Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

事業用資産の譲渡

Copyright (c) RealDrive – Mobil1 McLaren NSX

頭文字D(イニシャル・ディー)というマンガご存知ですか?
アニメ、実写版も作られたちょっと前の人気コミックです。
主人公は「藤原豆腐店」のせがれなんですが、店のクルマで地元の峠を攻めまくるうちに伝説のドライバーとなり、いろんな走り屋からチャレンジを受ける…というお話しです。
もう一人?の主人公が、スプリンター・トレノ(AE86、通称「ハチロク」)という店のクルマです。
藤原豆腐店の「事業用資産」であります。

売ったらどうなる?

さてさて、ここからはマンガの物語からはずれた仮のお話しです。
藤原豆腐店の親父が2019年にハチロクを300万円で売り払ったとします。
その年の親父さんの所得税の確定申告(藤原豆腐店は個人商店だとします)で、ハチロクの売却益はどのように申告すべきでしょうか?

事業用資産の売却益だから豆腐店の事業所得に含めてよさそうですが、ハチロクは店の売り物(たな卸資産)ではないので、その譲渡益は「譲渡所得」として申告すべきです(所得税法33条)。
売値300万円とハチロクの帳簿価額(未償却残高)の差額が譲渡所得になります。
なにしろ30年以上使っていたクルマですから、とっくに償却しきっていて(自家用普通乗用車の耐用年数は6年)、その未償却残高は備忘価額の1円のはずです。
よって、2,999,999円からハチロクの譲渡に直接要した費用と特別控除50万円を控除した残額を長期譲渡所得(総合課税)としてを申告することになります。
このような長期(5年超)の譲渡所得は、その2分の1だけが課税対象になりますので、ハチロクの譲渡益の2分の1が豆腐店の事業所得と合わせて累進税率で課税されることになります。

ちなみに、不動産の譲渡は「分離課税」といって、豆腐屋の事業所得とは切り離して固定税率で課税されます。
もし、親父さんが店舗(土地・家屋)を譲渡すると、分離課税です。

下取りに出したら?

では、他のクルマに乗り換えるためにハチロクを下取りにした場合は、どう申告すべきでしょう?
税法上は、下取りも「譲渡」と同じです。
ディーラーと取り交わす売買契約書にある「下取り価格」を売値(譲渡価額)として、譲渡所得を計算します。一方、新車の方は下取り前の買値を「取得価額」として資産計上して減価償却していくことになります。
新旧それぞれ、別個の売買であり、下取りは、それそれの売買代金を相殺しているだけと考えてください。

廃車にしたら?

せがれが峠で事故ってハチロクが廃車になったら?
この場合は、売値ゼロ円という譲渡所得(譲渡損)の申告をします。
思わず「雑損」として譲渡所得から引きたくなりますが、ハチロクが「たな卸資産以外の動産」であることは変わりないので「譲渡所得」の区分で損失を申告することになります。

法人の場合

法人の場合、個人のような「所得区分」はありません。
豆腐屋事業のもうけも、ハチロクを売ったもうけ(損失)も合算して一つの所得として申告することになりますので、「事業」か「譲渡」かと悩む必要はありません。

消費税の納税義務にも影響

ハチロクの譲渡は藤原豆腐店の消費税申告にも影響します。
事業用資産の譲渡は「事業として対価を得て行う資産の譲渡」(消費税法2条8号)にあたり、消費税の課税対象になります。
藤原豆腐店が消費税の「課税事業者」であれば、ハチロクの譲渡対価を消費税の申告書上「課税標準額」に含める必要があります。

免税事業者であれば関係ないと思って安心してはいけません。
ハチロクの譲渡対価とその年の豆腐店の売上げを合計して1千万円を超えていると、翌々年に課税事業者になります(消費税法9条1項)。
もし、年の前半(6月末まで)で1千万円を超えていると翌年に課税事業者になります(消費税法9条の2)

高額の譲渡に注意

藤原豆腐店がマンションの一室を賃貸しており、ある年それを売却したとすると、その売値のうち建物部分の価格は消費税の課税対象になります。
不動産の譲渡のように高額な臨時収入があると、それまで免税事業者だった事業者が一時的に課税事業者になる可能性が高まります。
免税事業者が高額な資産を譲渡する時には、本業の消費税申告への影響も考える必要があります。
また、課税事業者が簡易課税制度を選択している場合も、原則法と比べて不利になることもありますので、事業用資産を譲渡する前に消費税の課税関係を検討すべきです。
不要不急であれば、課税上不利なタイミングで譲渡せず、時期をずらすという対応も必要かと思います。

***

トヨタの「ハチロク」は1980年代に一世を風靡したクルマです。
純粋なスポーツカーではありませんが、軽量で俊敏な足回りを持ち「ライトウェイト・スポーツ」というジャンルのはしりといえます。
当時大学生だった私には手の届かない、あこがれの一台でした。
いまでも人気が高く、程度の良いハチロクは300万円近い高値で取引されています。
「86」というクルマが2012年から売られていますが、車体もエンジンも「ハチロク」より大きくて、まったく別物です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください