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まず、先日のブログ「内国法人と外国法人」で軽く触れた国際的二重課税について少し詳しめにお話ししましょう。
日本では個人の所得に対しては所得税、法人の所得に対しては法人税がかかります。
国によって税金の呼び名が異なることもありますが、外国でも所得税・法人税が課税されるのが普通です。
一時「パナマ文書」「バハマ文書」で話題になった「タックスヘイブン」と呼ばれる国には所得税・法人税がありません。
そのように所得税の負担が全くないか、あったとしても極端に低い国や地域を「課税退避地 (Tax Haven)」と呼んでいます。
税金天国(Tax Heaven)ではありません。念のため。
日本の個人や法人が外国でビジネスをしてその国から所得を得ると、その国で所得税が課税されることがあります。
外国から見れば日本人や日本企業は「非居住者」や「外国法人」です。
非居住者・外国法人にどこまで、どうやって所得税を課税するかは、各国の税法の定めに従うことになりますが、最低でのも自国内で発生した所得のうち、受動的所得(利子、配当など)とキャピタルゲインを課税しようとするのが普通です。
事業所得については自国内のPE(恒久的施設)を通じて得られた所得に限定して課税するのが最近の流行りです(日本も最近そうなりました。ブログ「内国法人と外国法人」参照)。
一方、日本からみれば日本人や日本企業は「居住者」「内国法人」です。
日本は、居住者・内国法人に対しては国外で稼いだ所得(国外源泉所得)も含む「全世界所得」を課税することにしています。
ということは、日本の居住者・内国法人が外国で稼いだ受動的所得、キャピタルゲイン、場合によっては国外支店の事業所得について日本の所得税と現地の所得税の両方が課税される結果になります。
このように、同一の所得について日本と現地で所得税・法人税が重複課税される状態を「国際的二重課税」といいます。
ちなみに、居住者・内国法人に対しても国内源泉所得しか課税しない国(フランスなど)では国際的二重課税は生じません。
タックスヘイブンのように、そもそも自国に所得税がない国の居住者・内国法人についても生じません。
では、生じてしまった二重課税はどうなるのでしょう?
対処の仕方も国によって異なりますが、全世界所得課税方式を採っている国では「外国税額控除」か「国外所得控除」のいずれかによって二重課税を解消ないし緩和しようとするのが一般的です。
「外国税額控除」方式は全世界所得に対する自国の所得税から外国で納税した所得税(外国税)を控除する方法です。
つまり自国での納税額(税負担)を調整するやりかたです。
一方、「国外所得控除」方式は一旦全世界所得に含めた国外所得を課税所得から除外することで自国での課税をギブアップする方法です。こちらは課税所得レベル(課税範囲)での調整です。
両者の違いは、二国間の所得税率の差をどう考えるかにあります。
以下のような極端なケースで差があらわになります。
【前提】
1. 税率 自国 30%、外国 25%
2. 全世界所得 1000
3. 国外所得 1000(=国内源泉所得はゼロ)
外国税額控除方式 | 国外所得控除方式 | ||
A | 全世界所得 | 1000 | 1000 |
B | 国外所得控除 | 適用なし | △1000 |
C | 自国での課税所得 | A – B = 1000 | A – B = 0 |
D | 自国の所得税 | C x 30% = 300 | C x 30% = 0 |
E | 外国の所得税 | 1000 x 25% = 250 | 1000 x 25% = 250 |
F | 外国税額控除 | △250 | 適用なし |
G | 自国での納税額 | D – F = 50 | D – F = 0 |
H | 税負担合計 | E + G = 300 | E + G = 250 |
このケースではどの部分に二重課税が生じていると思います?
まず、全世界所得レベル(A)で考えてみましょう。
外国で課税済みの国外所得1000がもう一度自国で課税されれば、所得1000が二重に課税されることになります。
この二重課税を避けるために自国での課税所得からすでに外国で課税された所得を控除するのが国外所得控除(B)です。
これは比較的わかりやすいですよね。
では、税額レベルではどうでしょう。
全世界所得が自国だけで課税されれば所得税額は300になるはずです(D)。
しかし、すでに外国で250を納税しています(E)から、このままでは総額550になってしまいます。
つまり、自国で納めるべき税額を超える250が二重に課税されているといえます。
この考え方に基づいて自国の税額300から外国税額250を控除するのが「外国税額控除」です(F)。
いいかえると、全世界所得に対する税負担が最終的に300になればよいのであって、外国で納付済みの250の差額50についてはそもそも課税の重複はないということです(ちょっとわかりにくいですかね‥)。
よって、国外で課税済みの所得1000に対しても自国で50まで課税できるということになります(G)。
どちらの方式にも長所と短所があります。
外国税額控除方式なら自国の課税権を留保できるので、一見自国に有利な方法のように思えます。
しかし、無条件に認めると、自国に比べて税率が高い国と低い国での税負担の通算ができてしまい、結果的に自国の課税権が浸食されるという欠点があります。
一方の国外所得控除方式は、所得レベルでの課税重複を完全に解消できるという点で簡潔ですが、自国との税率差によって課税の空白が生じてしまいます。
日本は外国税額控除を基本としつつ、必要に応じて部分的に国外所得控除方式を採用しています。
かつては、所得税・法人税ともに外国税額控除方式のみでしたが、現在は法人の所得のうち国外子会社等からの配当についてはその95%を課税所得から控除する方式を併用しています。
そのかわり「間接外国税額控除」という制度が廃止されました。
間接外国税額控除とは、海外の子会社が現地で納税した所得税・法人税を親会社の自国の法人税から控除する制度です。
これは、子会社等の所得にかかった外国の所得税・法人税と日本の親会社が受け取る配当に対する法人税の二重課税を解消するための方法でした。
日本は長年、子会社が現地で納税した所得税を、親会社が間接的に納税した外国税とみたてて外国税額控除の対象にしてきましたが、いろいろ使い勝手の悪さもあって、この方式では二重課税を完全に解消するのは難しいといわれていました。
それを理由に国外子会社等からの配当を先送りしている日本企業がけっこう多かったらしく、政策的配慮もあって、税額控除から所得控除に切り替えたもようです。
日本の、特に法人税における外国税額控除制度は結構複雑です。
先述のとおり、無条件に認めると二重課税の排除という趣旨を逸脱した「行き過ぎた節税」に利用されるおそれがあります。
そうした欠点を補うために改正に次ぐ改正がなされ、控除対象となる外国税の範囲や、控除できる限度額の計算式は複雑化しています。
その計算項目には、全世界所得、国外源泉所得、法人税額などの変動要素が多く含まれるため、自分がどれだけ外国税額控除できるのか、その試算をするのはけっこう大変です。
タックスプランニングの観点からは、国外子会社等からの配当が「税額控除」から「所得控除方式」の対象に変わったのは、とても良いことだと思います。
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いまから30年ほど前、ヤマグチは日本の会社で外国税額控除の限度額計算を担当していました。
といっても、まだ経理部の新人で法人税のことをよく理解していなかったので、上司からの指示通りに資料を集めたり計算していただけなのですが、とにかく大変でした。
計算項目が複雑に入り組んでいて、各項目の仮定値次第で結果は何パターンにも分岐するというパズルのようなスプレッドシートを作らされました。
あまりにも大変だったので、システム化するというプロジェクトが立ち上がったものの、事前のコンサルティングの段階で予算を使い果たして中止になったという痛い思い出があります。