Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant
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国外にいる取締役と日本の税務

数年前まで、日本の会社の代表者のうち最低一人は日本に住所を有していなければならないというお達しがあったようですが、現在は代表取締役の全員が海外に居住していても問題なしということになっています。
ただし、日本の会社の役員さんが海外に住んでいると、課税関係はちょっと複雑になります。

所得税への影響

所得税の課税範囲

海外に住む個人は、日本の税法上「非居住者」に該当します(所得税法2条1項5号)。
非居住者が日本で課税される所得(国内源泉所得)の範囲は限定されており、給与・報酬、退職金については、国内での勤務に関係して支払われるものが国内源泉所得になるのが原則です(所得税法161条1項12号イ、ハ)。
ところが、内国法人(日本で設立された会社、財団、社団)の役員に対する給与、報酬、退職金(役員報酬等)については、所得税法が以下のように弧書きを付け加えて、国内勤務に関係していなくても、国内源泉所得に含まれるように規定しています。
したがって、非居住者に対する役員報酬等は日本の所得税の課税対象になります。

第161条 国内源泉所得
この編において「国内源泉所得」とは、次に掲げるものをいう。
十二 次に掲げる給与、報酬又は年金
イ 俸給、給料、賃金、歳費、賞与又はこれらの性質を有する給与その他人的役務の提供に対する報酬のうち、国内において行う勤務その他の人的役務の提供(内国法人の役員として国外において行う勤務その他の政令で定める人的役務の提供を含む。)に基因するもの
(施行令285①)
ロ 第35条第3項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等(政令で定めるものを除く。)
(施行令285②)
ハ 第30条第1項(退職所得)に規定する退職手当等のうちその支払を受ける者が居住者であつた期間に行つた勤務その他の人的役務の提供(内国法人の役員として非居住者であつた期間に行つた勤務その他の政令で定める人的役務の提供を含む。)に基因するもの
(施行令285③)

所得税率

一般的な給与は「総合課税」という方法で課税されます。
実際に課税される金額は、給与支給総額から「給与所得控除」という必要経費の概算額を引いた残りからさらに各種所得控除(基礎控除、配偶者控除、扶養控除など)を差し引いた残額です。
この差引残高に対して5%~45%の累進税率(所得金額が大きくなにつれ高くなる税率)で所得税が課税されます。

これに対して、非居住者が支払いを受ける役員報酬等は「分離課税」という方法で一律20.42%の税率で所得税等(うち0.42%は復興特別所得税)が課税されます(所得税法164条2項)。
分離課税制度では「給与所得控除」も「所得控除」もなく、給与支給総額が課税ベースになりますので、金額によっては総合課税よりも税負担が重くなります。

源泉徴収

非居住者に対して役員報酬等を支払う会社は、その支払のつど20.42%の所得税等を源泉徴収し、その支払日の属する月の翌月10までに国に納付する義務を負います(所得税法212条1項)。
給与の支給人員が常時10人未満の場合、源泉所得税を年2回まとめての納付する特例(納期特例)の適用を受けている会社さんも多いと思いますが、非居住者に対する支払から徴収される所得税にはこの特例は適用できません(所得税法216条)。
したがって、国外の役員に報酬を支払う場合は、原則どおり支払月の翌月10日が納期限になります。

また、納付に使用する納付書の様式も一般の納付書ではなく、「非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書」という専用の納付書を使用します。この納付書はe-Tax web版では作成できないため、税務署等で入手する必要があります。

法人税への影響

役員報酬等の損金算入要件

役員報酬等は原則として法人税の計算上損金には算入できません(法人税法34条1項本文)。
例外的に損金算入できる場合がありますが、そのためには株主総会等で決議された金額の範囲内で法人税法が定める要件をすべて満たす必要があります(同項1ないし3号)。
定期同額給与(同1号)や事前確定給与(同3号)として損金算入要件を満たすには、あらかじめ決められた金額を決められた時期に支給しなければなりません。
為替相場の変動や時差のために、事前の合意と違った金額や時期に支給してしまうと損金算入要件を満たせなくなるおそれがあります。
株主総会等で国外の役員に対する報酬等を決議する際には、円相当額または外貨額のいずれかを明記し、支給時期も日本時間を基準に決議しておいた方がよいと思います。

移転価格税制・過少資本税制

海外の取引先・提携先から取締役を受け入れる場合には移転価格税制・過少資本税制の観点からも注意が必要です。
会社の事業活動の相当部分がその取締役の派遣元企業との取引に依存していたり、事業活動に必要な資金の相当部分をその派遣元企業からの借入等で調達している場合は、たとえその企業から資本出資を受けていなくても、その企業が「親会社」なみの「特殊の関係」(租税特別措置法施行令第39条の12、39条の13)にあるとみなされて、その会社との取引について移転価格税制(租税特別措置法第66条の4)、借入について過少資本税制(同法第66条の5)が適用されます。

恒久的施設

国外の取締役が内国法人の代表者になっている場合は、相手国での課税関係にも注意が必要です。
その取締役がその居住国で会社の事業のために継続的な取引を行うと、内国法人がその国に恒久的施設(支店など事業を行うための固定的な場所)を有していると判定され、現地で法人税等の課税を受ける可能性が考えられます。
そのような事態を避けるためにも、国外取締役の権限の内容を明確にし、恒久的施設の認定につながるような行為をさせないように制限しておくことが望まれます。

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通信手段が発達したおかげで、海外の取引先との協働もしやすくなりました。
海外から取締役を迎える内国法人や、日本に居ながらにして外国法人の役員になる方も増えていくと思います。税制がこうした流れに水を差すことにならないことを願うばかりです。

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