Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

似て非なる勘定科目たち(貸借対照表編)

事業規模が大きくなったり、業態が変化してくると、経理処理もだんだん複雑化してきます。使う勘定科目も増えてきて、しかも似たような科目があったりして混乱するかもしれません。でも、大丈夫。それぞれの科目の違いを理解しておけば、科目の使い分けや経理処理のルーチン化がはかどりますし、適切な科目選択は決算・申告時の省力化にもつながります。今回は、似ている勘定科目がどう違うのか比較しながら見ていきます。

資産科目

現金 vs 小口現金

「現金」は事業資金として手元に置いてある紙幣・硬貨のことです。銀行などに預け入れる前にお店のレジや社内の金庫に保管されている現金が典型です。
「小口現金」も手元にある現金の一種ですが、こちらは文房具、切手・印紙など少額な買い物や経費の支払いにあてる目的で他の現金とは区別して管理されるものです。
10万円とか20万円とか金額を決めおいて、使った分だけあとから定期的に補充するように管理されるのが一般的です。

現金は「現金出納帳」、小口現金は「小口現金出納帳」で入出金を記録し、出納簿上の残高が現物残高と出納簿上一致しているか常にチェックすべきです。
現金は本店の金庫、小口現金は各支店の金庫にといった具合に保管場所も違うことが多いので、会計帳簿上も保管場所ごとに補助科目を設定しておくと、それぞれの出納帳との残高照合がしやすくなります。
なお、小口現金の管理があまりに負担になるようなら、小口現金制度を廃止し、従業員に経費を建て替えてもらって後日精算する方法をとるのも一案です。

売掛金 vs 未収収益 vs 未収入金

継続的に特定のお客さんに商品・サービスを販売する場合に、その都度代金をもらわず、月末締めの翌月10日払いといったように後で請求する約束で販売することを「掛売上」といいます。売上は販売したその日に計上しますが、その時に売上の相手科目(借方)として使用する科目が「売掛金」です。

「未収収益」は掛売上に限らず、後で代金が支払われるあらゆる取引の相手科目になります。
例えば、不動産の貸付で賃料が翌月払いになっている場合は、賃料収入の相手科目として未収収益を使います。売掛金との違いは微妙ですが、契約条件に従って時間の経過とともに日々収益が確定していく取引については未収収益、実際の取引高に応じて計上される掛売上については売掛金を使うものだと私は整理しています。

「未収入金」は本業以外の取引で代金が後払いになっている場合に使います。
たとえば、遊休資産の不動産を売却し、その代金の支払いが不動産の引渡し(所有権移転登記)の後という約束になっている場合に、売却の日(売買契約の締結日)に将来の入金予定額を計上する科目です。

商品 vs 製品 vs 半製品 vs 原材料 vs 仕掛品

いずれも棚卸資産です。

「商品」は他社から仕入れたもの、「製品」は自分で製造した完成品です。いずれもすぐに販売できる状態の棚卸資産です。
「半製品」は未完成品ですが、販売しようと思えば売れる状態まで加工済みのものです。
「仕掛品」も未完成品ですが、こちらは「半製品」なる前の状態で、まだ追加で加工が必要です。

建物 vs 建物付属設備vs 構築物

「建物」は建物の躯体(本体)のことです。建物本体と一体で使用される設備(電気設備、給水設備、ドア・隔壁などの建具類など)を一緒に取得する場合は、それらの設備もまとめて建物に計上するのが一般的です。

「建物付属設備」は、建物本体と一体で使用される設備を建物とは別に取得した場合や、他人から借りている建物に自分で設備を追加した場合に、それら設備を計上する科目です。
もっとも、設備によっては建物として計上すべきものもあるので、その区別は微妙です。
将来一定期間ごとに交換・改修されることが前提になっている設備は建物付属設備にあたると考えてよいでしょう。典型例は冷暖房設備、エレベーター・エスカレーター、可動間仕切りなどです。

「構築物」は建物と別個に使用される設備です。
例えば、ビルの屋上に設置した広告塔や携帯電話の中継アンテナ、ビルの敷地の外周に設置した門扉や外壁は構築物として計上します。
これらは、物理的に建物に接していても、機能的には独立しているという点で建物付属設備と区別されます。

機械装置 vs 器具備品

工場など製造現場に設置する機械が「機械装置」、それ以外の一般的な工具・什器・器具が「器具備品」というイメージで良いと思います。

預け金 vs 敷金

いずれ返還されるか、将来発生する自己の債務と相殺させる予定で預けるお金を「預け金」といいます。
「敷金」は「預け金」の一種です。不動産の賃貸借に際して担保として差し入れる預け金は、他の一般的な預け金と区別します。敷金ではなく「差入保証金」という科目を使用することもあります。

前払金 vs 前払費用 vs 仮払金

単発的な取引の前に代金の一部または全部として支払ったお金は「前払金」です。
継続的なサービスを受ける場合に、その代金を前払いすると「前払費用」になります。

「仮払金」は支払った時点で使途が分からないため、とりあえず計上するための経過勘定です。期末に多額の仮払金を抱えることは避けたいところです。早めに使途を特定して、しかるべき科目に振り替えましょう。

前払費用 vs 繰延資産

「前払費用」はまだ提供を受けていないサービスの対価として前払いした代金です。
例えば、1年分前払いしたクラウドサービスの利用料のうち翌年度分は前払費用になります。

「繰延資産」は既に提供を受けたサービスの対価として支払った代金のうち、その支出によって得られるサービスの効果が翌年度以降にも及ぶ場合に、翌年度以降に費用計上を繰り延べるために一時的に資産として計上するための勘定科目です。
契約期間2年で不動産を賃借する際に支出した権利金の効果は2年間におよぶので、24か月かけて費用化します。翌年度以降の月数に対応する部分は繰延資産として計上し、翌年度以降に費用化(償却)します。

創立費 vs 開業費

いずれも繰延資産の一種です。
「創立費」は会社を創立するまでにかかった費用です。
「開業費」は会社創立後、実際に事業を開始するまでの間にかかった費用です。

負債科目

買掛金 vs 未払費用 vs 未払金

継続的に特定の取引先から商品等を仕入れる場合に、その都度代金を払わず、月末締めの翌月10日払いといったように後で支払う約束で購入することを「掛仕入」といいます。仕入は購入したその日に計上しますが、その時に仕入の相手科目(貸方)として使用する科目が「買掛金」です。

「未払費用」は掛仕入に限らず、後で代金を支払うあらゆる取引の相手科目になります。
例えば、不動産の賃借で賃料が翌月払いになっている場合は、支払賃料の相手科目として未払費用を使います。契約条件に従って時間の経過とともに日々費用が確定していく取引については未払費用、実際の取引高に応じて計上される掛仕入については買掛金を使います。

「未払金」は本業以外の取引で代金が後払いになっている場合に使います。
たとえば、工場の敷地として土地を購入し、その代金の支払いが不動産の引渡し(所有権移転登記)の後という約束になっている場合に、購入の日(売買契約の締結日)に将来の支払額予定額を計上する科目です。

預り金 vs 前受金 vs 前受収益 vs 仮受金

「預り金」は、いずれ預けた者に返還するか、将来発生する預け人に対する債権と相殺又は預け人に代わって支払いする予定で預かるお金のことです。例えば、毎月の給与から会社が源泉徴収する所得税は従業員の税金ですが、これを会社が一旦「預り金」として計上し、翌月に税務署に納付しています。

単発的な取引の前に代金の一部または全部として支払ったお金は「前受金」です。

継続的なサービスを提供する場合に、その代金を事前に受け取ると「前受収益」になります。

「仮受金」は受け取った時点で何のための入金か分からないため、確認ができるまでとりあえず計上するための経過勘定です。

退職給与引当金 vs 退職給付引当金

かつては、一時退職金制度に係る負債を「退職給与引当金」、企業年金制度にかかる負債を「退職給付引当金」に計上していましたが、現在では退職給付引当金に統一されています。
補助科目的に帳簿上は別々の科目に計上し、貸借対照表上の表示だけ一本化する会社もあるようです。

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貸借対照表の一般的な役割は、各事業年度末時点での財産状態を報告することだと考えられています。
この考え方に拠れば、繰延資産のように財産的価値のないもの(もともとは費用)を貸借対照表に資産計上することは例外ということになります。
一方、貸借対照表は、財産状態の報告だけでなく、現時点では損益に貢献していないが将来の損益に影響しうるものも資産として計上し、翌期以降に繰り越し、将来の損益計算への橋渡しする役割も兼ねている(このような機能を「期間損益計算の連結環」というそうです)と考える説もあります。
この説によれば、繰延資産が資産計上されるのは当然ということになります。
私が大学生のころ会計学界ではこんなことが議論されていました。
見方を変えれば原則・例外が入れ替わる。実に興味深いです。

次回は「損益計算書編」です。

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