、お菓子は食べた人が「おいしい」と思えることが一種の価値・効用であるというフィクションが考えられます。
その価値は、食べた時点で一気に実現し、その後現れることはありません(食べた人の記憶に留まることはあるかもしれませんが…)。
これに対して、同じ消え物(消耗品)でもボールペンの価値・効用は、一気に使い切らない限り、使うたびに少しづつ実現し、使える価値(残量)もその分少しづつ減っていきます。
そうすると、お菓子のようなものについては食べた時点で一気に「おいしい」という価値の実現と消滅を認識すべきでしょうし、ボールペンについては使用に応じて「字を書ける」という価値の実現と消滅を認識すべきでしょう。
さすがにボールペンの代金(一本数百円程度)を使用に応じて費用に配分していくのは手間ですから、実際には買った時点または使い始めた時点で一気に費用化するのが会計上の慣行として認められています。
しかし、建物、構築物、船舶、航空機、機械装置、車両運搬具、器具備品など高価な固定資産については、使用によって目減りした価値(減価)を費用として認識(償却)していくことになります。
これが減価償却です。固定資産の減価償却は、ボールペンと同様に以下のフィクションに基づく会計上の費用認識方法といえます。
土地のように使っても「擦り減らないもの」については「使うほど減っていく」というフィクションがそのまま当てはまりませんから「減価償却」の対象になりません。
ただし、使う見込みがなくなった土地については「使わなければ無価値」という考え方をあてはめ、無価値だと評価された時点で「減損」という手続きで費用化(損失として計上)します。
この「減損」は価値の目減りを認識するという点では「減価償却」と似ていますが、目減りを認識する理由が、モノの使用ではなく利用価値そのもの(絶対額)の減少である点で本質を異にします。
また、土地以外の固定資産についても「使うほど減っていく」とういうフィクションが当てはまらないケースもあります。
たとえば、骨とう品は「使用できる」価値とは別に「レアもの」としての価値を持つことがあります。
製造から何十年も経って走行距離も不明なクルマでも、歴史的価値があるとしてオークションで高値で競り落とされることがあります。
しかし、会計上の減価償却は、あくまでも使用できる価値だけに着目して、その目減り分を粛々と費用化していくものです。
なお、絵画などの美術品については、土地と同様に「擦り減らないもの」として減価償却の対象にしないという取扱いも認められています。
では、どのように価値の目減り(減価)を測定すべきでしょうか。
ここではフィクションに応じていくつかの方法が用意されています。
主なものとして以下の5方法があります。
定額法とは、固定資産を使用できると見込まれる期間(耐用期間)にわたって、毎期均等額の減価償却費を計上する方法です(企業会計原則注解(注20)(1))。
例えば150万円で購入した固定資産の耐用期間が5年間だったとすると、毎期5分の1(30万円)ずつ減価償却することになります。
この方法の前提は、固定資産の価値は時の経過とともに一定額が目減りしていくというものです。
これはイメージしやすいですよね。
定率法とは、固定資産の耐用期間中、毎期期首未償却残高に一定率を乗じた減価償却費を計上する方法です(企業会計原則注解(注20)(2))。
定率法には、取得当初に多額の減価償却費を計上する反面、年を経るごとに減価償却費が逓減していくという特徴があります。
この方法の前提は、固定資産の価値は時の経過とともに一定割合で目減りしていくというものです。
下記のイメージは、現行の税法基準(5年定率法の償却率は0.4)での計算になっています。
実は単純に各期首の未償却残高に0.4を乗じていくと5年以内に償却しきれないのです。
そこで4・5年目には償却率に補正が入って最後の2年は定額法(償却率0.5)になるという仕掛けになっています。
級数法とは、固定資産の耐用期間中、毎期一定の額を算術級数的に逓減した減価償却費を計上する方法です(企業会計原則注解(注20)(3))。
この方法は、定率法と同様に、初期に多額の減価償却費が計上され、次第に減少していくことから、定率法の簡便法として位置づけられます。
5年償却の場合は、5+4+3+2+1=15を分母に、5から1までトップヘビーになるように配分します。
級数法は現行の法人税法では法定の償却方法とされていません。
このため、申告調整が大変になるので(後述します)、会計実務もあまり使われていないようです。
生産高比例法とは、固定資産の耐用期間中、毎期当該資産による生産又は用役の提供の度合に比例した減価償却費を計上する方法です(企業会計原則注解(注20)(4))。
この方法は、当該固定資産の総利用可能量が物理的に確定でき、かつ、減価が主として固定資産の利用に比例して発生するもの、例えば、鉱業用設備、航空機、自動車等について適用することが認められます。
生産高比例法は、固定資産の価値の減少が、主にその利用に比例して発生することが前提となっており、見積総利用量(時間)が物量的に確定できることが適用の条件となります。
「使った分だけ償却する」という方法です。
ある意味「王道」だと思います。
取替法とは、同種の物品が多数集まって一つの全体を構成し、老朽品の部分的取替を繰り返すことにより全体が維持されるような固定資産について、部分的取替に要する費用を収益的支出(修繕費等)として処理する方法です(企業会計原則注解(注20)なお書)。
この方法も、「使った分だけ償却する」という考え方に近いのですが、固定資産の取得原価を費用配分するのではなく、実質は修繕費なので、企業会計原則は「減価償却」として取り扱っていません。
ちょっとかわいそうですね。
ご覧のように、取得価額が同じでも、選択する償却方法によって1年目から5年目の各期間に計上できる償却費がけっこう違ってきます。
ということは、選択する方法によって期間損益(利益)の出方も変わってくるということです。
あまり節操なく償却方法を変更することはよくありませんが、資産の使用実態が変わってきているなら、近い将来の損益予想も考慮して償却方法を変更するのもありだと思います。
税務上使える減価償却方法は限定的です。
定額法、定率法、生産高比例法、取替法が認められていますが、級数法は認められていません。
さらに、固定資産の種類によって、使える方法に制限があります。
あまり選択肢が多いと、選択する方法によって各年・各事業年度の課税所得の出方に差がでてくためです。
「課税の公平」の担保したいということなのでしょう。
ただし、税務署長の承認を受けることができれば、上記の方法に代えて「特別な償却の方法」を使うこともできます(所令120条の3、法令48条の4)。
もっとも、税務署長の承認を得るには「特別な償却の方法」を採用したい理由をきちんと説明しなければなりません。
つまり、その固定資産の使用実態に照らしてその方法が原則的な方法よりも適していることを説得的に記述することが求められています。
これはけっこう高いハードルといえます。
また、税務上の償却方法の選択は税務署長への届出が必要です。
届出を怠ると「法定償却方法」による償却が強制されます(所令125条、法令53条)。
定率法が選択できる資産については定率法、鉱業用資産については生産高比例法が法定償却方法になります。
会計上は合理的に見積もった耐用期間にわたって償却が認められますが、税務上はそうはいきません。
固定資産を使用できると見込まれる期間(耐用期間。税務上は「耐用年数」といいます)も「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」できっちり決められています。
とくに機械装置については設備の種類と細目ごとに細かく定められています。
使用実態に照らして法定の耐用年数が長すぎるときには、税務署長の承認を得て「耐用年数の短縮」をすることができます(所令130、法令58条)。
個人の場合この「短縮」が認められるのは青色申告書を提出する個人だけです。ご注意ください。
使用可能期間が1年未満または取得価額が少額な償却資産については以下の特例が使えます。
特例を使うかどうかは任意です(一つの資産について複数の特例を重複適用はできません)。
使用可能期間が1年未満または取得価額が10万円未満の償却資産を事業のために使用し始めたときは、その取得価額を事業のために使用し始めた年・事業年度の必要経費・損金に算入できます(所令138条、法令133条)。
取得価額が20万円未満の償却資産を事業のために使用し始めたときは、事業のために使用し始めた年・事業年度から3年にわたって取得価額の3分の1を必要経費・損金に算入できます(所令139条、法令133条の2)。
実際に使い始めた月からの月割ではなく、その年・年度に使用し始めた資産の取得価額を一括して3分の1ずつ均等償却します。
青色申告書を提出する中小事業者等が取得価額10万円以上30万円未満の償却資産を事業のために使用し始めたときは、年300万円を限度に、その取得価額を事業のために使用し始めた年・事業年度の必要経費・損金に算入できます(租税特別措置法28条の2、67条の5)
いずれも「取得した」ではなく「事業の用に供した」ことが要件になりますのでご注意ください。
法人の申告の場合に問題となるのが、会計と税務で生じうる減価償却費の違いです。
確定決算主義を前提としていない個人事業者の場合は、申告書の構造上、税法で認められたとおりの償却費しか必要経費に算入できない仕組みになっているので、こうした問題はありません。
以下の場合には、会計と税務の間で減価償却費に差額が生じます。
この場合、会計上と税務上の減価償却費の差額は法人税申告書上で調整することになります。
もっとも、会計上償却費を計上していないときに税務上だけ償却費を認識することはできません。
基本ルールは「会計上の償却費>税務上の償却費」のときに、超過した会計上の償却費を「減価償却超過額」として自己否認する(損金不算入にする)ことになります。この減価償却超過額は翌事業年度以降に累々と繰り越されていきます。
逆に「会計上の償却費<税務上の償却費」のときに「減価償却不足額」を申告調整で損金算入することはできません。
例外的に、前年度から繰り越されてきた償却超過額がある(すなわち過去に会計上認識した償却費が過大であった)ときに限って、その繰越額の範囲内で「不足額」を損金算入できます(過去に自主的に損金不算入にした超過額を戻し入れるといったほうが正確な表現です)。
この償却超過・不足の計算、繰り越してきた超過額の戻し入れなど細かい計算は法人税申告書の「別表16」という明細上で行います。
償却方法ごとにいろんなバージョンがあります。こんな感じです。
法人税別表16
別表16を見ているとその細かさにめまいを覚えることがあります。
これらの別表作成のベースになる資料が固定資産台帳です。
固定資産台帳は、会計上の減価償却費の計算だけでなく、償却資産税の申告や別表16上の償却限度額の計算の基礎になる大事なものです。
そのため、個々の資産を1アイテムづつ正確に記帳しておくべきです。
ときたま、同じ種類の複数アイテムをまとめて一件のデータとしてシステムに登録している方をお見かけします。
入力の手間を省きたいというお気持ちはわかりますが、あとで個々のアイテムが除却されたり、他の事業所に移設されたりしたときにデータの分割処理が必要になります。
取得日が同じでも事業に供した日(減価償却を始める日)は違ったりもします。
正確な決算・申告のために、固定資産台帳は丁寧に作りましょう。
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昔、外資系金融機関に勤めているときには、別表16を作るのがほんと大変でした。
なにしろ、法定耐用年数とは無関係な耐用期間で償却してましたし、海外の担当部署での固定資産の管理システムへの登録のしかたも雑(合算ベースのやっつけ仕事)が多かったので、申告調整額を出すのが大変でした。
結局、毎年全データをエクセルにエクスポートしてこっちで計算する羽目になってました。
道具は正しく使わなければ宝の持ち腐れです。