Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

税務調査を受けるにあたって

調査対象に選定されたら逃げ場なしの税務調査。
今回のテーマは税務調査を受けるにあたっての「こころの準備」です。
法人への調査が前提です。

なんでうちに?

調査対象の選定には一定のルールがあるという噂があります。が、真偽は不明です。
よく言われているのが、申告金額(所得の多寡、申告調整項目の内容)にブレがあるとか、決算書からみる財務指標(利益率など)が激変しているとシステムの形式チェックで調査対象の候補にあがってくるという噂です。
財務省が公表している資料でも、国税総合管理(KSK)システムで税務調査対象者を選定しているといっていますから、この噂は信ぴょう性があります。

あと、マスコミで取り上げられた会社もマークされると聞きます。
急激に事業を拡大している、経営者が目立ちたがりでテレビ・雑誌に登場する会社は国税当局にもみられています。
雑誌に登場する経営者の写真に写りこんでいる持ち物(腕時計、アクセサリー、クルマ)のブランドや、行きつけの飲食店などをチェックしているという噂を聞きます。
偶然かもしれませんが、フェラーリ(F355。中古)を買った知り合いのところにも翌年税務調査が来ました。
社長が会社のお金で派手な生活をしているのではないかと疑っているのかもしれません。

現金商売もマークされやすいと聞きます。
申告履歴がみあたらない、流行っているわりには申告所得が少ない場合は脱税の嫌疑濃厚なので見逃すことはないでしょう。
少し前に話題になった「大阪城のたこ焼きおばちゃん」も長年無申告だったそうです。

そこまで極端なケースでなくとも、長期間税務調査を受けていなければ「そろそろ行ってみっか…」的にマークされることもあるでしょう。

ちなみに、国税局が調査を担当する大規模法人の場合は2年に1度、下手すると毎年調査がくることがあります。
会社が大きくなると、かならず何らかの問題や間違いがあると知っているからやってくるのでしょう。
ちょっとしたミスで申告もれが多額になることも多いので、調査官にとっては「やりがい」を感じること間違いなしです。

税理士を立ち会わせるべき?

必ずしも必要はありませんが、調査官との駆け引きが苦手だったり、調査官の主張が正しいか判断しかねる場合は税理士に任せた方がよいかもしれません。
大抵の顧問税理士は立会いを求められて断ることはないと思います。
ただし、税理士にも税務調査が苦手な人もいますので、そこは気をつけて観察しましょう。
現役時代の神通力を期待して国税OBの税理士に立会いをお願いする人もいますが、結果はその税理士次第です。
最近はお目にかかっていませんが、とにかく「俺のことはしってるよな?」的な国税OB税理士もいました。
その方はテクニカルな議論をすることなく、強引に調査を終わらせるようと圧力一辺倒だったので、現役調査官の反感を買ってしまい、かえって調査を長期化させてしまったようです。
国税OB税理士に限らず、まっとうな議論ができない税理士が原因で「こじれる」ことはあります。
様子をみて「これはダメだな」と思ったら税理士を変える勇気も必要です。

何人くる?

税務署からの調査は2~3人体制が普通です。
大抵は「上席国税調査官」と「国税調査官」の組み合わせです。
まれに1人ということもありますが、単独行動できる調査官は「デキる人」だったりするので油断してはいけません。
海外との取引が多い場合は他の税務署から「国際税務専門官」が助っ人として加わることもあります。
特に源泉所得税の調査の際には、その道の専門家が呼ばれます。

国税局からの調査は5~6人で1チームです。
会社の規模が大きければ10人を超えることもあります。
現場に出てくるのは「総括主査」「主査」「国税調査官」ですが、局で「統括国税調査官」というボスが調査指揮を執っています。
この「統括」が現場に出てくることもありますが、そんな時は要注意です。
ただの「現場好き」の視察ならいいんですが、総括主査の現場指揮に不安を覚えて「やっぱり俺が出て行ってやらにゃならんかな」というタイプだと後々「荒れる」ことがあります。
調査方針が変わったり、論点がズレ始めたり、しまいには議論がかみ合わなくなったりしたときは、統括のダメ出し(もしくは趣味)で現場が混乱している可能性が高いです。

同じことは調査を受ける会社側にも起こりえる事情です。
それまで調査に臨席していなかった「偉い」人がでてきて、持論をぶちまけ始めたり、調査を仕切ろうとし始めたりすると迷走します。
「変な統括」と「知ったかぶりの偉い人」が現場を無視して勝ってに手打ちすると、論理的におかしな調査結果になるので、その後の決算・申告で論理矛盾が露呈して辻褄合わせが大変になります。
私の経験では、「変な」人と「知ったかぶり」はなぜか相性が良く、税法そっちのけで話しをまとめようとする傾向があります。
出来ることなら、最初からこの手の人たちを引き合わせないほうが無難です。

何を出させられる?

1. 決算書・会計帳簿
必須です。これがなければ調査になりません。
決算書から精算表、残高試算表、総勘定元帳、仕訳明細、伝票、証憑(レシート、請求書)の順に数字を遡って調べます。
日頃から会社のほうでも見やすいように整理しておいた方が、調査のときにもすぐ対応できます。
この段階から「出し惜しみ」をしたがる人がいますが、私は得策とは思いません。
会社・事業主であれば当然に備え置いてあるはずのものばかりですから、これをスムーズに提出できないとうことは、すべてにおいて杜撰(ずさん)であるか、知られたくないことがあるので時間稼ぎをしていると疑われます。
帳簿類は気持ちよく渡してあげましょう。

よくツッコまれるのは「決算整理仕訳」「決算修正仕訳」など精算表から決算書レベルで入る期末仕訳の内容です。
このあたりは、税務申告に影響しそうな仕訳が多いので必ずチェックが入ると思っていいです。
引当金の繰り入れ、未収入金・未払金の計上などは「鉄板」項目です。

2. 社内文書
株式会社であれば、株主総会議事録、取締役会議事録、稟議書などです。
これらの資料によって最近の会社の活動を把握します。
会社と役員の間の取引、株主からの自社株の買取りなどイレギュラーな取引が行われていないか、ちゃんと会社法上の手続きを踏んだ有効な取引かといった観点でみられる資料です。
節税商品購入に関する稟議書、取締役会議事録などでてきたら、調査官が食いつくこと間違いなしです。
会社が社内手続きを踏まずに役員やその家族に対して経済的便宜を図ると違法取引になる場合があります(会社法356条など)し、適法だとしても役員賞与として損金不算入になります。
こうした社内文書は、特に大企業では、きちんともれなく事実を網羅しているはずなので、調査官にとっては「お宝」だと思います。

3. 契約書
契約上の債権・債務が確定した時点をチェックします。
約定より遅れて計上されている収益や、前倒し計上された費用がないか調べます。
源泉所得税・消費税の調査でも見られます。
取引が複雑な場合は、営業担当者などから直接説明を聞きたいと要望されることもあります。
聞かれたことに真摯に回答するだけで充分なのですが、質問される担当者はとても不安がります。
調査官のインタビュー前に、どういう趣旨で質問がされるのかブリーフィングしてあげてください。

いつまでつづく?

税務署の調査は2~3日かけて会計帳簿を中心にみます。
国税局の調査は2~3か月じっくりといろんな資料をみます。
場合によっては取引先への「反面調査」も実施します。
調査期間は案件ごとにまちまちです。
特に国税局の調査は長期化することがあり、複雑な案件や「こじれる」と人事異動をはさんで数年間続くこともあります。

どこまで調べる?

調査は直近の3年分の申告を対象に始まることが多いですが、途中で5年前までさかのぼることもあります。
過去に税務調査を受けたことがある期間でも再度調査することがあります。
ここまでが通常の調査範囲です。
仮装隠蔽が疑われる場合には7年前までさかのぼって調査することができる権限が国に与えられています(国税通則法70条5項)。
欠損金がないのに調査対象がだんだん遡っていくときは、何か見つけられちゃったときです。

なお、繰越欠損金に影響する更正処分をする際には、欠損金の繰越し期間にあわせて10年さかのぼってすることができます。

***

嫌な調査官に意地悪してやりたくなる気持ちはすっごくわかりますが、非協力的態度(いやがらせ)は何もいいことないです。
以前ブログにも書きましたが、調査がいやだからといって拒否しているとかえって怪しまれます。

なにもやましいことがなくても、何かしらのミスが見つかるのが普通です。
だからこそ調査がくるのです。
普通に対応して普通に見つかるミスは潔く間違えと認めて、さっさと調査を終わらせた方が良いと私は思うのです。
もっとも、終わらせ方次第によっては後々「しまった」ということもあります。
そのあたり「どう終わらせる?」については、次の機会にお話しさせていただければと思います。

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