タイトル画像はきのう事務所近くで見かけた看板です。おそらく3月決算法人なのでしょう。日曜にもかかわらず事業年度末日の営業終了後に棚卸しをするなんて、実に真面目です。
ということで、本日のテーマは棚卸資産の評価です。
棚卸しが必要な理由
「棚卸し」とは?
そもそも「棚卸し」とはなんでしょう?
卸・小売業をされている方であれば、ご存知と思いますが、在庫を持たない商売をされている方にはピンとこないかもしれません。
棚卸しは、商品などの棚卸資産の数量を実際にカウントする作業です。
カウント際にする商品等の現物を棚から下ろすことが多いので「棚卸し」と呼ばれるようになったのでしょう。
品数が多いと大変な作業になりますし、支店・営業所があれば、それぞれで実施しなければなりません。
在庫管理をしっかりしている企業は、決算期だけでなく定期的に棚卸しをしているようです。
トヨタ自動車の「カンバン方式」による部品発注管理で知られるように、厳格な在庫管理は余分な棚卸資産を減らすという経営管理にも役立ちます。
売上原価を算定する
法人・個人を問わず商人なら「もうけ」を計算する上で「売上原価」を算定する必要があります。
売上原価は売れた商品の仕入れ値のことです。
仕入れた商品が全部売れたという単純な例であれば、仕入高=売上原価になります。
実際には、期末に売れ残った商品があるのが普通でしょうから、その場合は、仕入高ー期末棚卸高=売上原価になります。
さらに、前期から繰り越してきた売れ残り品がある場合は、期首棚卸高+仕入高-期末棚卸高=売上原価になります。
このように売上原価を算定する過程で、商品等の棚卸高を知る必要があるのです。
売上原価は決算だけでなく所得税・法人税の税務申告にも用いられる金額ですから、正確な決算・申告は正確な棚卸しにかかっているといえます。
減損・減耗を把握する
棚卸高は帳簿などの記録によっても把握できますが、現物の残高が記録どおりとは限りません。
例えば、商品管理台帳などで期末在庫が100個あるとなっていても、実際に棚卸しをしてみたら96個しかなかったということはありえます。
その場合は、4個がどうなったかを調べる必要があります。
展示品・サンプルとして倉庫から持ち出されたのか、盗難・破損でなくなってしまったのか…など、数が合わないのは単なる「記録もれ」なのか「物理的な滅失」なのかを突き止めて、その結果に応じた処理をしなければなりません。
特に物理的な滅失は、不可抗力(災害など)によるものか、人為的なもの(盗難・破損など)なのか、商品の特性上やむを得ないもの(時間の経過とともに蒸発する、容器に浸透するなど)なのか、によって対策まで考える必要があります。
また、数だけでなく、品質をチェックする意味でも棚卸しは役立ちます。
陳腐化したもの(時代遅れ)や劣化品は正価販売は難しくなります。
廃棄するか値引き販売するかなど、その後の販売計画を考える上でも棚卸しによって実態を把握しておくべきです。
評価方法
では、何をもって「棚卸高」という金額を把握(評価)するのでしょう?
これには「原価法」と「低価法」の二通りがあります。
原価法
取得価額(実際の仕入値)を基準に評価する方法です。
低価法
取得価額と期末時点での価額(時価)を比べて、いずれか低い価額を基準に評価する方法です。
この方法を使うと、棚卸資産の時価が下落傾向にある場合は、値下がり分が「売上原価」に吸収されます。
つまり、原価法にくらべて売上原価が多めに算定されるので、利益が少なめに計上される結果になります。
この方法は税務上有利(課税所得を少なくできる)というメリットがありますが、時価を合理的に算定できないような場合には不向きです。
時価が公表されているなど、一般的な取引価格を容易に知ることができる棚卸資産に限って使える方法だと思ってください。
取得価額(払出単価)の算出方法
原価法・低価法ともに「取得価額」が評価額算定の基礎になります。
実は、この取得価額の出し方が結構大変なのです。
同じ種類の棚卸資産を大量に継続して反復して仕入れている場合、仕入値は一定ではないのが普通でしょう。
そうなると、仕入値がバラバラのものをいつ・どれだけ払い出したといえるのか、一定のルールのもとに決めておかなければ、期末在庫の仕入れ値は決まりません。
その一定のルールとして会計上・税務上ともに認められているのが次の6つの方法です。
個別法
個別に現物の仕入と払い出しを把握する方法です。
高価な棚卸資産(不動産、貴金属、宝飾品など)はこの方法によるのが一般的です。
シリアルナンバーなどで個々の現物とその取得価額を特定できることが前提の方法です。
先入先出法
「さきいれさきだしほう」と読みます。
先に仕入れたものから先に払いだしたものと仮定する方法です。
比較的最近仕入れたもので期末在庫の取得価額が構成される結果になります。
総平均法
(期首棚卸高+当期仕入高)÷その総数=期中平均仕入れ値を求め、それを取得価額とする方法です。
単純平均なので計算は簡単ですが、一時期の大量仕入の影響によって平均仕入れ値が時価と乖離しうるという欠点があります。
移動平均法
仕入れの都度、(その直前の平均仕入れ値+新たな仕入高)÷その総数=その時々の平均仕入れ値を求め、それを取得価額とする方法です。
常に最新の仕入れ値が反映された加重平均単価が取得価額になるので、売上原価・期末棚卸高ともに仕入れ値の変遷に即した合理的な金額になりますが、計算が大変です。
最終仕入原価法
最後に仕入れた仕入れ値を取得価額にする方法です。
期末棚卸高が最新の仕入れ値で評価されるので、財産評価の観点からは合理的といえますが、実際の仕入れ値との乖離によって売上原価(期間損益)が歪められます。
売価還元法
棚卸資産の期末時点の販売価格をもとに期末棚卸高を計算する方法です。
値入率(仕入れ値に上乗せする利益の仕入れ値に対する割合)が類似する商品ごとにグルーピングし、その売値に原価率をかけて平均仕入単価を求め、それを取得価額にする方法です。
スーパー・コンビニ・百貨店など、取扱い品種が多く、品種ごとに仕入原価を把握できない業種で用いられることが多いようです。
POSシステムなどで売価管理されている商品に向く方法です。
実地棚卸しは必須です!
先にも触れたように、仕入れ・在庫が増えるにつれ帳簿と実数に差がでてくるのが普通ですし、陳腐化は帳簿を見ただけではわかりません。
また、頻繁に棚卸しをすることで、横流し(横領)に対する牽制にもなります。
決算・申告のためだけでなく、内部統制や販売管理の観点からも定期的に実地棚卸しをすることが望ましいと思います。
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ヤマグチの妹の旦那さんのご実家では一頭ずつ名前を付けて牛を飼育していました。
肉牛も棚卸資産です。
今思うと、愛情というより在庫管理(個別法)のための名前だったのかもしれません。
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