Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

事業的規模の不動産の貸付け

不動産を賃貸に出すと「不動産所得」が発生します。
この不動産所得、「事業的規模」かそうでないかによって所得税の確定申告上の取扱いに違いがでることがあります。
手広く不動産を賃貸している大家さん、ご存知でした?

「事業的規模」の判断基準

不動産の貸付けが事業として行われているかどうかについては、原則として「社会通念上事業と称するに至る程度の規模」で行われているかどうかによって、実質的に判断することになっています。
そんな曖昧なことをいわれても、基準にはなりません。。
そこで、建物の貸付けについては、通達で一応の目安が示されています。

所得税基本通達26-9(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定)

建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるが、次に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとする。
(1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

いわゆる「5棟10室」基準です。
この基準に照らして「事業的規模」にあたると、不動産の貸付けは「不動産所得を生ずべき事業」として所得税法の規定の適用を受けます。
その他の場合は、「不動産所得を生ずべき業務」と呼ばれ、事業とは区別されています。

「事業的規模」になると何が違う?

事業的規模になると、以下の点で違いがでてきます。

青色申告控除

不動産貸付けが事業として行われている場合は、正規の簿記の原則による記帳をおこなうなどの一定の要件を満たすことにより最高65万円が控除を適用できます(措法25条の2第3項)。
それ以外の場合(事業所得がある場合を除く)は最高10万円となります(同条1項)。

収入の計上時期

不動産貸付けが事業として行われている場合は、その年の貸付期間に対応する賃貸料の額をその年分の総収入金額に算入することができます(所得税個別通達29 「不動産等の賃貸料にかかる不動産所得の収入金額 の計上時期について」直所 2-78 昭和48年11月6日)。
それ以外の場合には、原則として契約上の支払日の属する年分の総収入金額に算入します(所得税基本通達36-5)

貸倒損失の計上時期

賃貸料等の回収不能による貸倒損失については、不動産貸付けが事業として行われている場合は、回収不能となった年分の必要経費に算入します(所法51条2項)が、それ以外の場合は、収入に計上した年分までさかのぼって、その回収不能に対応する所得がなかったものとして、所得金額の計算をやり直します(所法64条1項)。

事業専従者の給与等

青色申告の事業専従者給与(所法57条1項)又は白色申告の事業専従者控除(所法57条3項)については、不動産貸付けが事業として行われている場合は適用がありますが、それ以外の場合には適用がありません。

資産損失の必要経費算入

賃貸用固定資産の取壊し、除却などの資産損失については、不動産の貸付けが事業として行われている場合は、その全額を必要経費に算入します(所法51条1項)が、それ以外の場合は、その年分の資産損失を差し引く前の不動産所得の金額を限度として必要経費に算入されます(所法51条4項)。

「事業的規模」をめぐるありがちな間違い

所得区分

事業的規模であろうがなかろうが、不動産の貸付によって得た所得が「不動産所得」であることに変わりありません。
所得区分が「事業所得」に変わるわけではありません。
ちなみに、貸し付けていた不動産を譲渡したことによる所得は、不動産の貸付け規模にかかわらず「譲渡所得」です。

不動産所得に係る損益通算の特例

土地等の取得に要した借入金の利子から生じた損失については、不動産の貸付け規模にかかわらず、不動産所得に係る損益通算の特例が適用されます。
事業的規模の不動産の貸付けを営んでいるとの理由で、土地等の取得に要した借入金の利子から生じた損失の部分を区分せずに、その損失の金額を損益通算の対象とするのは誤りです。

非居住者の損益通算

非居住者が国内で事業的規模で貸し付ける不動産は「恒久的施設(PE)」にあたります。
平成29年分以降、非居住者の所得のうちPEに帰属しないものについては総合課税の対象とせず、源泉分離課税で課税関係を完結させることになっています(所法164条2項)。
これに伴い、PEに帰属しない所得と不動産所得に係る損失との損益通算はできなくなりました 。
たとえば、非居住者である内国法人の役員が、役員給与と事業的規模の不動産所得に係る損失を損益通算するのは誤りです。

消費税法上の取扱い

また、消費税の課税関係を考えるにあたっても、事業規模に関係なく、不動産の貸付は「事業として対価を得て行われる資産の…貸付」に該当します。
事業的規模に至らなくても、不動産(とくにオフィス・店舗用建物、コインパーキングなど)を他人に貸していると、消費税の課税関係・申告納税義務が生じることがありますのでご注意ください。

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「事業」か「業務」か…条文の規定ぶりのわずかな違いにも意味があります。
法律は注意して読まないと怖いです。

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