Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant
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国外財産のあぶりだし

国境をまたぐ課税回避・脱税が増えて久しいのですが、ここ数年において対応が急速に整備されています。
外国に財産を移したり、国外に移住してしまえば、日本の税務当局ができることは限られると思われていましたが、事情は変わりつつあるようです。
税務当局が「なに」を「どうやって」できるようになったのか‥まとめてみました。

国外送金の把握(国外送金等調書)

金融機関などを通じて国外へ送金したり、国外からの送金などを受領したりすると、「告知書」という書類を金融機関に提出させられます(内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(以下「国外送金等調書法」)3条)
金融機関はこの「告知書」にもとづいて「国外送金等調書」を作成し、税務署に提出しなければなりません(国外送金等調書法4条)。
国外送金等調書には送金者、受領者、本人口座番号、取次金融機関、金額、送金目的などが記載されます。
税務当局は、国外送金等調書をもとに、確定申告の有無や取引の確認を行い、国外財産(銀行口座、不動産など)の存在を知ることができます。
ちなみに、100万円以下の国外への送金、本人口座からの振替による国外送金、国外からの送金等の受領にかかる為替取引などについては、調書の提出が免除されています(国外送金等調書法施行令8条1項)

国外財産の把握-1(国外財産調書)

日本の居住者(除く非永住居住者)は、その年の12月31日時点において合計5,000万円を超える国外財産を有する場合は、翌年3月15日までに、その国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した「国外財産調書」を税務署に提出しなければなりません(国外送金等調書法5条)。
この国外財産調書制度については以下の「アメ」と「ムチ」が用意されています。

1. 国外財産調書の提出がある場合の過少申告加算税等の軽減措置(アメ)
国外財産調書を提出期限内に提出した場合には、国外財産調書に記載がある国外財産に関する所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」)又は相続税の申告漏れが生じたときであっても、その国外財産に関する申告漏れに係る部分の過少申告加算税等について、5%軽減されます(国外送金等調書法6条1項)

2.  国外財産調書の提出がない場合等の過少申告加算税等の加重措置(ムチ)
国外財産調書の提出が提出期限内にない場合又は提出期限内に提出された国外財産調書に記載すべき国外財産の記載がない場合(重要な事項の記載が不十分と認められる場合を含む)に、その国外財産に関する所得税等の申告漏れ(死亡した方に係るものを除く)が生じたときは、その国外財産に関する申告漏れに係る部分の過少申告加算税等について、5%加重されます(国外送金等調書法6条2項)

3.  正当な理由のない国外財産調書の不提出等に対する罰則(ムチ)
国外財産調書に偽りの記載をして提出した場合又は国外財産調書を正当な理由がなく提出期限内に提出しなかった場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されることがあります。ただし、提出期限内に提出しなかった場合については、情状により、その刑を免除することができることとされています(国外送金等調書法6条4項)

国外財産の把握-2(CRS/AEoI)

外国の金融機関が自国の税務当局に顧客との取引内容を報告し、各国の税務当局間で情報を交換しあう制度が始まっています。
情報は共通報告基準(Common Reporting Standard(以下「CRS」)に従って集められ、自動的に交換されます(Automatic Exchange of Information (以下「AEoI」)。
CRSにより、各国の金融機関は口座保有者の居住者国を特定し、各金融機関の所在地国の税務当局に報告することが義務付けられ、各国の税務当局は収集した各国の居住者口座情報をその納税者の居住国の税務当局と自動的に情報交換を行うこととなります。
AEoIにより、これまで各国の税務当局が把握することが困難であった租税回避行為の情報をタイムリーに把握することができるようになります。

日本では、2015年3月31日にCRS関連法(租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律)及び政省令が成立しており、今年(2018年)から各国税務当局との間で自動情報交換を始めます。
2018年8月現在、84の国・地域が日本に対するAEoIに合意しており、その中にはバハマ、パナマ、ケイマン諸島などのいわゆる「タックスヘイブン」も多数含まれています(参考:OECD ACTIVATED EXCHANGE RELATIONSHIPS FOR CRS INFORMATION)。

国外財産の把握-3(FATCA)

FATCA (Foreign Account Tax Compliance Act)は、米国に納税義務のある個人または法人(「米国人等」)が、米国外の外国金融機関に保有する口座を利用した資産隠ぺい・租税回避を防止することを目的とした米国の法律です。
原則的に日本人は報告対象外ですが、たまたま米国で納税義務者になっている人は対象者になります。

FATCAは条約ではなく、単に外国の法律ですから、本来日本は無関係です。
しかし、日本政府は「米国のFATCA実施円滑化等のための日米当局の相互協力・理解に関する声明」を公表し、日本の金融機関がFATCAに準拠して顧客の口座情報を毎年米国の税務当局(内国歳入庁)へ報告することを確約してしまいました。
日本の金融機関にとってはいい迷惑です。

FATCAはAEoIとは別個独立の制度で、しかも米国はAEoIに参加していません。
したがって、FATCAで集められた情報が自動的に日本の税務当局に与えられる仕組みはありません。
しかし、日本は米国との租税条約に基づいて、FATCAで収集した情報を提供するよう米国に要求することができます(日米租税条約26条)ので、日本の制度やAEOIでは把握できない情報が米国経由で日本の税務当局に提供される可能性はあります。

国外財産からの取り立て(徴収共助)

最近こんなニュースがあったのご存知ですか?

東京国税局が豪州の税務当局に租税条約に基づく徴収共助を要請し、日本で贈与税を滞納していた豪州人男性の預金から約8億円を徴収していたことが、関係者の話でわかった。税金滞納者が保有する国外財産から滞納分を徴収するのは難しく、日本の国税当局が海外当局の協力で億単位の税金を徴収したのは初めて。(読売新聞9月17日)

これは「徴収共助」という制度を活用して国外財産から日本の税金を直接取り立てた初めてのケースのようです。
徴収共助は二国間の「租税条約」によるもの(例:日米租税条約27条)と、多国間の「税務行政執行共助条約」によるものがあります。
税務行政執行共助条約(正式には「租税に関する相互行政支援に関する条約」)は締約国間で、租税に関する以下の行政支援を相互に行うための多数国間条約のことです。

①情報交換: 締約国間において、租税に関する情報を相互に交換する。
②徴収共助: 租税の滞納者の資産が他の締約国にある場合、他の締約国にその租税の徴収を依頼する。
③送達共助: 租税に関する文書の名宛人が他の締約国にいる場合、他の締約国にその文書の送達を依頼する。

日本は、国際的な脱税及び租税回避行為に適切に対処していくことを目的として、2011年に税務行政執行共助条約及び改正議定書に署名し、これらの条約等は2013年10月1日に発効しました。
2018年7月現在で日本を含む125の国・地域が締約国になっています(参考:OECD Convention on Mutual Administrative Assistance in Tax Matters) 。

二国間の租税条約は基本的に、所得税、法人税、復興特別所得税、復興特別法人税、地方法人税などの所得税等のみを対象としますが、税務行政執行共助条約及び改正議定書の適用範囲はそれにとどまらず、以下の租税も対象になります(参考:OECD Convention on Mutual Administrative Assistance in Tax Matters as amended by the 2010 Protocol)。

相続税、贈与税、地価税、消費税、酒税、たばこ税、たばこ特別税、揮発油税、地方揮発油税、石油ガス税、航空機燃料税、石油石炭税、自動車重量税、登録免許税、電源開発促進税、印紙税、地方法人特別税

今回報道されたのは贈与税の徴収共助であることから、報道にある「租税条約」とは税務行政執行共助条約のことと思われます。

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昔は各国が自国の管轄を主張し合ったために、課税の空白(場合によっては二重課税)が生じたりしていました。
最近は少ないパイを奪い合うより、みんなで協力して「取れるところから取りましょう」という国際協調主義に変わってきています。
各国の制度の隙間をついた財産隠しや課税逃れは無くなりはしないものの、だんだん難しくなってくると思います。

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