Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant
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取締役の不祥事と税務

ゴーンさん、暴走しちゃったんですね。…
真相究明はこれからですが、こういうことが起きると、民事・刑事責任だけでなく、会社と取締役の課税関係についても影響がでてきます。

取締役の責任

まずは、課税関係の前提となる法律関係から確認します。

民事上の責任

取締役は会社との間においては委任契約の関係にあり(会社法330条)、委任契約上の受任者の義務としての善管注意義務を負います(民法644条)。
また、善管注意義務の他、会社法上、職務遂行に当たり会社のための忠実義務が定められています(会社法355条)。

「善管注意義務」とは取締役の知見を活かして会社のために期待されるべき注意を果たす義務、「忠実義務」とは会社の犠牲の下自己または第三者の利益を図ってはならない義務のことです。
つまり、取締役は、株主から会社経営を託された立場にあり、会社に対して善管注意義務と忠実義務を負っているということです。

取締役が上記の各種義務に違反した結果、会社に損害を与えてしまったときは、会社に対する債務不履行として損害賠償責任を負います(同法423条1項)。

刑事責任

善管注意義務・忠実義務に違反したからといって、それがいきなり刑事罰の対象になるわけではありません。
単なる不注意(過失)のレベルを超えた悪質な義務違反が刑事責任の対象となります。
この刑事責任は民事責任は別個のものですから、刑事処分を受けたことを理由に損害賠償責任が免責されることもありません。

横領罪・業務上横領罪

取締役の権限を逸脱して会社の財産を自己の占有下に移した場合、つまり着服をした場合は横領罪(刑法252条)が成立します。
「財務担当取締役」など会社の財産管理に関する職務を担当する取締役については、より重い業務上横領罪(刑法253条)が成立することも考えられます。
単純横領罪は5年以下、業務上横領罪は10年以下の懲役刑に処せられます。

特別背任罪

取締役が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、特別背任罪が成立します。
取締役が与えられた権限を濫用して会社に損害を与えた場合に適用されます。
10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するとされます(会社法960条1項)。
組織経営に重要な役割を果たす取締役が背任を行った場合、通常の背任より責任が重いと考えられることから、背任罪(刑法247条)とは別に会社法で加重した罰則です。

本件の場合

ゴーン氏とケリー氏が逮捕された直接の嫌疑は有価証券報告書虚偽記載金融商品取引法197条1項1号違反)という刑事犯です。
その他、報道によれば、ゴーン氏は会社の資金で自宅を購入したり、家族旅行の旅費を会社に負担させたりしていたといわれています。
これが事実とすれば、「自己の利益を図る目的で、取締役の任務に背く行為」をしたとの誹りは免れません。

会社の取締役は、法令を遵守して職務を執行する義務も負っていますから、もし金商法・会社法違反の罪で有罪判決を受ければ、刑事責任だけでなく民事上の責任も負うことになります。
個人として刑に服すると同時に会社に与えた損害を賠償する必要があります。

会社の責任

さて、会社はどうすべきでしょう?
会社に生じた損害は究極的には株主の損害を意味しますから、株主の利益を保護するために会社は不祥事によって会社に損害を与えた取締役に対して損害賠償を請求すべきです。
取締役が不法行為につき善意かつ無過失である場合は、総株主の同意(会社法424条)や会社定款の定め(同法426条)によって免責されることがありますが、勝手に免責することは許されません。

会社に生じた損害の範囲をどう考えるかは難しいところですが、少なくとも横領・背任によって会社が受けた損害は対象になります。
日産の代表取締役である両氏が金商法違反でも有罪となれば、個人だけでなく会社も7億円以下の罰金刑(金商法207条1項1号)を受けますから、場合によっては、会社が支払った罰金も損害賠償の対象に含めることになるかもしれません。

法人税法上の取扱い

会社に生じた損害

法人税法22条は「当該事業年度の損失の額」(3項3号)を損金に算入すると規定しています。
先述のとおり、取締役の不祥事によって会社に損害が発生したときは、会社は取締役に対して損害賠償請求権という「債権」を有することになります。
建前上、受けた損害は取締役によって賠償(穴埋め)されるはずですから、会社には「損失」はないということになります。
したがって、不祥事によって会社に損害が生じた事業年度で、その損害を「損失」として損金算入することは認められません。

取締役が任意に賠償しない場合は民事訴訟を提起して支払を求めることになります。
裁判が長期化し、確定判決を得るまでに何年もかかるかもしれませんし、会社が勝訴しても取締役に賠償できるだけの資力があるとも限りませんので、損害賠償請求権は不確実な債権といえます。
しかし、通常の売掛債権などと同じく、取り立て不能な状態、すなわち「貸し倒れ」になるか、債権放棄するまでは損金算入できません。
それまでは、税務上は未収入金として計上し続けるしかないのです。

取り立て不能となった請求権

取締役から賠償を受けられずあきらめることになることもあります。
本件とは前提が異なりますが、法人税基本通達に以下のような解釈が示されていますので、これにならって「貸し倒れ損失」か取締役に対する「給与」として取り扱うことになると思われます。

9-7-16 法人が支出した役員等の損害賠償金
法人の役員又は使用人がした行為等によって他人に与えた損害につき法人がその損害賠償金を支出した場合には、次による。

(1) その損害賠償金の対象となった行為等が法人の業務の遂行に関連するものであり、かつ、故意又は重過失に基づかないものである場合には、その支出した損害賠償金の額は給与以外の損金の額に算入する。
(2) その損害賠償金の対象となった行為等が、法人の業務の遂行に関連するものであるが故意又は重過失に基づくものである場合又は法人の業務の遂行に関連しないものである場合には、その支出した損害賠償金に相当する金額は当該役員又は使用人に対する債権とする。

9-7-17 損害賠償金に係る債権の処理
法人が、9-7-16(2)に定める債権につき、その役員又は使用人の支払能力等からみて求償できない事情にあるため、その全部又は一部に相当する金額を貸倒れとして損金経理をした場合(9-7-16(2)の損害賠償金相当額を債権として計上しないで損金の額に算入した場合を含む。)には、これを認める。ただし、当該貸倒れ等とした金額のうちその役員又は使用人の支払能力等からみて回収が確実であると認められる部分の金額については、これを当該役員又は使用人に対する給与とする。

不祥事を起こした取締役が退任した後に放棄した債権が「役員給与」となるかどうかは検討を要します。
債権放棄によって元取締役が得る経済的利益は、もはや取締役としての職務の対価ではないと考えれば、全額損金に算入できます。
しかし、利益を得たのは不法行為の時という考え方もありえます。この場合は、取締役時代に不法行為によって利益を得ていたのであるから「役員給与」として損金不算入(法人税法34条)になります。
事案ごとに個別に判断せざるを得ないと思います。

所得税の取扱い

債権放棄した金額のうち「給与」扱いになる部分については所得税の源泉徴収が必要です(所得税法183条)。
といっても、現金で支給する給与ではありませんから、源泉徴収する「元」がありません。
債務者本人に源泉税相当額を払ってもらうのが原則的な対応ですが、非現実的です。
払ってもらえない場合は、源泉徴収後の金額が放棄した債権額になるように支給総額を逆算するしかないでしょう。

債務者側は給与所得につき所得税の確定申告が必要です。

消費税の取扱い

損害賠償金は、通常は資産の譲渡等の対価に当たりません。
ただし、実質的に資産の譲渡等にあたるものが損害賠償の対象に含まれている場合は、その部分について課税・非課税・免税の判定を要します。
消費税基本通達に事例が示されています。

5-2-5 損害賠償金
損害賠償金のうち、心身又は資産につき加えられた損害の発生に伴い受けるものは、資産の譲渡等の対価に該当しないが、例えば、次に掲げる損害賠償金のように、その実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲渡等の対価に該当することに留意する。

(1) 損害を受けた棚卸資産等が加害者(加害者に代わって損害賠償金を支払う者を含む。以下5-2-5において同じ。)に引き渡される場合で、当該棚卸資産等がそのまま又は軽微な修理を加えることにより使用できるときに当該加害者から当該棚卸資産等を所有する者が収受する損害賠償金
(2) 無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する損害賠償金
(3) 不動産等の明渡しの遅滞により加害者から賃貸人が収受する損害賠償金

ゴーン氏の場合、「自宅」の明渡しが遅れると日産側で「非課税売上」の計上が必要になるということですね。

***

ゴーン氏については、これまで得てきた経済的利益について個人所得税を適切に申告していたのか疑わしいところもあるようです。
検察の次は国税当局に事情を聞かれることになるのでしょう。
日産も法人税について多額の修正申告が必要になるのではないでしょうか。
アクセルを踏みすぎたゴーン氏が一番悪いんですけど、ブレーキをかけることができなかった他の取締役・監査役にも責任があるはずです。
司法取引で免責してしまって本当にいいのかという気もしますが、そうでもしなければ立件できないくらい巧妙に仕組まれているのかもしれません。

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