Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant
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廃業と税務手続き

めったにない事なので、気にする方は少ないと思いますが、事業を廃止した年はいつもと違った税務手続きが必要になります。
個人事業の法人成り、法人を清算して個人事業化する際にも、それまでの事業を一旦「廃止」して新たな事業を開始した形をとりますので、これらの手続きが必要です。
ということで、今回は事業を廃止する場合の税務手続きと留意点をまとめてみました。

個人事業者が事業を廃止する場合

事業の一部を廃止する場合

一か所で事業を行っている個人事業者がその事業の一部を廃止する(事業内容を変える)ときは、原則的に手続きは必要ありません。

一方、複数の事業所(店舗、工場など)を有する個人事業者が、その一部の事業所を廃止するときは、事業税の課税関係に影響しますので、廃止する事業所がある都道府県の都道府県税事務所に届出をしてください。
届出書の様式は自治体によって異なりますが、「事業開始等申告書」といった名称の事業開始と事業廃止のどちらにも使えるようになっているものが一般的です。
届出の期限は各自治体の条例によって異なるようです。
東京都の場合は廃止から10日以内が届出することになっています。
いずれにしても、事業所の廃止が決まったら早めに届出の準備をしてください。

すべての事業を廃止する場合

事業所が所在しているすべての都道府県の都道府県税事務所に廃止の届出(事業税関係)をしてください。
また、納税地を所轄する税務署にも事業廃止の届出(所得税関係)をしてください。
「納税地」は普通は事業主の住所ですが、事業所の所在地など住所以外の場所を納税地として指定を受けている方の場合は、指定を受けた納税地の管轄の税務署が届出先になります。

これまで「青色申告書」を提出していたり、給与の源泉徴収をしていた場合、消費税の申告をしていた場合は、それらの関係でも税務署に廃止の届出が必要です。ただし、所得税関係で廃止の届出をすれば省略できるものもありますので、税務署に確認すると良いでしょう。

事業主が亡くなった場合

事業を営んでおられた方が亡くなった場合は、相続人の方が「すべての事業を廃止する場合」の届出をする必要があります。
届出の期限は通常の廃止よりも遅め(東京都の場合、死亡の日から30日以内)になっていますが、事情が事情だけに気づいていても忘れてしまいそうです。
なお、相続人の方が事業を引き継ぐときは、相続人の方が「事業開始届出」を税務署・都道府県税事務所にしてください(相続人の方が以前からご自分で事業を営んておられた場合は不要です)。

海外に転居する場合

海外に転居して「非居住者」として事業を継続する場合も、「居住者」としての事業を廃止したことになるので「すべての事業を廃止する場合」の廃止の届出が必要になります。

なお、海外に転居して「非居住者」になるときは、それまで「居住者」として稼いだ所得について所得税の確定申告も必要です。
「非居住者」になった後も日本国内で稼いだ「事業所得」など一定の所得については引き続き所得税の確定申告が必要になります(詳しくはこちらをどうぞ)。
そのため、
国内に事業所等を残して国内事業を継続するときは「非居住者」として改めて「事業開始届出」を税務署・都道府県税事務所に提出する必要があります。
かなり面倒な手続きですが、居住者と非居住者とでは同一人物でも出国時を境に課税のされ方が違ってくるため、致し方ありません。

法人が事業を廃止する場合

支店等を廃止する場合

法人は存続しつつその支店等の事業所一部を廃止する場合は、その事業所がある都道府県の都道府県税事務所と市町村に「異動届出」を提出してください。

法人が解散する場合

法人が解散する場合は、都道府県税事務所と市町村だけでなく本店所在地の税務署にも「異動届」を提出してください。
法人が解散すると解散の日(株主総会などで解散を決議した日)をもって通常の事業年度が終了し(法人税法14条1項1号)、その事業年度開始の日から解散の日までの期間について法人税、事業税・住民税、消費税の確定申告も必要になります。

解散の日の翌日から法人は清算手続きに入りますが、法人の残余財産が確定して清算手続きが終わる(清算結了)時点で改めて法人税等の確定申告が必要になります(法人税法14条1項21条)。
清算手続きが長期にわたるときは、株式会社・一般社団法人・一般財団法人については解散の日の翌日から1年ごと、その他の法人の場合は会社定款が定める決算日ごとに清算期間を区切り、それそれの期間ごとに法人税等の確定申告が必要になります(法人税法13条1項)。
清算手続きの途中で事業所を廃止するときは、廃止の都度「支店等を廃止する場合」の届出をします。
これらの手続きを清算結了まで繰り返していくことになりますので、法人を解散する際は、誰が申告・届出の実務を引き受けるのか(形式的には「清算人」ですが…)を決めておく必要があります。

事業を廃止した年等の事業税の取扱い

個人事業者が事業を廃止した年や法人の清算結了事業年度に課税所得が発生すると、所得税・法人税だけでなく事業税も課税されます。
事業税は実際に納付する年・事業年度に必要経費・損金に算入することになっていますので、このままでは事業の廃止後・清算結了後に事業税を払っても必要経費・損金に算入するチャンスがありません。
そこで、事業を廃止した年・清算結了事業年に限って、まだ実際に払う前の事業税額を必要経費・損金に算入してもよいことになっています(所得税基本通達37-7、法人税法62条の5第5項)。

法人の青色欠損金の取扱い

法人は欠損金を10年間(2018年3月31日以前開始事業年度で生じた欠損金について9年間)繰り越して将来の所得から一定額を控除することができます(青色申告を提出している場合に限ります。)が、事業を廃止したときにはいつもと違うルールが適用されます。

期限切れ欠損金の控除

本来は繰越期限内に使いきれなかった欠損金は消えてなくなるだけですが、法人の清算事業年度中に所得がプラスになったときには過去の期限切れ欠損金を「復活」させて課税所得から控除させることができることがあります(法人税法59条3項)。
清算事業年度が黒字になりそうなときは、過去の法人税申告書を探して欠損金の繰越し状況を確認できるようにしておいたほうが良いでしょう。

繰戻し還付

欠損金が生じた事業年度の前事業年度が黒字の場合、前事業年度分として納税した法人税の一部の還付を受けることができます(法人税法80条)。
しかし、期末資本金が1億円を超える法人や親会社の資本金が5億円以上の法人など一定の法人については、特例によりこの欠損金の「繰戻し還付」制度の適用が停止されています(2020年3月31日までに終了する事業年度まで。租税特別措置法66条の13)。
ただし、解散事業年度または解散の日前1年以内に終了した事業年度に欠損金が生じた場合には原則どおり「繰戻し還付」が受けられることになっています。
最後に赤字を出したときは、直前の事業年度で法人税を払っていないか要チェックです。

消費税の申告

個人が事業を廃止したときには消費税の「みなし譲渡」に注意が必要です。
棚卸資産(商品や原材料)や事業用資産を処分することなく、事業廃止後に自家消費(自分の生活のために使うこと)するときは、それらを譲渡したものみなして消費税を課税することになっています(消費税法4条5項)。
課税事業者として仕入れて税額控除の対象としていた消費税を一消費者となる自分に転嫁することで課税もれを封じる趣旨のようです。
ちょっと厳しすぎるような制度ですが、高額な不動産、耐久消費財などが私用に転用される場合の課税もれは課税の公平性の観点から看過できないということでしょう。
税務調査で「みなし譲渡」を指摘されるケースは多いようです。

所得税等の源泉徴収

廃業前に源泉徴収した所得税の納付もお忘れなく。
源泉徴収については廃業した場合の特例がないため「いつも通り」の手続きが必要です。
特に「納期特例」を受けていて年に2回しか納付していないときは忘れがちです。
最後の納付が完了してから給与支払事務所等の廃止届を出しましょう。

法定調書等の提出

法定調書関係についても特例がないため、廃業した翌年の1月末までに廃業年分の源泉徴収票、支払調書の提出が必要です。
これも、うっかり忘れてしまいそうです。

***

いかがでしたか?
廃業した後の税務手続きって意外に多いんです。
法人の場合は決められた時間内に会社法上の手続きや登記も必要になりますから、さらに忙しいです。
有終の美飾るのも大変です。

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