Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant
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租税条約と日本の税法

ビジネスの国際化が進むにつれ、外国での税負担が気になる方も増えているのではないでしょうか?
所得税・法人税の申告にあたって「外国税額控除」を適用することで外国税の負担を軽減できる可能性はありますが、うまく条件を満たせなければ、結果的に外国税を負担せざるを得ないことになります。
また、外国からの投融資に対するリターン(配当、利子など)を支払う際に日本で課税される源泉所得税が、外国人投資家に嫌がられることもあります。
そんなとき、もし、取引先、投資家が日本と「租税条約」を締約している国の会社や居住者ならば、税負担を軽減できるかもしれません。

そもそも「条約」とは

「条約」とは文書による国家間の合意のことです。
外務大臣など内閣が任命する全権委員が調印して、内閣が批准(同意)し、国会の承認を受けることで効力が発生します。
条約は国際法であると同時に国内では国内法として通用します。
これは「日本国が締結した条約及び確立した国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」(憲法98条2項。国際協調主義)という憲法の規定を受けてのことです。
もっとも、条約そのものだけで国内法並みに通用させることはいろいろ難しいので、条約を国内法として機能させるための法令が立法・施行されることが多いのが現実です。
「租税条約」については「租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律(租税条約実施特例法)」などが施行されています。

「租税条約」とは

租税条約とは「二重課税回避」と「脱税防止」を主な目的とする条約・協定のことです。
日本は123の国・地域と70の条約・協定を締約しています(2018年7月1日現在 財務省HP)。

「二重課税回避」はそれぞれの締約国の居住者(納税者)のためにあります。
一般的な租税条約は所得税・法人税が二つの国で二重に課税された場合の救済措置を定めており、消費税などの間接税、相続税はフォローしていません。
相続税に関する条約もありますが、現時点で日本が締約している相続税条約は「遺産、相続及び贈与に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアメリカ合衆国との間の条約」(1955年発効)のみです。

一般的な租税条約は、二重課税回避に関連して、一方の国で課税できる所得の範囲と限度税率を定めています。
両国で課税できる場合は、税負担の軽減措置を定めるのが通例です。
例えば、日本の法人から中国の株主にへ支払われる配当に対しては中国が課税できる(日中租税協定10条1項)と同時に日本も課税できることになっています(同条2項)。
ただし日本で課税する場合の税率は10%までに制限されています(同条2項)。

もう一つの目的「脱税防止」は、それぞれの締約国の税務当局のためにあります。
最近は国際的な連携が強化されており、二国間条約に加えて複数国の税務当局と相互に情報交換するための多国間条約も締結されています。
例えば、日本人がアメリカに持っている財産などの情報をアメリカの税務当局(内国歳入庁)が把握している場合、日本の税務当局(税務署、国税局、国税庁)が内国歳入庁に情報提供を求めることができます(日米租税条約26条)。

国内法との関係

租税条約は国内法(所得税・法人税など)に準ずる扱いをうけることは先述のとおりですが、租税条約が国内法と異なる定めを置く場合、租税条約の規定が優先されます(国際協調主義)。
その場合でも、租税条約と国内法の規定が異なるときは、いずれか有利な規定を適用すれば足りるという考え方(プリザベーションクローズ:Preservation Clause)もありますが、日本の所得税法、法人税は、明文の規定をもって一定の所得についてプリザベーションクローズの適用を放棄している(所得税法162条、法人税法139条)ため、租税条約を適用するとかえって不利になることもありえます。

租税条約を適用するための手続き

条約の規定を適用する場合に、租税条約実施特例法に基づく手続きを求められることがあります。
例えば、中国の株主が日本法人から支払いを受ける配当に対する日本の源泉所得税ついて、租税条約に基づく軽減(20%→10%。日中租税協定10条2項)の適用を受けるには、「租税条約に関する届出書」を日本の税務署に提出するよう定められています(租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令(租税条約実施特例省令)2条、2条の2)。
もっとも、こうした「届出書」の提出が租税条約を適用するための要件なのか、単なる手続にすぎないのかは議論があるところで、その点が税務調査で議論になることがあります(ブログ「源泉徴収について(3)」参照)。
といっても、余計な議論は避けるにことしたことはないので、届出書は素直に出しておいた方が無難です。

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租税条約はけっこう奥が深くて、これを研究テーマにしている学者さんもいます。
米系金融機関に勤め始めたころの上司(ブログ「嫉妬の税制」にも登場)は、アメリカの大学院で租税条約に関する研究論文を書いた方で、日本人としてはその分野の先駆者だったと思います。
プリザベーションクローズという言葉を教えてくれたのもその方です。
あれから21年・・・月日が経つのは早いものです。

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