Takashi Yamaguchi, English Speaking Japanese Tax Accountant

法定調書について

申告書や年末調整に比べると地味な存在ですが、「法定」というくらいですからそれなりに重要な資料です。
「源泉徴収票」と「支払調書」をまとめて「法定調書」と呼んでいるようです。
法人の決算期とは無関係に暦年ベースで作成しなければならないので、けっこう作るのが面倒な資料です。
そんな地味で面倒な「法定調書」が本日のテーマです。

目的

「調書」という名が示すように受け取った税務署側でその後の調査に用いられることが予定されている資料です。
支払いを受ける側(所得者)が任意に申告・納税をするとは限らないので、支払をする側に調書を提出させて、どこの誰がどのような収入を得ているかを税務署に知らせることが目的です。
無申告者を特定するだけでなく、提出された申告書と法定調書を照合して申告もれがないかもチェックしているようです。
国税庁ホームページによると2018年4月1日現在60種類の調書が存在します。
そのうち半分くらいは金融機関が提出義務者になっているものです。
お金の預け先に報告させることで効率的に所得者を特定しようという趣旨と思われます。

もっとも、提出した調書がどれほど税務当局で活用されているかは全く不明です。
毎年大量に提出される調書を有効活用するには、それをデータ化する必要があります。
現在税務署がどのくらい時間をかけてデータ化しているかも不明ですが、電子申告が普及するにつれ、調書の活用も高度化すると思います。
特に、個人番号が導入された現在では、調書と申告書データの照合は容易になっているはずですから、申告もれはすぐに特定されることでしょう。

主な法定調書

一般的な事業者にとっては以下の調書が定番になると思います。

  • 給与所得の源泉徴収票(所得税法226条1項)
    2通作成し、1通は給与の支払いを受ける人、もう1通は税務署に提出します
    税務署への提出期限は翌年1月末です。
    本人への提出も原則翌年1月末ですが、退職者には退職から1月以内に提出です。
  • 退職所得の源泉徴収票(同法226条2項)
    2通作成し、1通は給与の支払いを受ける人、もう1通は税務署に提出します
    税務署への提出期限は翌年1月末です。
    退職者には退職から1月以内に提出です。
  • 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書(同法225条1項3号)
    翌年1月末までに税務署に提出します

また、不動産を借りたり、売ったり、仲介手数料を支払ったときは以下の調書の提出も必要です(同法225条1項9号)。
ただし、個人は不動産業者に該当しない限り提出義務はありません。

  • 不動産の使用料等の支払調書
  • 不動産等の譲受けの対価の支払調書
  • 不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書

以上の調書は支払いを受ける者ごとに作成し、そのサマリーシートとして「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」も税務署に提出することになっています。

さらに、会社が株主に配当を払った場合は、以下の調書も提出が必要です。

  • 配当、剰余金の分配、金銭の分配及び基金利息の支払調書(同法225条1項2号)
  • 配当等とみなす金額に関する支払調書(同法225条1項2号)

非居住者との取引に関する調書

非居住者(個人)または外国法人に支払いがあると以下の調書の提出も必要になってきます(所得税法225条1項8号)。
有名な企業でも、実際の支払先になっている取引相手は子会社・関連会社であることが多いようです。
調書に記載する取引相手の名称、住所などは契約書等で確認しましょう。

  • 非居住者等に支払われる組合契約に基づく利益の支払調書
  • 非居住者等に支払われる人的役務提供事業の対価の支払調書
  • 非居住者等に支払われる不動産の使用料等の支払調書
  • 非居住者等に支払われる借入金の利子の支払調書
  • 非居住者等に支払われる工業所有権の使用料等の支払調書
  • 非居住者等に支払われる機械等の使用料の支払調書
  • 非居住者等に支払われる給与、報酬、年金及び賞金の支払調書
  • 非居住者等に支払われる不動産の譲受けの対価の支払調書

外資系企業のインセティブ・プランに関する調書

外国親会社等が国内の役員等に供与等をした経済的利益に関する調書(所得税法第228条の3の2)
日本の子会社の役員・従業員が、外国の親会社株式のストック・オプション
や親会社株式の株価にリンクしたボーナスの支給を受ける場合などに提出が必要です。翌年3月末(非居住者分は翌年4月末)までに税務署に提出します。

国外財産に関する調書

支払者ではなく本人に提出義務があるという点で変わり種の調書です。

  • 国外財産調書
    合計額が5,000万円を超える国外財産を有する個人は翌年3月15日までに税務署に提出しなければなりません(内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律第5条第1項)。
  • 財産債務調書
    1億円以上の「国外転出特例対象財産」を有する個人は翌年3月15日までに税務署に提出しなければなりません(内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律第6条の2第1項)。
    「国外転出特例対象財産」とは有価証券等、未決済の信用取引・デリバティブ取引等のことです。

罰則

法定調書には、税務署でのチェックのためだけでなく、所得者に対して「無申告・申告もれはすぐバレる」というプレッシャーをかける役割もあります。
有効にプレッシャーをかけるために法律で提出義務を課し、未提出や虚偽記載があれば1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます(所得税法242条5号)。

市区町村に提出する資料

給与所得について「給与支払報告書」(地方税法317条の6)、退職所得について「特別徴収票」(地方税法328条の14)を市区町村に提出しなければなりません。
住民税の課税事務に使用されます。
「源泉徴収票」のカーボンコピーですが、法律上は別物です。
ややこしいことに提出免除の要件が源泉徴収票と異なりますのでご注意ください。

提出方法

法定調書(源泉徴収票・支払調書)は税務署へ、給与支払報告書・特別徴収票は市区町村へ、それぞれ提出する必要があります。

電子申告(e-Tax、eLTAX)で提出することもできます。
2017年1月から給与支払報告書及び源泉徴収票の入力様式が統一され、eLTAX(地方税ポータルシステム)からまとめて市区町村と税務署に送信できるようになっています。

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昔は年末調整後の法定調書の作成・提出作業は大変でした(ブログ「親孝行は会計事務所泣かせ?」参照)。
今なら、eLTAXに連動した給与計算ソフトを使えば作業は終わります。
これに慣れたらもう紙ベースでの提出には戻れないでしょうね。

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