働き方改革やらなんやらで副業OKの企業も増えているようですが、そうでないところにお勤めの方のなかには税金関係で副業が会社に知られるのではと心配されている方が多いようです。
なぜ「バレる」かその仕組みを理解するには副業に対する課税関係を知るのが一番ですが、副業の仕方によって課税関係が違ってきます。
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本業が会社勤めで副業も会社勤め(つまり、2か所以上の雇用主から給与をもらっている)の場合は、本業の勤め先に副業の存在を隠すのは難しいです。
なぜなら、本業の勤め先が副業分の給与所得についても住民税を「特別徴収」する義務を負っているからです。
個人の所得には国税である「所得税」だけでなく地方税である「住民税」も課税されます。
給与所得に対する住民税は個人が自分で納めるのではなく、雇用主が給与の支払い時に「天引き」して個人に代わって各市区町村に納付することになっています。この天引きのことを「特別徴収」といいます。
個人所得税(国税)の納税額はその年の年末調整や確定申告で決まりますが、住民税(地方税)は住所のある市区町村が前年の所得金額をもとに事後的に決定する仕組みになっています。
市区町村は、雇用主が各市区町村に毎年1月に提出する「給与支払報告書」や個人が自分で提出する所得税の確定申告書をもとに住民税の金額を決定し、「特別徴収税額の決定通知書」という書類を雇用主に送付して、それぞれの従業員の給与からいくら「特別徴収」すればよいかを通知します。
雇用主はこの通知に基づいて6月から翌年5月までの間、支払う給与から住民税を特別徴収します。
副業としての勤め先も給与支払報告書を市区町村に提出する義務を負っています。
市区町村は、給与の支払いを受ける人ごとに給与支払報告書を取りまとめ、給与支払報告書が複数ある場合はそれらを合算して住民税額を決定し、本業の勤め先だけに通知します。
このように、給与所得に対する住民税は本業・副業を区別することなく一体として計算され、本業の給与から特別徴収される仕組みになっていますので、副業分の住民税がそれなりの金額になっていると、本業の方で「この人なんで特別徴収税額がこんなに多いの?」と気づかれる可能性が高くなります。
こうした特別徴収制度の仕組み上、副収入が給与の場合、住民税の特別徴収税額から副業の存在が本業の勤め先に知られてしまうリスクは避けられません。
また、副業先でも社会保険に加入すると本業側での社会保険料計算にも影響が出ます。
社会保険事務所から本業勤務先への連絡で副業がわかってしまう可能性があります。
雇用契約ではなく「委任」契約の下で副業をして収入を得ている場合は、副業分の住民税を本業の給与からの特別徴収に含めるか、含めないかを選択できます。
選択するには、所得税の確定申告が必要です。申告するのは手間かもしれませんが、選択手続きそのものはいたって簡単です。
所得税の確定申告書(様式B第二表)の中の「住民税・事業税に関する事項」の「給与・公的年金等に係る所得以外の所得に係る住民税の徴収方法の選択」欄で「給与から差引き」か「自分で納付」のいずれかに〇をつけるだけです(下図参照)。
副業の所得金額が少額(20万円以下)で所得税の確定申告が不要なときは、住民税の確定申告をして選択をします。
特別徴収に含めていなければ本業の勤め先にはわからないはずですが、それでも注意が必要です。
委任で請け負っている副業が事業的規模で「事業所得」として確定申告している場合で、かつ、赤字の年は、たとえ副業分の住民税を「自分で納付」すると選択して申告しても、本業の勤め先に副業のことが知られてしまうリスクがあります。
詳しくは次の「個人事業所として開業した場合」で説明します。
副業が事業的規模に至らず「雑所得」として確定申告している場合は、「自分で納付」を選択していれば、あまり心配しなくても良いと思います。
個人業者として開業して、副業を事業所得として申告する場合も、副業分の住民税を本業の給与からの特別徴収に含めるか、含めないかを選択できます。
副業を事業所得として申告するメリットは、副業が赤字のときに給与所得と赤字を通算して所得税・住民税の負担を軽くできることです(雑所得で申告する場合は、この赤字通算はできません)。
ただし、この赤字通算をすると、たとえ所得税の確定申告で住民税を「自分で納付」すると選択しても、勤務先にわかってしまうことがあります。
赤字通算によって住民税の納税額が給与分の税額より減る場合は、所得税の確定申告で住民税を「自分で納付」するを選択していても特別徴収を強制適用する市区町村があります。
そうなると、確定申告での選択を無視して本業・副業合算ベースで特別徴収税額を決定して勤務先に通知してきますので、受け取った勤務先は「なんだかこの人の住民税やたら少ないな…」と気づかれる可能性があります。
運よく、納税額が少ないことに気づかれなかったとしても、特別徴収通知書から副業の存在が知れてしまうリスクがあります。
各市区町村から本業の勤務先に送付される特別徴収通知書は「特別徴収義務者用」と「納税義務者用」の2種類があり、そのうち「納税義務者用」は勤務先から本人に配られることになっています。
「納税義務者用」、すなわち本人用通知書には給与所得以外の所得がいくらあったか、所得の種類ごとにすべてが記載されています。
一方、「特別徴収義務者用」、すなわち勤務先用通知書の記載内容は市町村ごとに異なり、所得の種類別詳細が非表示になっていることもあれば、本人用と同様に記載されてしまっていることもあるようです。
本来は勤務先は本人用通知書を見てはいけないのですが、本人用通知書にマスキング(シールなどで記載内容を保護する)などの措置がとられていない場合は、勤務先が内容を見ることは可能です。
本業の勤務先が本人用通知書の内容を見てしまったり、そもそも勤務先用通知書に所得の詳細が記載されている場合は、通知書から事業所得の赤字が給与所得と通算されていることが一目瞭然なので、副業のことも知れてしまいます。
会社と株主の所得は別個に課税されますから、いくら会社がもうけようが、個人の課税所得には影響しません。
本業の勤め先に会社の所得や納税額が自動的に伝わる仕組みもありません。
その意味で、副業用に個人会社を設立するのは良い手かもしれません。
ただし、法人化すると決算・税務申告の手間は格段に増えます。
また、以下のような理由で結果的に副業が勤務先に分かってしまうリスクは排除できませんので、法人化が無駄にならないよう実行前に慎重な検討が必要です。
自分で会社(個人会社)を設立して、その役員になり、会社が儲かったら役員報酬をもらう…という計画だと、いずれ本業の勤務先に個人会社のことが伝わります。
なぜなら、本業先と個人会社の2か所から給与をもらうことになるので、先述の「雇用関係がある場合」と同じ状況になるからです。
会社役員は会社に雇用されているのではなく、株主から会社経営を委任されている立場にあるのだから「委任関係に基づく場合」にあたるのでは?というツッコミもありそうですが、会社法上はともかく、税務上は役員報酬は「給与所得」扱いになるので、どうやっても本業の給与と合算で特別徴収の対象にされてしまいます。
個人会社のことを隠し通したいのであれば、役員報酬をもらうのは我慢すべきです。
そうすると、個人会社の儲けは「配当金」として受け取るのが良さそうです。
ただし、受取配当は受け取った年に個人所得税の課税対象になります。
しかも、個人会社のような非上場会社からの配当金については申告不要制度が適用されないので、所得税の確定申告が必要です。
ここで配当所得分の住民税について「自分で納付」の選択を忘れると、配当所得も給与所得と合算されて特別徴収の対象に含まれてしまいますので、配当金の支払いがあった年は、選択し忘れないよう気を付けてください。
また、配当金を支払う際には個人会社が所得税の源泉徴収をしなければなりません。
会社の源泉徴収もれにも気を付けてください。
これだけいろいろ課税関係に気をつかっても、個人会社による副業の存在が勤務先にわかってしまうリスクはゼロにはできません。
会社を設立するには商業登記が必要です。
だれが会社の取締役になっているかは必要的登記事項(かならず登記しなければならない項目)なので、自分が取締役になっていると少なくとも氏名が登記されます。
代表取締役になっている場合はさらに住所まで登記されますから、ほぼ確実に本人だと特定できるだけの情報が登記されます。
これらの事項はひとたび登記されれば、見ようと思えば誰でも見ることができますから、個人会社を使って副業をしている噂が流れてしまうと登記で裏付けを取られる可能性があります。
そうなってしまっては、せっかくの法人化も水の泡です。
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これを言ってしまっては身も蓋もありませんが、完璧に副業を隠し通せる方法はないというのが私なりの結論です。
就業規則等で明らかに禁止されているのに副業をすると、それを理由に解雇されても文句はいえません。
ビクビクするくらいなら無理に副業などしないのが一番だと思うのですが…そこはそれぞれのご判断でお願いします。