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そもそも、「法令」と「通達」はどう違うのでしょう。
その前にちょっと寄り道です。
税理士は仕事道具として「税務六法」を使います。
昔は「法令編」と「通達編」の二分冊でしたが、年を追うごとにどちらも分厚くなり、いつの間にか法令編が二分冊になって現在は合計三分冊です。
税法はインターネットの法文集で、税務通達は国税庁のホームページでも見ることができるご時世ですが、今でも多くの税理士事務所にこの三冊が鎮座しているものと思われます。
ヤマグチもちょっとした調べものやキーワード検索したいときはweb版を利用しますが、じっくり調べものをしたいときは三分冊を開きます。
「六法」といっても収録されている法令数が六つというわけではありません。
平成30年版税務六法(日本税理士会連合会編・ぎょうせい)の目次を数えると、通則法として法律3・政令3・省令3、直接税関連法として法律5・政令3・省令3、間接税関連法として法律6・政令4・省令4、地方税法関連で法律3・政令2・省令1、特別法として法律3・政令2・省令1、税理士関連法として法律1・政令1・省令1が収録されています。
「法律」は、国民の代表が集まる国会で審議・承認されて初めて法的拘束力をもちます。
我が国では国会が唯一の立法機関とされていますから、国会以外の場でかってに「法律」を作ってもそれは無効です。
「政令」とは、法律に「政令で定める」と規定されている部分を受けて内閣が制定する命令です。
「省令」は法律や省令を施行するために各省大臣が制定する命令です。やはり法律に「〇〇省令で定める」という規定がある場合にのみ制定が許されるものです。
これら「法律」「政令」「省令」をまとめて「法令」といいます。
税務六法の「法令編」には全部で49の法令が収録されています。
ちなみに、地方議会が審議・承認する「条例」も「法令」の定めに矛盾しない限り「法令」に含まれます。
「通達編」には「法令編」に収録されている法令に関連する「通達」が全部で29収められています。
法令ではない通達が収録されている「通達編」を「税務六法」と呼ぶのは本来おかしいのでしょうが、おそらくそれを気にしている税理士はいないと思います。
そのくらい税理士の仕事に関連する「通達編」ですが、その内容は税理士や納税者あてに出されたものではなく、純然たる行政内部文書です。
「通達」とは各大臣、各委員会・各長の長がその所掌事務に関して、所管の諸機関や職員に示達する形式の一種です。つまり、役所のトップが「今後〇〇については…ということに決めたから、私の部下である君たちはその通りにせよ!」という上意下達を文書にしたものです。
法令の解釈や運用方針に関するものが多く、いわゆる行政規則の性格をもち、形式上は国民や裁判所を直接拘束するものではありません(法律学小辞典 第4版 有斐閣)。
つまり、国税通達は国税庁長官が自分の部下に対して、地方税通達は総務大臣が各自治体の長に対して、税務に関する法令の解釈や運用方針を示した行政規則なのです。
調査官がこれを無視することはできませんから、税務調査の際に、通達を示しながら行政の立場を説明することは至極当然なのです。
また、課税処分に対する不服申立を受けた行政庁も上級庁からの通達を無視することはできませんから、申立を認容するか棄却するかの判断は通達に拘束されます。
国税に関しては処分庁による再調査・審査の結果に不服があるときは、さらに「国税不服審判所」という処分庁とは別の機関に不服申立をすることができます。
国税不服審判所は国税局や税務署のように課税処分をする役所とは別個独立の行政機関ですが、そこで判断をする国税審判官も国税庁の職員なので、国税通達に拘束されます。
つまるところ、通達は法令の趣旨・目的を実現するために行政機関が法令をどう解釈すべきか「心得」を示しただけのものです。
したがって、通達で示されていない法令解釈であっても法令の趣旨に合致する解釈であれば認められる余地は十分あります。
新しい事例に対応するため、法令が改正されなくても通達は適宜改訂されていくのが通例です。
課税庁や国税不服審判所に対する不服申立が棄却されてなお不服があるときは、国や地方自治体の処分が法令に違反しているとして裁判所に訴えを提起することもできます。
裁判所は国の司法権に属し、行政とは完全に分離した機関ですから、通達には拘束されません。訴える納税者も当然通達には拘束されません。
したがって、納税者は自分なりに法令を解釈して、自分の判断が法令の趣旨に合致していると主張することはなんら憚られるものではありませんし、裁判所も独自の解釈で納税者と処分庁のいずれの主張が正しいのか自由に判断できます。
もっとも、法令の趣旨を誤解・逸脱した主張はもとより認められませんから、納税者がなんでも主張できるというわけではありませんし、裁判所も完全に自由な判断ができるわけではありません。
結果的に、通達の解釈が正しいという結論になることはよくありますが、それは裁判所が通達に従って判断をしたのではなく、たまたま見解が一致しただけなのです。
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税理士は課税庁の考え方を知るために通達を参考にします。
なかには、通達を読むうちに感化されて完全に行政よりの思考パターンで凝り固まってしまう税理士もいますが、本来は参考程度にすべきものです。
私もそうならないように気を付けます。