複式簿記で使用する勘定科目は取引の原因と結果を表すものといえます。
特に損益科目は、一定期間の事業活動の成果を原因別に示す重要な経営指標です。
正確かつタイムリーな経理処理は経営判断に資する情報を提供してくれます。
その情報を有効活用するには、経営者も勘定科目の内容を理解しておくべきです。
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「売上高」は一般的に商品・製品の販売の対価に使われます。
「受取手数料」は役務(サービス)提供の対価に使われます。
物販の場合、売上高から売上原価を控除して求めた売上総利益(いわゆる粗利)が重要な経営指標になります。売上高にサービスの対価が含まれていると粗利が本来よりも高めに出てしまいますので、物販とサービス提供を同時に行う企業では、それぞれを区別しておくべきです。
例えば、不動産業の場合、自社が所有する販売用不動産(商品)の売上と他人が所有する不動産の譲渡の仲介手数料は区別して収益計上すべきです。そうすることによって、収益源が一目でわかります。
とはいえ、売上高に比べて受取手数料が少額で金額的にみて重要性が低い場合や、サービスの対価が物販と不可分の関係にある場合などは、区別しなくても良いと思います。
例えば、自動車ディーラーの整備部門での交換部品(商品)の売上と取付工賃(サービス料)は一体で「売上高」に計上しても良いと思いますが、営業部門での各種代行手数料(サービス料)はクルマ(商品)の売上とは別に計上した方が良いと思います。
どちらも売上高からのマイナス項目ですが、原因が違います。
「値引」は文字通り単純な値引です。
「割戻」は一定の条件を満たした取引先に与える代金の値引、商品の追加引渡し、小売店への報奨金の支払(いわゆるキックバック)などです。
値引は取引ごとに折衝で決まることが多いと思いますが、割戻は代理店契約、販売委託契約などで定めた条件に従って決まります。例えば、3ヶ月間に指定の商品を100個以上買ってくれた取引先には代金を5%割引するとか、10個商品をおまけするといった感じです。
いずれも売上高からのマイナス項目として経理することで、本来の売値(正価)と実績に開きがあるか一目でわかります。
売却した有価証券が売買目的で保有していたものか、長期投資目的で保有していたものかによる区別です。
売買目的(いわゆるトレーディング目的)で保有した有価証券の売却益「有価証券売却益」、子会社・関連会社の株式や取引先との持ち合い株式など長期保有目的で保有していた有価証券の売却益は「投資有価証券売却益」です。
「有価証券売却益」は本業ではないものの経常的に発生しうるものとして営業外収益に表示されますが、「投資有価証券売却益」は頻度・内容も特殊なので特別利益に表示されます。
性格の違いによって経常損益に反映させるか否かにも違いがありますので、この二つ科目の使い分けは重要です。
売上値引・割戻の「仕入版」です。
仕入先から与えられた値引・割戻を仕入高の控除項目として計上します。
「賃金給料」は工場などの製造部門の工員さんの給料のことです。製造原価の一項目です。
「給与手当」は営業部門・管理部門の従業員の給料です。販売費・一般管理費を構成します。
製造原価の計算のために、両者の区別が必要になります。
1人の工員さんが複数の製品の製造に関わっている場合は、賃金給料の額を製品ごとに配賦する(割り振る)処理も必要になります。
ちなみに、人件費以外の経費の大半は、工場等での製造部門に関するものとその他の部門に関するもので勘定科目に違いがありませんが、製造部門の経費か非製造部門の経費になるかの区別は必要です。
勘定科目名は同じでも会計システム上のコードを変えるとか、補助科目を変えるなど区別のための工夫が必要になります。
どちらも人件費の一種です。
「法定福利費」は、社会保険料、労働保険料など法令によって会社・雇用者に負担義務が課せられている費用です。なお、従業員負担分は給与から天引きし、一旦「預り金」として計上し、会社負担分と合わせて後日納付します。
「福利厚生費」は従業員の福利厚生を目的に支出した費用のことです。その意味で法定福利費も福利厚生費の一種です。住宅手当、家族手当、慶弔金など会社の内規に従って従業員全員に平等に支給される金品は福利厚生費にあたりますが、特定の者を対象にするものは給与になるとお考え下さい。
目的によって区別されます。
「会議費」は打ち合わせのための費用です。取引先だけでなく社内会議の費用も含まれます。会議を目的とするものであっても、一般的に会議に必要と考えられる限度を超える支出は次に説明する「交際費」に該当します。
たとえば、高級レストランでの会食、飲食・レクリエーションを主目的とする会合は会議の議題が設定されていても会議費にするには無理があると思います。
どのような内容・金額なら「一般的」といえるかは、相手との関係(社内か取引先か、取引上の地位)、時・場所(就業時間内か、出張先か)などを考慮して常識で判断するしかありません。この判断は会社の決算だけでなく、法人税の申告にも影響します。
「交際費」は接待のための費用です。取引先と親睦を目的にした会食などの費用が典型ですが、贈答品の費用も含まれます。また、従業員との会食であっても親睦目的なら交際費として処理すべきです。
「寄付金」は、簡単にいうと見返りを期待せずに支出する費用です。
交際費は「今後契約が見込める取引先と仲良くしたい」とか「社員同士の親睦を深めて職場の雰囲気を良くして仕事を円滑にすすめたい」といった一種の下心にもとづく支出ですが、寄付金は最初から見返りを期待しないという点で交際費とは異なります。
寄付することで取引先や顧客に評価されるといった効果を見込めるかもしれませんが、それは反射的なものであって、直接見返りを期待して支出する交際費とは違います。
この区別も法人税の申告にも影響します。
直接の見返りを期待できないという点では「諸会費」も寄付金に似ているかもしれません。
しかし、諸会費は団体のメンバーになること、あるいはメンバーの地位を維持することを直接の目的として支出するものですから、純粋な寄付金とは違います。
同業者団体、あるいは一定の事業を営む法人・個人に法令で加入が義務付けられている団体の加入金、会費は諸会費になります。
一方、単なる親睦団体や社会福祉活動団体への拠出金は、たとえ名目が加入金・会費となっていても、寄付金として処理した方が適切な場合もあります。
固定資産の処分の仕方によって区別されます。
中古品として売却した場合にその売値が帳簿価格を下回るときは、その差額を「売却損」に計上します。下取に出した場合は下取価格が売値になります。
売却せず、単に廃棄した場合は、その時点での帳簿価格が「除却損」になります。
この区別は消費税の申告に影響します。
土地以外の固定資産の売却は課税資産の譲渡として消費税の課税対象になりますので、売値と一緒に消費税も売却先に請求してください。
廃棄は課税対象外です。
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損益計算書上の勘定科目は税務申告の内容にも影響することが多分にあります。
期中の経理処理がきちんとできていると、申告作業も効率化できますし、ミスも減らせます。
また、日頃から経理処理がちゃんとできていると、税務調査時の説明も簡単になりますし、調査官の心証も良くなるはずです。